バイロンはお好き?

バイロンを超現代的に解釈・注釈・日本語訳するブログ

ここでは狼が吠えている、鷲が嘴を砥いでいる

2009年11月22日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編


42
夜が明ける。そして、それとともに険しいアルバニアの山々が、
暗いスリの岩山が、そしてピンダスの内陸の峰が、
半ば霧をまとい、雪のように白い渓流に露を結び、
たくさんの薄暗い紫色の筋で装って
現れる。やがて、たなびいている雲が途切れると、
山の民の住居をあらわにする。
ここでは狼が吠えている、鷲が嘴を砥いでいる。
猛禽類や猛獣、そして荒くれ者どもが現れて、
辺りに嵐を巻き起こし、暮れゆく年を震撼させる。

XLII.

Morn dawns; and with it stern Albania’s hills,
Dark Suli’s rocks, and Pindus’ inland peak,
Robed half in mist, bedewed with snowy rills,
Arrayed in many a dun and purple streak,
Arise; and, as the clouds along them break,
Disclose the dwelling of the mountaineer:
Here roams the wolf―the eagle whets his beak―
Birds―beasts of prey-and wilder men appear,
And gathering storms around convulse the closing year.

dawn:[動](自)〈夜が〉明ける, 〈空が〉白む e.g. The morning dawned. 夜が明けた。(= The day broke.)
Suli’s rocks:「現在のGreece北西部、Ambracian Gulfの北、Epirus地方南部にある峻険な山並み。」(田吹)
Pindus’ inland peak:「ギリシア中央部を南北に延びる山系。」(東中)
bedew:((しばしば受身))((文))…に露を結ばせる;…を(露・涙・汗などで)ぬらす((with ...))
snowy:雪のように白い
rill:((詩))小川, 細流.
Array:((文))…を(…で)装う, 盛装する((in ...))
dun:((主に詩))薄暗い, 陰気な. 灰褐色の, 焦げ茶色の.
streak:(…の)筋, 線, しま, 稲妻, 光線((of ...))
*主語= stern Albania’s hills, Dark Suli’s rocks, and Pindus’ inland peak、述語動詞= Arise。
mountaineer:山地の住人, 山国の人
whet:((文))〈刃物などを〉とぐ
beak:(鳥の)くちばし;(特に猛鳥類の曲がった)口先.
Birds―beasts of prey:猛禽類、肉食獣(猛獣)
convulse:…を激しく震動させる;…に動乱[騒動]を起こさせる

古代のあの山の影のもとを

2009年11月21日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編

41
しかし、レウカディアの遙かに突き出た嘆きの岩の上高く、
宵の明星を目にしたとき、そして
実らぬ恋の最後の場所に望んだとき、
彼はただならぬ熱情を感じた、あるいは感じたと思ったのだ。
そして古代のあの山の影のもとを
壮麗な船舶がゆっくりと進んで行くとき、
ハロルドは大海の陰鬱な流れを見つめていた、
そしていつものようにもの思いに沈んではいたが、
彼の瞳はより穏やかにみえたし、蒼褪めた額には幾分皺が寄っていないようだった。

XLI.

But when he saw the evening star above
Leucadia’s far-projecting rock of woe,
And hailed the last resort of fruitless love,
He felt, or deemed he felt, no common glow:
And as the stately vessel glided slow
Beneath the shadow of that ancient mount,
He watched the billows’ melancholy flow,
And, sunk albeit in thought as he was wont,
More placid seemed his eye, and smooth his pallid front.

projecting:[形]突き出た
resort:(人の)よく行く所((of ...))
stately:堂々たる, 威厳のある, 風格のある, 荘重な, 壮麗な
wont:[形]((叙述))((形式))〈人が〉(…し)慣れて, (…するのを)常として((to do)) e.g. I was wont to listen to the radio while reading. いつも本を読みながらラジオを流していた.
albeit:[接]((文))…ではあるが(although);…であろうとも(even though).
placid:静かな, 平静な, 穏やかな, 落ち着いた
pallid:〈顔が〉青ざめた;〈光が〉青白い;(色が)淡い
smooth:〈人・感情などを〉静める, なだめる((down)).

秋の優しい夕暮れのこと

2009年11月20日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編


40
貴公子ハロルドが遠くにレウカディアの岬に望んだのは、
ギリシアの秋の優しい夕暮れのことだった。
そこは彼がずっと見たいと望み、離れたくなかった場所だった。
ときおり彼はかき消えた戦争の光景を目にした、
アクティウムの海戦、レパントの海戦、致命的なトラファルガーの海戦。
しかし、彼はちっとも心を動かされなかった。
なぜなら、(彼は幾分縁遠い不名誉な星に生まれついたから)
血みどろの争いや、雄々しい戦いに喜びを見出さなかった、
むしろ殺害者の生業を厭い、軍隊の人間を笑い飛ばした。

XL.

