21世紀の徒然草

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「to be出版の共創未来」―山極勝三郎人工発がん90周年記念にふれて― 樋野興夫

2005年07月31日 | Weblog
 連日、「アスベストと中皮腫」の話題が報道されている(日本経済新聞夕刊7月15日付参照)。今や、大きな社会問題である。山極勝三郎(1863-1930)人工発がん90周年記念の年に、「アスベストと中皮腫」の問題が再熱するとは、皮肉でもあり、何故に中皮腫の予防は、出来なかったかを、発がん研究者も真剣に考える時であろう。

 20世紀は「がんをつくる」時代であった。日本は化学発がんの創始国である(山極勝三郎:1915年 扁平上皮癌創生、吉田富三:1932年 肝癌創生)。山極勝三郎の命題は、「慢性反復性刺激によって細胞と組織は秩序の乱れ、復旧の乱れを起こし、上皮は不規則となり、発育はついに勝手気ままになる」の作業仮説のもとに、「境遇の感化」をどう実験的につくっていくかであった。つまり、「外から刺激を与えて細胞の中の分子が反応し、その分子が核に刺激を与えて細胞が分裂する。がんは細胞分裂によって起こる」(形成的刺激)の実証である。まだDNAもわかっていない時代のことである。まさに、山極勝三郎の先見性である。

 発がんの3ヶ条は、1)It’s not automatic. 2)It has a process.3)It takes time. である。大成するには、境遇が大切である(がん性化境遇)。つまり、境遇が変われば、同じように遺伝子の異常があっても、がんの発生は大きく違ってくるということである。予防、治療の根拠がここにあると考える。

 山極勝三郎は、「類まれな忍耐を持って、日本の独自性を強く主張し、日本の存在を大きく世界に示した」といわれる。「段階ごとに我慢強く」、「丁寧に仕上げていく」、「最後に立派に完成する」姿勢である。これは「多段階発がんの過程」にも適用されるものでもある。21世紀は、「がんを遅らせる」研究で世界をリードするときである。

 がんの研究の目的は、「人のからだに巣食ったがん細胞に介入して、その人の死期を再び未確定の彼方に追いやり、死を忘却させる方法を成就すること」である。また、同時に「人は、最後に“死ぬ”という大切な仕事が残っている」ことも忘れてはならない。

 新渡戸稲造は死去した1933年に『内観外望』を出版している。「国家百年の計というが、百年はさておき十年先も見えずして我々は、暗夜をたどっている。如何なる大患に当たっても、要は外に方角を過らず、内に正しき決心を有することである。遠きめぐみを有するものには、事実がその意思を援ける」とは、まさに50年、100年を見越したものを言い、実践する「人物」に共通する特徴であろう。

 「いま、わが国に欠けているのは、なかんずく現代を担う青年学徒の心に訴える、そうした理想と、それから生じるヴィジョンと情熱である」(南原繁)の言葉が静思される今日このごろである。

 時代の要請として、また「器」として歴史を動かしていくことが、新たに株式会社となった「to be出版の共創未来」であろう。読者のかたには暖かいご支援をお願いしたい。

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