自閉症の娘は約1年前に県立特別支援学校を卒業しました。今は作業所と生活支援施設に通っており、毎日を忙しく過ごしています。
週に二回通う作業所では、ボールペンを組み立てたり、マスク周囲の毛羽(ケバ)を取り除いたり、という簡単な作業をさせていただいて、少額ではありますが毎月のお給金も頂戴しております。
昨年の某日。娘が初任給とともに帰宅した時は、我が家はもう大コーフン状態でありました(親だけ)。
うそっ? 給料もらってきたの? やったー!
こんな嬉しいことはありません。まさかA級障害者である娘が外で仕事をしてお金を稼いでくる、なんて思ってもいなかったのです。
妻と私は、
よかったねー! えらかったねー! 今夜はおごってね!
と誉めそやし、3人でラーメン屋に行って楽しく食事をしました。
娘本人は「作業をこなして給料をもらってきて、そのお金で両親に食事を振る舞っている」なんて複雑なことは理解できず、そしてその初任給もラーメン3杯には少々足りないものではありましたが、親孝行をしてもらったと勝手に考えています。
さて、作業を通じて手先が器用になってきたのか、最近は変なことに凝るようになってきました。
衣類のボタンをかけるんです。
洗濯したシャツをハンガーにかけて干しておくと、いつの間にかボタンが全部かかっています。外出から帰ってきて、脱いだ上着を椅子の背にかけておくと、これもボタンをかけられてしまいます。
どれも娘の仕業です。狭い穴に物を通す、という作業が好きなのか、幼少の時分から穴の開いたビーズに糸を通すなどの作業にも熱中していた娘です。
よほど楽しいらしく、ハンガーにかかっているものだけでなく、ヒトが着用している衣類のボタンにも固執するようになってしまいました。
私がシャツを着る時、ボタンは上から二つくらいかけないままにしていますが、娘にはそれがだらしなく見えるのか、私の喉元を下から覗き込むようにして無理矢理かけられてしまいます。
ボタンだけでなく閉まっていないファスナーも気になるようです。
例えば筆記用具などを取り出すためにバッグのファスナーを開けてそのままにしておくと、すかさずファスナーを閉めます。
困るのは街中の無関係のヒトビトのカバンのファスナーまで勝手に閉めようとしてしまうこと。例えば外食時、隣のテーブルで食事をなさる方のバッグが開いているのに気付くと、素早く近づいて閉めようとします。赤の他人が無断でバッグに触る、という状況には誰もが驚きます。慌てて娘を止めて謝罪しますが、やはり困惑するヒトが多いです。
強く叱っても一向に止めようとしないので、このボタンかけやファスナー閉めには楽しみだけではなく、どうも強迫観念のようなものがあるような気がします。
よくわかんないんですけどね。