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「東一族と裏一族」3

2018年07月06日 | T.B.1997年

 はっと

 夢から覚めたような感覚。

 でもまだ、現実と夢がはっきりとしていないような……。

「大丈夫?」

 彼女は篤子に声をかける。

「え? ……ええ」
「さあ、行きましょう」

 いつの間にか、辺りの景色は元に戻っている。
 いつも通りの。
 東一族の市場。

「何、が……?」
「何でもなかったわ」

 彼女は、晩柑を見せる。

 ああ、そうだった、と篤子は晩柑を持つ。

「これから、杏子と晴子と、果物の砂糖漬けを作ろうと、」
「そうだったわよね」

 彼女は微笑む。

 再度、篤子を歩くように促す。

「篤子姉さん!」

 杏子が、彼女とともにやって来た篤子に気付く。

「遅かったから心配しちゃった」
「悪かったわ」
「いいのだけど……」

 どうしたの? と、杏子は首を傾げる。

 篤子と彼女を交互に見る。

「もう大丈夫ね」

 彼女は微笑む。

「ありがとう」
「あとで、砂糖漬けちょうだい」
「もちろんよ」

 杏子が答える。

「じゃあ」

 彼女は手を振り、歩き出す。

 杏子は手を振る。
 その背中を見送って、篤子に云う。

「いったいどうしたの?」
「いえ……」

 篤子はぼんやりと果物を見る。
 思い出せない。

「それに、今の……」
 杏子が云う。
「満樹(まき)兄さんのお母さん、よね」

 何だかよく判らないと云う顔をする。
 杏子と篤子は顔を見合わせる。

「考えても仕方ないわね」

 篤子が云う。

「さあ、砂糖漬けを作りましょう!」

「お待たせ~」

 そこに、遅れていた晴子(はるこ)がやって来る。

「篤子姉さん! 杏子姉さん!」
「待っていたわよ、晴子」
「悪いわ」

 晴子は何かを持っている。
 腕にいっぱいの、晩柑。

「ほら見て! ……ってあら?」

「晴子ったら」
「もう、たくさん準備してあるわよ」

 さらに増えた果物。

 3人は顔を見合わせて、笑う。



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