東京災害支援ネット(とすねっと)

~おもに東京都内で東日本太平洋沖地震の被災者・東京電力福島第一原発事故による避難者支援をおこなっています~

【要望書21】中間指針に対する意見書(対原賠審、東京電力)

2011年09月27日 17時17分06秒 | とすねっとの要望書

とすねっとが作成した中間指針に対する要望書を執行いたしました。

 

「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」に対する意見書

 

とすねっと要望書第21号

平成23年9月27日

原子力損害賠償紛争審査会 会長 能見善久 殿

東京電力株式会社 社長 西澤俊夫 殿

東京災害支援ネット(とすねっと)

代表 弁護士 森 川  清

(事務局) 〒170-0003東京都豊島区駒込1-43-14

SK90ビル302森川清法律事務所

TEL0120-077-311  FAX03-6913-4651


第1 意見の趣旨

1 原状回復,完全賠償の見地から,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」について,主に以下の点を改めるべきである。

① 「必要かつ合理的範囲」については,通常の日常生活の場面よりも柔軟に解釈すべきであり,損害拡大防止義務も安易に要求すべきではない。

② 避難区域等内外を問わず,賠償の対象とすべきである。

③ 精神的損害に対する慰謝料は,低額に過ぎるので,改めなければならない。

④ 生活費増加分は,すべて精神的損害に対する慰謝料とは別の賠償の対象とすべきである。

⑤ 財物の客観的価値の範囲内であるか否かにかかわらず,除染費用は支払われるべきである。

2 東京電力は,1を踏まえ,中間指針の範囲にとどまらず,加害責任に基づき原状回復,完全賠償を行うべきである。


第2 意見の理由

1 はじめに

 当団体は,主に都内で東日本大震災の被災者を支援する活動に携わっている弁護士・司法書士・市民等のボランティア・グループであり,インターネット(ブログ)やニュースレター「とすねっと通信」などを通じて被災者に必要な情報を提供したり,都内や被災地の避難所や電話での相談活動を行っている。


2 福島原発事故による被害回復の原則[原状回復と完全賠償]

 平成23年3月11日に発生した福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所にける事故(以下,「本件事故」という。)は,広範囲にわたる放射性物質の放出をもたらし,現在もなお終息の目処はたっていない。

 そして,多くの人々が,避難生活を余儀なくされ,あるいは,事業活動の断念を強いられてしまい,日常生活,地域コミュニティー,環境までもが破壊され,いまだに回復の見通しすら立たないどころか,被害が拡大している状況にある。

 本件事故は,決して想定外の災害による事故ではない。過去に多くの専門家,市民から脆弱な防災対策(特に地震・津波)について再三にわたり指摘されていたにもかかわらず,これを無視し続けた結果引き起こされたものであり,事業者である東京電力及び事業を許可し続けた国の加害責任は重大である。

 加害責任を負うものが被害者に対して行なうべきは,被害回復である。第一義的には,原状回復である。被害者の多くは元の生活し,事業を行い,地域社会を復活させることを望んでいる。そして,原状回復し得ない損害に対しては,金銭賠償をしなければならない。そして,本件事故の責任は,東京電力,国にあるのであり,被害者は何ら落ち度のないままに,このような過酷な生活に追い込まれたのであるから,完全賠償がなされなければならない。

 したがって,東京電力及び国は,加害責任を負うものとして,本件事故によって発生した被害の原状回復,回復し得ない被害に対する完全賠償を行なわなければならない。


3 原子力損害賠償紛争審査会による中間指針及び問題点

(1) 中間指針について

 原子力損害賠償紛争審査会は,平成23年8月5日,「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下,「中間指針」という。)を策定した。

 中間指針は,賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を一定程度具体的に明らかにしている。

 しかし,その内容は,完全賠償,原状回復にはほど遠いものである。

 そして,東京電力は,これを踏まえて,本賠償の方針を示したが,その内容は,中間指針以下の内容となっている。

 中間指針の問題点については多岐にわたるが,以下,主立った点について,論ずる。


(2) 「必要かつ合理的範囲」,損害拡大防止義務について

 中間指針は,あらゆる項目において,「必要かつ合理的範囲」が賠償の対象であるとする。また,中間指針の「第2各損害項目に共通する考え方」「1」では,「・・・被害者の側においても、本件事故による損害を可能な限り回避し又は減少させる措置を執ることが期待されている。したがって、これが可能であったにもかかわらず、合理的な理由なく当該措置を怠った場合には、損害賠償が制限される場合があり得る点にも留意する必要がある。」とし, 被害者に対しても損害拡大防止義務を要求している。

 しかし,本件事故の被害者は,何ら落ち度のないままに,突然の甚大な放射能汚染により,生活の基盤を失った者である。しかも,放射能汚染の程度,将来的影響について,

まだ解明がなされていない状況にあるし,東京電力や国からも充分なデータが公表されてきていない。そのため,多くの被害者が不安な状況に追い込まれている。

 したがって,「必要かつ合理的範囲」の判断基準や何を以て損害拡大防止につながるかすら明らかでない。また,こうした不安定な生活状況では,日常生活の場面とは異なり,必ずしも合理的行動をとれないこともあり得る。そして,このような事態は,被害者に帰因するのではなく,本件事故がもたらしたものである。したがって,「必要かつ合理的範囲」,損害拡大防止義務を根拠に被害者に対する賠償を狭めることは完全賠償の見地からも許されない。

