うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

公務員制度の改革

2013-04-16 08:05:38 | 政治・行政


デフレ脱却を目指すアベノミクス第一弾の金融緩和は大成功でした。しかし、総理も認識しているように、金融政策だけでデフレ脱却をするのは容易なことではありません。90年のバブルの時ですら、消費者物価はほとんど上がらなかったことを考えれば、なおさらです。消費者物価を上げるには、輸入可能な物の価格ではなく、輸入不可能なサービスの価格を上げるしか方法がない。サービスの価格の大部分を占めるのが賃金です。つまり、デフレ脱却には、3本の矢の最終的な効果として、賃金が上がらなくてはならない。

そこで、お願いです。デフレから脱却するための一助として、公務員の賃金体系を変革してはいかがでしょうか。

現在、公務員制度改革について5月頃に提言がされるとの報道がありますが、過去の経緯からして、賃金体系が課題とは認識されていないと思われます。しかし、天下り等の公務員制度改革の根幹は、実は、一見無関係に見える賃金体系にあると愚考します。

アベノミクス第3の矢の成長戦略の一環として、産業競争力会議で、解雇規制の緩和を含む雇用の流動性の議論が行なわれています。しかし、解雇規制の問題は、単独で論ずるべきではなく、労働制度全体の改革の中で論じなければなりません。たとえば、非正規労働者の増殖は、正社員の解雇規制が厳しいからこそ生じた現象です。そして、非正規労働者の賃金に対する下落圧力が高いことこそが、デフレの主要な原因です。

安部総理は、同様の認識に立ち、経済界に賃上げを要請しました。しかし、競争圧力に直面している経済界が、単なる言葉の要請に素直に従うことは困難でしょう。そこで、民間の労働慣行にも絶大な影響を持つ公務員の労働関係を改革することにより、競争力会議の民間労働関係改革を支援することが可能ではないでしょうか。

公務員の賃金体系の何が問題か。それは、世界に類を見ない年功賃金体系をとっていることです。現在の日本の公務員制度の原型は、戦後アメリカが、自国制度を移植したものだ。それは、職階制と呼ばれ、現在も地方公務員法に言葉だけは、残っている。しかし、この職階制は、日本では運用停止された上、なんと、2009年、国家公務員法からは、削除されてしまった。(注)

職階制の内容は簡単で、公務員の職務を分類し、同一職種には、同一賃金を支給するというものだ。同一労働・同一賃金という世界標準の制度が何故活用されなかったのか。それは、日本の上級職公務員が部内昇進と年功賃金制度によっていたからだ。職階制は、上級公務員が昇進する場合、試験を受け能力を証明することを要求した。このため、自動昇進に慣れていた官僚には、評判が悪かった。また、全く不知の業務に就くローテーション人事は、不可能になる。

変わって実現したのは、それまで、エリートにしか適用なれなかった官僚の終身雇用制度を戦後民主化の掛け声とともに、すべての公務員に適用したことだ。かくて、すべての公務員が、昇進しなくても無限に昇給する俸給体系が形成された。高齢の一般事務員が、課内で最高の給与を貰うというようなことが生じた。(余談ではあるが、数年前までは、国家公務員に定年退職制度がなく、よぼよぼの爺さんが、最高給を食みながら、茶飲み話をするために霞ヶ関に通勤していた。職階制では、職務を果たせなくなれば解雇されるので、定年制はない。それを、労組が悪用していた。)

現在の日本の年功賃金制度は、グローバル経済に於いては、不適合な産物と化した。同一労働同一賃金の世界標準、いや経済原理からずれている。非正規労働の増加も、この無理な制度に起因する。労働法の改正で、根本を改めずに、5年を超えて雇用する非正規労働の正社員化を義務つけたが、5年の期限内に熟練した非正規労働者を解雇する副作用が蔓延し、非正規労働者をかえって苦しめている。熟練非正規労働者を失う企業にとっても痛手だ。