’Twas on a Grecian autumn’s gentle eve
Childe Harold hailed Leucadia’s cape afar;
A spot he longed to see, nor cared to leave:
Oft did he mark the scenes of vanished war,
Actium―Lepanto―fatal Trafalgar;
Mark them unmoved, for he would not delight
(Born beneath some remote inglorious star)
In themes of bloody fray, or gallant fight,
But loathed the bravo’s trade, and laughed at martial wight.

hail:…にあいさつする;…を歓迎する;…を熱烈に是認する
afar:((文))((通例~ off))遠くから, 遠くに
Leucadia:レウカディアの岬。(サッポーが身投げした場所。)
Actium:ギリシア西部の岬。アンブラキア湾の西の入り口にある。ここで紀元前31年、オクタヴィアヌスがアントニウスとクレオパトラの海軍を破って、ローマの内乱に終止符をうった。
Lepanto:1571年、ギリシア中部のレパント沖で、オスマン帝国の海軍とスペイン・ポルトガル・教皇などの連合艦隊との間に行われた海戦。オスマン側が敗北。
Trafalgar:トラファルガー(岬)スペイン南端西岸の岬; 1805年, この沖合で英国の Nelson がスペイン・フランス連合艦隊を破った
fray:けんか, 口論, 争い


謎めいたサッポーよ!

2009年11月19日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編


39
貴公子ハロルドは航海した。そして悲しみのペネロペが
波間を見下ろした、不毛の場所を通り過ぎた。
そしてその先に見えた、あの丘は、今も忘れられていない
恋する者の隠れ家であり、あのレスボス人の墓。
謎めいたサッポーよ! 不滅の詩行は、
不滅の炎を吹き込まれたその胸を救えなかったのか?
たとえ永遠の命が、大地の子が熱望する唯一の天国である
竪琴(つまり詩)を待ち望んでいるのだとしても、
永遠の命を与えた彼女は生きられなかったのか?

XXXIX.

Childe Harold sailed, and passed the barren spot,
Where sad Penelope o’erlooked the wave;
And onward viewed the mount, not yet forgot,
The Lover’s refuge, and the Lesbian’s grave.
Dark Sappho! could not Verse immortal save
That breast imbued with such immortal fire?
Could she not live who life eternal gave?
If life eternal may await the lyre,
That only Heaven to which Earth’s children may aspire.

Penelope:《ギリ神話》ペネロペ:Odysseusの妻で貞女の鑑(かがみ).
Lesbian:(女性の)同性愛の。ラテン語Lesbius(L sbosレスボス島+-ios形容詞語尾)+-AN. この島に住んでいたギリシャの女流詩人サッポー(Sappho)が同性愛者だったことから。
Dark:〈意味が〉難解な, なぞめいた;不明瞭(めいりょう)な, あいまいな
imbue:(感情・思想などを)しみ込ませる, 吹き込む((with ...))

アルバニアの土地よ!

2009年11月09日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
38

アルバニアの土地よ!アレキサンダーが起ち上がったところ、
若者の話題の中心、賢者の指針、
そして彼と同じ名前の者が起ち上がったところ、敵は何度もくじかれ、
彼の勇敢な行動の前に縮みあがった。
アルバニアの土地よ!私にお前に目を向けさせよ、
荒々しい男たちの厳しい乳母よ!
十字架は傾き、お前の光塔は立つ、
そして、それぞれの町の中の、糸杉の木立ちを通って
青白い三日月がその谷間に輝く。



Iskander: ①Alexander the Greaat (356-323 B.C.)アレクサンダー大王
②Scanderbeg(スカンデルベグ: 1405-68)のトルコ語名。アルバニアの英雄で本名はGeorge Kastrioti。アルバニアの部族長の息子で、オスマン帝国に対してゲリラ戦法を用いて戦った。
beacon: 指針、指標となる人、のろし、合図の火、航路標識
baffle: くじく、裏をかく、困惑させる
chivalrous: 非常に勇敢な、騎士道的な
emprise: 企て、冒険、剛勇
rugged: きびしい、乱暴な、ごつごつした、いかつい
minaret: 光塔、ミナレット《イスラム教寺院の尖塔》

原文

Land of Albania! where Iskander rose,
Theme of the young, and beacon of the wise,
And he his name-sake, whose oft-baffled foes
Shrunk from his deeds of chivalrous emprise:
Land of Albania! let me bend mine eyes
On thee, thou rugged nurse of savage men!
The cross descends, thy minarets arise,
And the pale crescent sparkles in the glen,
Through many a cypress grove within each city’s ken.

