スクリーンでエマニュエル・ベアールを久しぶりに見た。もう10年くらい前になるのか、やってくるフランス映画がどれもエマニュアル・ベアール主演だったことがある。フランスで一番の女優だった。その頃、ハリウッドに呼ばれ、「ミッション・インポッシブル」にも出演した。が、彼女は何かのデモで逮捕され、しばらく姿を消した。もう彼女を見ることはないのかと思うほどのお休みだった。フランスでは出ていたのかもしれないが、日本にはやってこなかった。「美しき諍い女」「フランスの女」なんて、頭に焼き付いて離れない。秀作をこえて、名作だと個人的には思っている。
本作は、キャストに驚かされる。お祭りのような俳優たちの主演級の競演だ。それに圧倒され、期待するが、期待ほどではなく、地味なフランスの典型とも言える作品だった。大作をハリウッドに任せてしまったフランスが、内容、質で勝負することを決めたのは、もう50年以上前。だが、シネマ、シナリオなんていうフランス語は日本でも使われる。しかし、質より何より、印象深い作品が最近、少なくはないか。フランス国内では、昔の日本の時代劇が流行っている。
この映画の脚本は緻密であり、クレーンバックの俯瞰を多く出し、丁寧に撮られている。しかし、だからといって新しいものは発見できない。出てくる人がすべて切なく淋しい。こらえ切れない感情を抱えている。あまりにもあまりであんまりだから、観る側の気持ちが落ち込む。私は無理に時間を作って映画を観る野郎なので、疲れていたら、30分で寝たかもしれない。「映画を観る時間がない」なんてウソで、時間は作ればできる。私は徹夜が続いたり、忙しい時ほど映画館で映画を観ている。
ラストはやや衝撃的。これは、映画全体をぶっ壊してしまう力があった。ぶっ壊されて、途中の話が小さな小さなことのように思えるが、それも枝葉の根の部分をラストですぱっと言い切ることにある。このラストシーン、台詞の為に、1時間40分を丁寧に観なければならないのだ。観終えた後、そう思った。 印象的だったのは、エマニュアル・ベアールは、まだまだ美しいということだ。作品に恵まれなくなったが。<60点>