萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk52 時計act.2 ―dead of night

2017-12-23 22:05:39 | dead of night 陽はまた昇る
時に想い、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk52 時計act.2 ―dead of night

違う匂い、でも時を刻む、君と買った時計が。

「おー、いい眺めだなあ、宮田はよく来んのか?」

君じゃない声が笑う、でも悪くない。
大らかな笑顔も君じゃない、かすかな汗のにおいも違う。
それでも、こんなふう離れても離れられない自分に笑った。

「2度めだよ、関根は初めて?」
「おう、東京もこんなとこあるんだなあ、」

大らかな声ゆく空、長身の影コンクリートに伸びる。
ジャージまっすぐな背中なぞる斜めの陽、ゆるやかな時間に尋ねた。

「関根は和歌山だったよな、景色いいんだ?」

かちり、かちり、鳴らない時計の音が優しい。
君と買えた腕時計に時を聴く、そんな屋上に同期が笑った。

「いいぞー和歌山、城から空を見るんだ、」

日焼すこやかな横顔なつっこい。
精悍なくせに人懐かしい瞳がふるさとに笑った。

「城からの空もいいんだけどな?俺の家はちいせえ町工場だけど、その屋上で寝転がるのも最高なんだ、」

残暑やわらかな夕の風、声がふるさと紡ぐ。
懐かしい慕わしいトーン温かで、鼓動ほそく細く刺す。

「それって関根、ふるさと自慢?」

笑いかけて心臓ほそい細い痛覚。
これは何という感情か?見つめるまま横顔すこやかに笑った。

「おう、ふるさとが一番だろ?」

ごめん、そんな一番は俺にないよ?

そう言い返したくなって、でも笑顔が眩しい。
羨ましくて眩しくて言えなくなる、言えば惨めすぎるようで。

※校正中
secret talk50 独寝act.4← →secret talk52

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