公務員改革は、天下り規制や労働基本権など、マスコミ受けする問題に目が奪われがちで、政府の改革もそちらを向いている。しかし、根本は、労働制度全体、とりわけ賃金制度が重要と考えます。

公務員制度改革の方向は、職階制を復活させ、公務員にも、世界標準の同一労働、同一賃金の原則を適用することだろう。記述された職務を果たせない公務員、当該職務が不要となった公務員の解雇(職種転換が出来ない場合)を明定すべきだ。人事院がすべきことは、職種ごとの賃金を調査し、政府に勧告することだ。年功に基づいた現行俸給表と昇給慣行を全面的に破棄すべきだろう。

管理職については、職務記述に基づき課長以上については原則公募制にすべきだろう。ただし、他省庁を含む部内応募を可能とする。大学教授等からの転職も容易になり、公職の高度化・専門化が図られることになる。現在一種試験のより採用されている将来の中核人材は、企画職として現行と同じ試験制度により採用するが、課長公募等に合格しなければ、昇進は課長補佐まででとすればいい。管理職の公募制が原則となれば、天下りは、自動的に解消する。(自衛隊等一部の公務員は、部内限定の公募制とする。)

冒頭述べたように、この公務員改革により、競争力会議で議論されている人材流動化策を公務員については、先取することになる。公務員の労働市場が変われば、民間労働市場も変わらざるをえない。まさに、日本を取り戻すことに資することになろう。

なお、別論になるが、デフレ脱却についてのもう一つの提言がある。それは、現在無秩序に流入している外国人単純労働者を制限することだ。賃金水準は、基本的に労働需給で決まる。チャイナ等から流入する名ばかり留学生や名ばかり研修生は、日本の非熟練労働者の職を奪い、賃金水準を下げ、将来の人生設計を破壊している。流入制限により、賃金水準は上がり、デフレ脱却が実現し、労働を通じた訓練により将来の社会の安定に寄与するだろう。

制限には、農業や中小企業者を中心に反対論がでるだろう。曰く、日本の若者は、いくら賃金をあげても集められない、と。しかし、それは、十分賃金を上げていない言い訳だ。そして、賃金を上げられない産業は、廃業か低賃金国に退出すべきだろう。


なお、小生のブログに、同じ趣旨を書いてますので、ご参考まで。
http://blog.goo.ne.jp/urakusp/e/92ede978f9e6f5bb3b30626a8f193d03
http://blog.goo.ne.jp/urakusp/e/8969fc79af84f38add42c7a41902a51e

また、アベノミクス第2の矢に財政政策に関しては、次のブログがあります。
http://blog.goo.ne.jp/urakusp/e/4cc3993205deaab05f3a2862b7f3ec14


(注)Wikipediaの職階制についての記述
「法律上の規定
地方公務員においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する職について、同一の資格要件を必要とするとともに、かつ、当該職に就いている者に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように定められた制度をいう。職は、その職階により分類整理を行わなければならないとされている。
導入の経緯および現状 [編集]
職階制は、アメリカ合衆国で広く用いられている制度であり、日本の公務員制度においては、第二次世界大戦降伏後に連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ/SCAP) により導入された。
しかしながら、職階制は終身雇用を基本とする日本の雇用慣行と相容れない制度であるため、国家公務員・地方公務員ともに実施されていない(アメリカ施政権下の琉球政府において実施されたのみである)。
具体的には、人事院規則六―一(格付の権限及び手続)(昭和二十七年四月一日人事院規則六―一)に「職階制の実施に伴い別に指令で定める日の前日までは、格付、格付の変更又は格付の改訂については、その効力を停止するものとする。」という経過規定(同規則第11条)が設けられ、職階制の実施は事実上凍結され、2009年4月1日には国家公務員法等の一部を改正する法律の施行により廃止され実施されることはなかった。
地方公務員についても、第166回通常国会に、内閣提出法律案として地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律案が提出されたが、同法案に対し当時の野党である民主党などが天下りを容認する規定も含まれているなどとして反対し、廃案となった。」

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