German Vintage Modules

ドイツ等のビンテージ業務用録音機材紹介、ラッキング、モディファイなど。

RFT MV810 - 修理の内容と近年思うこと 3

2024-04-11 20:34:05 | vintage gear

入力基盤

前回の続きです。

手持ちの部品類に代替可能なゲルマニウムトランジスタがなかったため、知人の独テックに相談するもRFT製はおろかロシア製の代替品もほぼ絶望的との回答でした。

ロシア国内には当時のデッドストックもあるようですが、折しも経済制裁の真っ最中で大手クレジットカードやPaypalも停止されており、DHL等の物流も取り扱いが停止されているため、半導体と言う事もあり輸送が補償され無事に届く確率はかなり低くなります。

余談ですが、新設したPSUに使用するトロイダルトランスも製造元の操業停止など戦争の煽りを受けて、同じメーカーでも中身が変わっていたり、納期未定だったりで、求める性能を満たすものはなかなか手に入りにくい状況が続いています。

そんな八方塞がりの状況でしたが、偶然にも後輩のエンジニアが自身の機材用にストックしている事が判明してどうにか状況は好転します。

出力基盤

簡易テスターで壊れてなさそうなものを20個程、半ば無理やり分けて貰って来たのですが、テスト回路では動いても実装する段になると、ヒートクリップを使用しようが電光石火の半田付けでも、、、熱には弱いとは聞いていましたが、古いゲルマニウムはこれ程までとは思いませんでした。

数もあっていくつかのペア取りも出来たので、両ch共に同じ所は交換してオリジナルはスペアにしようと目論んでいましたが、結果的にはペア取りの作業も徒労に終わり、問題のAC122のみを交換する事になりました。

そのような経緯からも、正常なモジュールのオリジナルGC118に熱を加えるのはどうしても避けたいので、抵抗やらコンデンサーやら丈夫そうなパーツを外して、どうにか回路からセパレートして数値を計測します。ペア取りから漏れた中に幸運にもいくつか近似値のものがあったのでヒートクリップを複数付けて、それごと冷やしてからビビりながら実装したのは内緒です(笑)

以上のような経緯を経て紆余曲折の修理でしたが、キャリブレーションは割とスムーズに完了し、正負非対称の波形も改善し、クリップレベルも左右揃い、音質・フェイズもステレオで使用しても聴感上、測定値ともに違和感ない所まで仕上げる事が出来ました。

全てオリジナルパーツのMV810の印象より、電解コンデンサーは全てリキャップしているため多少デラックスな響きになっているような気がしますが、MV810のエッセンスは充分に残しており、オーナー様のスタジオでNEVE 1073とのブラインドテストでも良い勝負になったとのコメントを頂戴しました。

最後に、修理と言っても様々な考え方があります。壊れて音が出ないものを単純に音が出るようになれば良いとの考え方や、また小数点単位の測定値にこだわったり、プロのエンジニアが業務で使用しても良いと思える位に仕上げるとなると相当な費用が掛かる事も少なくありません。

 

"Reverb"と言うサイトは、ebay枯渇後にビンテージ機材を途切れる事なく市場に提供し、またその価格を大幅に引き上げた功績は大きいとは思いますが、それに安易に便乗した悪質なセラーが多く存在し、ガラクタとも思える機材が高額で出品されているのも残念ながら散見されます。

海外では高額アイテムの場合、購入前に出品物に対してフォーラムでディスカッションしているのも良く見掛けますが、国内では人気機種で割安となると「我先に、、、」と競走も激しくなるためそれも難しいと思いますので、大きなお世話かも知れませんが、少しでも良いものを手に出来るよう審美眼を養い、セラーとのコミュニケーションも含め、確かな価値ある機材を選択して頂ければと願っております。

 

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