 よって,「必要かつ合理的範囲」については,通常の日常生活の場面よりも柔軟に解釈すべきであり,損害拡大防止義務も安易に要求すべきではない。


(3) 避難区域等内外を問わずに賠償をすべき

 中間指針は,「第3 政府等による避難等の指示等にかかる損害について」[対象区域]において,対象区域について,避難区域,屋内退避区域,計画的避難区域,緊急時避難準備区域,特定避難勧奨地点,地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域(以下まとめて,「避難区域等」という。)としている。そして,同[避難等対象者]において避難等対象者として,本件事故後に避難区域等から避難区域等外へ避難等を余儀なくされた者(但し,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。)や屋内退避区域内で屋内退避を余儀なくされた者などとしている。

 すなわち,本件事故時に避難区域等外に生活の本拠があった者については,一律に対象外としている。

 しかし,本件事故による放射能汚染は,避難区域等に止まらず,広範囲に及んでいるのであり,放射能による住民の生命,身体に対する影響は否定し得ない。子どもや妊婦などについては尚更である。

 避難区域等外を生活の本拠としていた者が,自身や家族の生命・身体に対する影響を懸念して避難することは,低線量の放射能についての身体的影響について諸説あるとしても,予防原則にたてば極めて合理的な行動である。

 また,避難していない者にとっても,放射能汚染の影響により,人の流出や事業の悪化などが生じて,日常生活や地域社会に悪影響を及ぼされていることも少なくないし,放射能汚染に対する精神的苦痛も甚大である。

 したがって,避難区域等内外にかかわらず,本件事故による放射能汚染による被害は現実に発生しているのであり,避難区域等外に生活の本拠があった者を一律に対象外とすることは,完全賠償の理念に反するものである。

 よって,避難区域等内外を問わず,本件事故による被害者は賠償の対象とすべきである。


(4) 精神的損害に対する慰謝料が低額である

 中間指針は,「第3 政府等による避難等の指示等にかかる損害について」[損害項目]「6 精神的損害」において,避難等による精神的損害に対する慰謝料について,本件事故から6ヶ月間は一人月額10万円(避難所等においては12万円),6か月から1年までは一人月額5万円を目安としている。

 しかし,この10万円とする根拠が自動車賠償責任保険における慰謝料を参考にした上とするが,交通事故の実務でさえ自動車賠償責任保険の慰謝料は低額に過ぎるとされることに加え,その月額換算分(12万6000円)をも下回っている。また,避難生活の長期化は,被害者の苦痛を強めることはあっても,これを緩和させる事情はないのであり,6ヶ月以降を半額とすることには合理性がない。

 しかも,中間指針は,「第3 政府等による避難等の指示等にかかる損害について」[損害項目]「2 避難費用」において,生活費の増加費用について,原則として,精神的損害と一括して一定額を算定するとし,別個の請求ができないとする。つまり,上記慰謝料に生活費増加分が含まれることになる。

 しかし,避難者の中には家族が分断させられて,生活費,交通費,通信費等が著しく増加しているのが実情である。これを上記慰謝料と一括するということは,上記慰謝料のうち実質的な慰謝料相当部分はより低くなることになる。それどころか,場合によっては,生活費増加分が上記慰謝料を上回るにもかかわらず,賠償がなされないという結果が生じかねない。このような基準は,完全賠償の理念に反する。

 よって,精神的損害に対する慰謝料は改めなければならない。また,生活費増加分についても,別途賠償の対象としなければならない。

 

(5) 客観的価値にかかわらず除染費用を支払うべきである

 中間指針は,「第3 政府等による避難等の指示等にかかる損害について」[損害項目]「10 財物価値の喪失又は減少等」において,財物(動産,不動産等)に関する除染等の費用はについて,原則として当該財物の客観的価値の範囲内のものとする(文化財,農地等代替性がない財物を除く)。

 しかし,文化財や農地等以外にも,例えば築後相当期間が経過した建物などのように除染費用よりも当該財物の取引価格が低額なものはいくらでも存在するし,経済的価値にその所有者にとってはかかわらずかけがえのないものも存在する。

 こうした除染費用を認めないことは,被害回復の基本的理念である原状回復に反するものというべきである。

 よって,除染費用は,当該財物の客観的価値の範囲内であるか否かにかかわらず,支払われなければならない。


4 まとめ

 よって,原子力損害賠償紛争審査会は,今後策定するであろう最終的な提言において,意見の趣旨1に掲げた中間指針の問題などを改善し,東京電力,国の加害責任に基づいた原状回復,完全賠償を実現させる内容にすべきである。

 また,東京電力は,中間指針の範囲にとどまらず,加害責任に基づいた原状回復,完全賠償を行うべきである。

以上

 


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