『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、観ました。
アメリカの小さな田舎町で、トム・ストールは、妻エディと2人の子供たちと
一緒に幸せで静かな生活を送っていた。ある夜、トムは自身が営む小さな食堂に
押し入った強盗を正当防衛で倒し、従業員の命を救う。その勇敢な行動を
マスコミが取り上げ、一躍ヒーローとなるのだが…。
コイツ(この映画)を生粋のクローネンバーグファンが観たら、どう思う??、
何を隠そう、オイラももう20年来の(隠れ?)クローネンバーグのファンで
あるのだけど、少なくともコイツはオイラの知りうるクローネンバーグの
“ヤバい世界”とはちと違う、アクが抜けてカドが取れたマイルドな仕上がり。
(まぁ、別の意味で“ハード”であるのだがね)さて、これまでのクローネン
バーグの常として、幻覚やら、幻想やら、時に架空の不思議生物まで登場させて、
人間の隠された深層心理を抉(えぐ)り出す、そんなビジュアル趣向の作品が
多かった。ところが、一転、今作では“暴力の連鎖”と、その世界に一度足を
踏み入れた者が”それを断ち切ることの苦しみ”について、これまでになく
メッセージ色の濃い作品に仕上がっている。ぶっちゃけ、まさか今回、あの(?)
クローネンバーグが、夫婦愛やら、親子愛やら、強いては家族愛を前面にした
映画を撮るとは思わなかった。本年度アカデミー作品賞ノミネート‥‥勿論、
クローネンバーグファンがクローネンバーグ作品として観るのはどうかと
思うが、観ながら物語のミステリアスにグイグイ引き込まれていく秀作だ。
ならば、今作でクローネンバーグ的な(?)“粘着したフェチズム”が如実に
表れている場面はといえば、やはり映画の前半と後半、二度に渡って用意された
SEXシーンだろう。まず、前者では、もはや中年にさしかかった妻が、チア
リーディングのコスプレで自分の亭主(主人公)を誘惑する…、いかにも
クローネンバーグらしい嗜好にニヤリ(笑)。(肉体の)老いと(精神の)若さが
交じり合った“気色悪さ"と、その裏に隠された“ピュアな愛情”に、思わず
オレの胸は動揺を抑えきれない(笑)。一方、後者では、一度は心離れながらも
互いの剥き出しの感情をぶつけ合うように絡みつく二人の激しい姿に、胸が
苦しくなった。まぁ、結局のところ、主人公が最後に取った行動(暴力沙汰)が
正しいかどうかなんて、ボクには分からない。ただ、ひとつだけ言えることは、
そこに……、例えば『キル・ビル Vol.1』ような“爽快感”はなく、映画は
“後味の悪さ”が残った。彼を迎える家族に笑顔はなく、そして彼らの心に
“大きな影”を落とした。これで彼は本当に暴力の世界から抜け出すことが
出来たのだろうか??、いや、それとも…。ボクには、彼とその家族の行く手には
再び大きな困難が待ち受けているようで仕方ない。