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「悟と行子」5

2014年10月03日 | T.B.2002年

 次の日も、
 その次の日も、

 彼は、彼女に会いに行く。

 なんてことのない、会話。
 けれども、彼にとっては、十分な内容だった。

 さらに、次の日。

 彼が部屋に入ると、彼女は、中で横になっている。
「どうした?」
 彼女は青い顔で、彼を見る。
 云う。
「たまに、体調を崩すのです」

 彼女は起き上がろうとする。

「そのままでいい」
 彼が云う。
「無理はしないほうが」

 彼女は、上半身を起こす。

「悪いのか」
「いいえ」
「……? 悪いんじゃ、ないのか」
「いいえ。悪いわけでは……」

 彼女は、それ以上、何も云わない。
 彼は首を傾げる。

 云う。

「次期宗主は、来るのか?」
「……いらっしゃいません」
「そうか」
「お目にかかるのですか?」
「いや」
「もし、次男様にお目にかかるのなら」
 彼が云う。
「会わなくて、いいって」

 次期宗主、なのだから
 彼女が何も云わなくても、西一族が来ていると、感づくだろう。

 次期宗主は、それだけの人物と、聞いたことがある。

 けれども
 彼女の周りに、何も変わったところがないのを見れば
 まだ、自分の存在は気付かれていないと云うことだ。

 彼は、彼女の横に坐る。
 自分が持つ羽根飾りを、取り出す。

「これを」
 彼が差し出すと、彼女は受け取る。
「鳥の羽根ですか?」
「そう」
 彼が云う。
「西一族の狩りの証」

「狩りの……」

 聞きなれない言葉に、彼女は、彼を見る。

 東一族は、狩りをしない。
 生き物の肉を食べない。
 羽根自体も、間近で見たことが、ないかもしれない。

「大切なものなのですね」

 彼女は、彼に、羽根飾りを返そうとする。

「いや」
 彼が云う。
「それ、あんたに」
「え?」

 彼女は、慌てる。

「狩りの証なら、大切なものでは」

「それなら、これもそうだろ?」

 彼は、彼女がくれた東一族の装飾品を見せる。

 今では、ただの飾りとして、楽しむこともあるが
 ものによっては、
 家柄を表したり、結婚の相手に贈ったりすることが、あると云う。

 彼が云う。
「これのお礼だから、受け取ってくれ」

 彼女は、羽根飾りを見る。

「ありがとう、ございます」

 彼女は、はにかんで、云う。

「秘密ですね」
「え?」
「ほかの人に云ってはいけない、秘密」

 彼女が、彼を見る。
 笑う。

 確かに、そうだ。

 西一族の装飾品を、彼女が持っていては、いけないのだから。

 彼女は、羽根飾りを見つめ、笑う。



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