萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

たまには読者になって

2013-05-15 12:45:00 | 文学閑話散文系
お盆過ぎの青空ひろがる日曜です、こちらは。
ちょっと近場の山へ車走らせてきましたが、濃い緑に入道雲の白が映えて美しかったです。

お知らせ掲示板にさらっとふれていますが・影響を受けた本のこと。
いま読んで下さっている方、お薦めの本はありますか?
自分はマアこんな感じで

司馬遼太郎は『街道をゆく』シリーズの文章が大好きです、あの元編集長なバッサリ切れ味が堪らんです。
特に美しいなあと思ったのは、『奈良散歩』の興福寺阿修羅像について。
阿修羅像のモデルを想像して言及しているのですが、表情と姿から読みとる像の内面表現がすごいなーと。
そして『比叡への道』の「鬱金色の世界」法華大会のルポルタージュになっています、この現場描写は日本語の美をガッツリ魅せて頂きました。
光と影、木履の響く音、密やかな問答の声、蝋燭の煙と香。それから二千年の霊場を漂う不可思議な空気感。
伝統的寺院の持つ特有の「時間が止まった空間」を見事に書き切っていて、惚れます。
ああいう客観的な観察力は新聞記者ならではの、現場を踏む人の力というのか・現物を視て書く凄みを感じます。

自分も実際に比叡山は登りました。
夏の朝からでしたがが、司馬さんも書かれた通りに濃霧が凄まじかったです。
視界は30cmもなく足元すら見えない、音も無く人けも無く、なにか得体のしれない空気が流れて。
衣服に霧が浸みこみ冷えていく、堂にあがれば靴下を透し水気は昇ってくる。
真綿で目隠しされたよう白い霧に包まれて、天も地も無い異世界でした。

で、注意ですが。女性だけでは絶対に行かない方が良いです。
根本中道のエリアはまだしも、最奥の横川はマサに異世界・2000年前の時間が籠められたような場所です。
人間に会うこと自体が少なく山道です、あんなとこでナンカ巻き込まれても誰も援けは来ません。



川端康成は内容はそーでもないですが、情景描写の美を学ばせて頂きました。
『伊豆の踊子』と『雪国』の冒頭は秀逸、中学生の時かな?初めて読んで表現が神だと思いました。中身の恋愛話はマアあれですが。
雪国の夜を表現して「夜の底が白くなった」とある、あれは実際に雪深い街に住むと感覚に迫る描写なんですよね。

井上靖『楼蘭』、『敦煌』も影響受けていると思います。ストイックな文章の底流にある熱っぽさがイイ。
それが顕著だったのが『楼蘭』の一体の女性ミイラ発掘についての行でした。
ただの発掘品としてではなく、ひとりの女性として捉える視点が美しいです。

古典で言えば『今昔物語集』と『万葉集』ですが、どちらも世界観と描写が好きです。
万葉は、自然現象と心理現象の呼応表現に凄みを感じます、古代人の大らかな心理には強靭な美を見てしまう。
今昔は、現代の感覚に近いものが数多く出会える世界です、そして見失いがちな「未知への想い」が楽しい。
特に今昔は「巻第二十七 本朝付霊鬼」の描写がどきどきします、闇への感覚を覚ましてくれる感じで。

こちらは論文ですが、小川和佑先生『桜と日本人』は豊富な種類の桜たちを書分ける描写力が凄いです。
文章の軽快さなら小松和彦先生の『異人論』ほかは読みやすく、怪談なんか好きな人には入門書としておススメです。
掲示板にも触れた高橋崇先生の東北史研究書、こちらはフィールドワークで出会った現物への濃やかな描写が秀逸です。
特に藤原四代のミイラ発掘についてが凄みがあります、優れたミステリーを読んでいくような面白さがあって。



恋愛小説で唯一どかんと来たのは高橋治『風の盆恋歌』です。純愛と現実の哀しさがもぉね、人間って美しく哀しいなあと。
この高橋さんとの出会いは友達から貰った『短夜』でした。

「たまには恋愛小説も読めよ、骨董界が舞台だし読みやすいんじゃね?」

など言われて渡されたので、その帰り道の電車で読んだワケです。
そしたら意外と読みやすかった、男性が描いているからかな?友達が言うよう骨董界=コアな世界だからかな?
いつも読んで下さる方は気付かれていると思いますが、和物って自分は好きなんですよ。
だから骨董も嫌いじゃない、眺めに行くこともありますし、茶の湯は骨董扱うしね。
その辺の好みを良く知っている友達に感謝です、笑

で、他のも読んでみようかなーと手を出したら、和物を美しく描く作家さんで。
それで何作か読みました、北陸平泉寺を舞台にした刀の研磨師の話とか面白かったです。
なかでも心を引っ叩かれたのが『風の盆恋歌』でした、恋愛小説に対する考え方を変えてくれた一冊です。
あー、恋愛小説って恋人同士だけの物語じゃないってとこ書くと面白いんだなー感動するんだなーと。



いちばん最近で面白かったのは、青梅警察署警察医の手記です。
掲示板の資料出典に書いてある本です、明快な文章と吉野先生独自の所見が読みごたえありました。
この小説を書くための資料として探して読んだものですが、出会えてよかった名著だと思っています。
これと同時に面白かったのは、青梅署山岳救助隊副隊長の手記『山岳救助隊日誌』これも資料にさせて頂いています。
とても読みやすく、かつ美しい文章で綴られていて副隊長の人柄を感じさせる名文が多いです。
この副隊長さんを小説の後藤副隊長のモデルにさせて頂いています、なので後藤副隊長エピソードは実話ベースが豊富です。

だらっと書いてみましたが、気になる本とかありましたか?
なにかおススメ本ありましたら教えてください、ジャンル問わずで。

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