《メモ》
  イスカンダルって、アレクサンダー大王のことなんですね。『戦艦大和』の歌にある「イ~スカンダルへ」ってどういう意味なんでしょ?

親愛なる自然は

2009年11月08日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
37

それでも親愛なる自然は、穏やかな姿を、いつも変え続けているが、
それでももっとも優しい母だ。
その露わな胸元から、私に思う存分与えてくれ、
お気に入りではないが、決して乳離れしない子供である私に。
ああ、彼女の荒々しい姿は一番美しい、
お上品なものが、彼女の行く道を汚そうなどとはしないところで。
彼女は、昼も夜も私に微笑んだ、
私は他の誰もがそうしなかったときに、彼女に注意を向け、
そして彼女をさらにもっと求め、その厳しさを愛したのだが。



one’s fill: 欲しいだけ、思う存分
wean: 乳離れさせる、引き離す、捨てさせる
pollute: 汚す、不潔にする、堕落させる
mark: 注意を払う、みなす
wrath: 激怒、憤り、厳しさ、暴威

原文

Dear Nature is the kindest mother still,
Though always changing, in her aspect mild;
From her bare bosom let me take my fill,
Her never-wean’d, though not her favour’d child.
Oh! she is fairest in her features wild,
Where nothing polish’d dares pollute her path:
To me by day or night she ever smil’d,
Though I have mark’d her when none other hath,
And sought her more and more, and lov’d her best wrath.

哀愁をおびた「悲しみ」に導かれて

2009年11月07日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
36

去れ!歌の途中でぐずぐずしてはいけない、
まだまだ辿らねばならない山中の道が、
そして航海せねばならないさまざまな岸があるのだから、
「作りごと」ではなく、哀愁をおびた「悲しみ」に導かれて―
人がそのわずかな考えの中で、
今まで想像したこともないような美しい土地が。
人間がどうなれるか、あるいはどうあるべきか教えるために、
新しい「ユートビア」のなかで、予言された土地が。
もしもあの堕落したものが、そのように教えられるのであればだが。



loiter: ぶらつく、道草を食う、ぐずぐずする
tread: 歩く、踏みつける
pensive: 憂いに沈む、もの思わしげな、物思いに沈んだ、悲しげな
clime: ⇒climate: ⇒region: 地方、地域
mortal: 人間の、この世の、死ぬべき運命の
scheme: 計画、組織、機構、体制、概要、図式
Utopia: 理想郷、理想の国
ared: ⇒areadの過去、過去分詞; 予言する、述べる、推測する

原文

Away! nor let me loiter in my song,
For we have many a mountain-path to tread,
And many a varied shore to sail along,
By pensive Sadness, not by Fiction, led-
Climes, fair withal as ever mortal head
Imagin’d in its little schemes, of thought;
Or e’er in new Utopias were ared,
To teach man what he might be, or he ought;
If that corrupted thing could ever such be taught.

《メモ》
  六行目の’its little scheme’は、訳しにくかったです。とにかく「人間のちっぽけな頭の中で想像できる中で、一番美しい土地」と解釈しました。

優しくも残酷に

2009年11月06日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
35

これは古くからの教えだ。時がそれを真実だと証明している。
そしてこのことを最もよく知っているものが、いちばん嘆くのだ。
すべての者が求めたいと思っているものを、すべて勝ち得るなら、
つまらない戦利品など、払った犠牲の値打ちもない。
若さは浪費され、精神は堕落し、名誉は失われる。
それらがお前の成果なのだ、成功した「恋情」よ!
もしも、優しくも残酷に、若い時の「望み」が妨げられると、
その病は最後まで、心の痛みとなり、
「愛」が喜ばしいものでなくなる時が来ても、癒されることはない。



deplore: 嘆き悲しむ、悼む、遺憾に思う、悔いる
woo: 求める、懇願する、(男が女に)求婚する、口説く、言いよる、
paltry: けちな、つまらない、くだらない
fruit: 産物、所産、結果、成果、報い
crost: ⇒cross(ed): 妨げる、邪魔をする
rankle: 苦々しい気持ちにさせる、心の痛みとなる、恨みを残す、怒りを覚える、うずく

原文

‘Tis an old lesson; Time approves it true,
And those who know it best, deplore it most;
When all is won that all desire to woo,
The paltry prize is hardly worth the cost:
Youth wasted, minds degraded, honour lost,
These are thy fruits, successful Passion! these!
If, kindly cruel, early Hope is crost,
Still to the last it rankles, a disease,
Not to be cur’d when Love itself forgets to please.

《メモ》
  二行目、三行目の訳がちょっと苦しいですね。それと九行目は、「愛とか恋とか感じないほど、年取って枯れても」ということを意味するのでしょうか。