同時公開もあるが、大阪単館公開ものは、東京より約1~2ヶ月遅れてくる。東京公開を終え、同じフィルム(おふる)が、大阪へやってくるからだ。大阪まできて、次に広島や博多へ流れることもあるが、ほとんどは大阪で上映を終わり、フィルムは東京へ返却される。みんなに観てもらいたいと思う映画の多くは、そういうシステムで、大都市だけで上映されるのだ。忸怩たる思いだ。毎年ベスト10が各賞から発表されるが、そのうちの6本7本が地方まで行かない単館ものだ。そんなものを発表される地方に住む人たちは、なおさら、映画への関心が薄れる。私は日本アカデミー賞が嫌いだが、選考理由が<全国公開>に限定している日本アカデミー賞。駄作をノミネートしながらも、誰でも知っている作品を選考していることのみ、ほめてあげたい。 この映画は1月に東京で上映され、3月に大阪へやってきた。
見事、あっぱれな視点からナチスドイツの世界を描いた秀作である。反政府の社会運動は、日本の戦時下でも度々あった。後に映画化されてもいるが、その人間がどのように捕まり、証言を聞きだされ、裁判にかけられ、処刑されていったかを完全なテーマにしたものを私は知らない。 本作は密室劇である。ほとんど外へ出ない。戦争描写もない。というのに、主演の女優、尋問する刑事の背中に大きな空間ができ、背景が広がっていく。まるで、落語家が一人で喋り、その背景に江戸の町並みが浮かぶように。 戦闘シーン、戦場を描いていないのに、世界は大きく広がる。これこそが脚本の腕の見せ所で、悲惨な外の現実を見せないでも観客に想像させ、実際には見えない頭の中のそれと同時に映画を観る醍醐味を味わさせるのだ。観客の想像と密室劇の同時進行である。密室劇でありながら、ナチスドイツの恐怖をまざまざと見せてくれる凄さ。こういう形で戦争というものを伝えるなんて・・・まいった。<85点>