ナガちゃん(家主さん、80歳)は今回、70~80本ほどのほだ木(1本1メートル)を切り出すつもりでいた。だが、里山の適切な更新のために切るべき木(切らねばならない木)を切っていったら、少し切りすぎてしまったようだ。しかも近年、薪炭用に切ることもなくなり、総じて木が育ちすぎてしまっていた。根もとの直径が20センチ弱くらいの木なら1本の木から適当なほだ木が5~6本取れるのだが、直径30センチ超もあると1本のクヌギからほだ木が10数本も取れてしまう。おまけにこの冬の間に雪や風で倒れた木からも切り出したので、どんどん増えて、ほだ木の数はなんと200本を軽く超えてしまった。私が切り出したのが70数本だったから、ナガちゃんは140~150本も切り出してしまったわけだね。この働きもんが!
ほだ木需要のあった昔なら「儲かったな」となるのだろうが、自分ち用に30本、親戚のところに30本、うちに10本、くらいのつもりでいたから、ナガちゃんも「困ったな~」と頭を抱え込んでしまった。
でもナガちゃんも困ったが、私もまいったなあと思った。谷に転がり落としたほだ木を杣道まで運び出すのはもっぱら私の仕事で、谷底は切り捨て間伐の杉で足の踏み場もないほど。1日目、落ちてきたほだ木を小沢の向こう側へ「えいやーっ」とかたっぱしから放り投げていたら、ナガちゃんから「ほだ木に傷がつくとそこから雑菌が入って早く腐るのでもっと大事に扱うように」とやんわり厳しく注意されていた。そこでオレは考えた。
1日目のナガちゃんの仕事のやり方を見て、フ~ンと思ったことがあった。ナガちゃんは山へ入っていくときもほだ木を運び出すときも、まず簡単な作業道をつけている。これだな、と思った。
例えばこの写真。折り重なる倒木の向こうにほだ木が20本ほどある。
チェーンソーで倒木を切り、枝を払い道をつける。
ついでに切った倒木で小沢に橋を架ける。
こうやれば作業はずっとはかどるし事故やケガもない。仕事がはかどると楽しくもなる。こうしてナガちゃんが落としたほだ木をずんずん杣道に積み上げていった。ナガちゃんはそれをキャタピラーつきの小型運搬機で林道まで運び出す。
全部運び出したあとでナガちゃんに「5く(く=工=工数=仕事量?)はあったなあ。おかげで助かった」とほめてもらった。で、「100本ほど持ってってくれ」と言う。わが家の食糧自給分なら椎茸用5本、ナメコ用5本の10本もあれば十分だ。でもナガちゃんも困り果てた様子。そこでオレは再び考えた。
茸(きのこ)が出るまで2~3年かかる。それまでにどうやってさばくか考えたらいい。きのこ狩りできるこかげカフェってのもいいな。菌打ちしたほだ木のオーナーを募集してもおもしろいかも……。
仕事が終わった次の日、ほだ木を切った山に登ってみた。作業中はゆっくり山や木々を眺める余裕もなかった。大きなクヌギが立ったまま眠るようにそびえ、その間に椎・樫類も多い。落葉と常緑の違いはあるが、クヌギと樫は同じブナ科こなら属の兄弟だ。風は瀟々として冷たく、はるか下方遠くにわが安鳥谷が見える。
一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを(寺山修司)
この日の夜から雪が降り始め、一晩で30~40センチほど積もった。今年はうちらへんでは雪が少なかったが、最後にどかっときた。この雪が溶けたら、たぶん春だ。
ほだ木需要のあった昔なら「儲かったな」となるのだろうが、自分ち用に30本、親戚のところに30本、うちに10本、くらいのつもりでいたから、ナガちゃんも「困ったな~」と頭を抱え込んでしまった。
でもナガちゃんも困ったが、私もまいったなあと思った。谷に転がり落としたほだ木を杣道まで運び出すのはもっぱら私の仕事で、谷底は切り捨て間伐の杉で足の踏み場もないほど。1日目、落ちてきたほだ木を小沢の向こう側へ「えいやーっ」とかたっぱしから放り投げていたら、ナガちゃんから「ほだ木に傷がつくとそこから雑菌が入って早く腐るのでもっと大事に扱うように」とやんわり厳しく注意されていた。そこでオレは考えた。
1日目のナガちゃんの仕事のやり方を見て、フ~ンと思ったことがあった。ナガちゃんは山へ入っていくときもほだ木を運び出すときも、まず簡単な作業道をつけている。これだな、と思った。
例えばこの写真。折り重なる倒木の向こうにほだ木が20本ほどある。
チェーンソーで倒木を切り、枝を払い道をつける。
ついでに切った倒木で小沢に橋を架ける。
こうやれば作業はずっとはかどるし事故やケガもない。仕事がはかどると楽しくもなる。こうしてナガちゃんが落としたほだ木をずんずん杣道に積み上げていった。ナガちゃんはそれをキャタピラーつきの小型運搬機で林道まで運び出す。
全部運び出したあとでナガちゃんに「5く(く=工=工数=仕事量?)はあったなあ。おかげで助かった」とほめてもらった。で、「100本ほど持ってってくれ」と言う。わが家の食糧自給分なら椎茸用5本、ナメコ用5本の10本もあれば十分だ。でもナガちゃんも困り果てた様子。そこでオレは再び考えた。
茸(きのこ)が出るまで2~3年かかる。それまでにどうやってさばくか考えたらいい。きのこ狩りできるこかげカフェってのもいいな。菌打ちしたほだ木のオーナーを募集してもおもしろいかも……。
仕事が終わった次の日、ほだ木を切った山に登ってみた。作業中はゆっくり山や木々を眺める余裕もなかった。大きなクヌギが立ったまま眠るようにそびえ、その間に椎・樫類も多い。落葉と常緑の違いはあるが、クヌギと樫は同じブナ科こなら属の兄弟だ。風は瀟々として冷たく、はるか下方遠くにわが安鳥谷が見える。
一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを(寺山修司)
この日の夜から雪が降り始め、一晩で30~40センチほど積もった。今年はうちらへんでは雪が少なかったが、最後にどかっときた。この雪が溶けたら、たぶん春だ。