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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

高次脳機能障害の方の復職支援

2011年08月26日 | Weblog
精神科では、うつ病や統合失調症、高次脳機能障害などで働けなくなった方の就労支援を手伝うことも多い。
最近は発達障害の方の支援も増えている。

多くはリハビリセラピスト(言語聴覚士・作業療法士)や心理士、PSWや障害者総合支援センターの就労支援ワーカーとともに活動することになる。
発達障害があったり、ひきこもりが長く続いていたり、統合失調症を発症したりで20代~30代ではじめて就労する方の支援も難しいし、うつ病、とくにいわゆる現代型うつ病のリワークも特有の苦労がある。
しかし50代くらいの中途障害の方の就労支援も意外と大変なのである。

高次脳機能障害となった50代の方の中小企業への復職支援に関わらせていただいた。
高次脳機能障害は頭部外傷の後遺症や脳血管障害などによって引き起こされ、事故や疾病の後に、脳の情報ネットワークが障害され一旦獲得した能力が低下する。ワーキングメモリーが障害され、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがみられる。
病識もなかなか獲得できず、感情のコントロールが難しくなったり、危なっかしい行動も多い。
ただ能力の変動や低下を考慮しなくてよいという点では統合失調症や躁うつ病、認知症などよりも感覚としては知的障害や発達障害に近い。

定年間近の50代くらいの年代では、組織の中でわりと重要な立場にいることも多いが、中途障害では、これまでやって来たことの延長線上に期待されていた仕事ができなくなってしまい、本人も家族も人生の計画の変更を余儀なくされる。
子供がまだ社会に出ておらずローンを抱えていたりした場合は悲惨である。
後遺症として生命保険の保険金はおりなかったりということも多い。
障害年金の受給要件を満たしており、年金がもらえるようになったとしても収入はガクンと下がってしまう。

復職に向けPSW、就労支援ワーカーとともに職場を訪問し、社長さんとお話をさせていただいた。
社長さんはこちらの紹介した「日々コウジ中」を、あてはまるところに付箋までつけて熱心に読み込んでくださっていり、さまざまな質問をしてくださり情報交換できた。

本人はしばらく試しで職場にでており表情もよかった。
周囲も徐々に雰囲気はつかめてきているようであった。

現場をみてみて気付いたことは、まずミスをすると大きな事故や損失につながる仕事、重機を扱うような仕事は難しいということだ。
また人とコミュニケーションをとりつつすすめていくような仕事も精神障がい者には困難な場合が多い。

障害者就労の場が多くはパンやクッキーなどの食品関係やクリーニング、箱折り、段ボールなどが多いことの理由が分かった。
しかしそういった単純作業の多くは機械化され、あるいは海外へ移されあまり多くはない。
下請けの作業をあつめている福祉企業センター(授産施設)や作業所での福祉就労となると時給は100~200円。毎日出ても、せいぜい月に1~4万円の収入にしかならない。

医療者は本人の能力をできるだけ正確に評価し今後の見通しをたてる。
本人と職場の希望を聞きつつ、就労支援ワーカーは障害当事者も雇用側もメリットが生まれ幸せになれるように双方の利害関係を調整し、使える制度を紹介し、支援の在り方や働き方を考える。
与えられた仕事の内容が本人の能力よりも高すぎても低すぎても、本人もまわりも辛い思いをする。

障害者雇用促進法にもとづき50人以上の民間企業では障害者(身障、療育、精神保健福祉手帳のいづれかを保持)を法定雇用率の1.8%以上雇わないと罰則があり雇えば多少の報酬がある。

もっとも従業員が50人以下の小さな会社では障害者手帳をもった人をやとわなくても罰則はないし、雇っても補助金はでない。
厳しい経営状況の中、今までの賃金を継続していくことは難しいし、働きに見合った賃金でなければ、他の職員からの不満もでる。
しかし働けなくなったからと解雇にしてしまうと従業員の安心感もなくなりモチベーションも下がる。

「運転は県のリハビリテーションセンターで評価をしてもらった結果でも通勤や買い物くらいにして、業務ですることはやめた方が良いという見解。記憶障害はメモリーノートなどの活用で代償でき、遂行機能障害はコーチをつけたり仕事の内容を構造化することで対応、注意障害はまだ回復するだろう。ただ脳疲労を来しやすく、疲れやすく疲れるとミスも増える可能性はある。しかし障害の特性上、これ以上悪くなるということはないと考えられる。」ということなどをお伝えすると社長さんも多少は安心したようだった。

「なんとか職場の中で仕事を作れると思う。給料は下がるが、作業所よりは給料も出せると思う。本人もうちで残って働く方が幸せだと思う。職員もみんないい人なんですよ。いままで長年、働いて来てくれたし、そういう人を雇い続けているということはカッコいいじゃないですか。従業員も良い会社だとおもって一生懸命働いてくれる。」

といっていただき、うれしかった。


日本でいちばん大切にしたい会社
あさ出版


知的障害者の雇用で有名な日本理化学工業などが紹介されている。

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1 コメント

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脳外科病院で大盛り食事と節電地域の夢庵にて ( 創価学会  Trackback )
2011-08-31 14:16:38
障害者年金を2ヶ月に1度もらい始めました。 でもブログで知った「さかのぼり請求」です。 日本年金機構も年金事務所も役所も教えてくれませんでした。 どうか障害者の方々は「さかのぼり請求」の件を報告し、受け取って欲しく感じてます。

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