TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダ」7

2015年04月28日 | T.B.2001年


マジダは毎日タロウの家に通っている訳じゃない。
彼女は恐らくあちらこちらに遊び場所を持っていて、
タロウの作業小屋はきっと、そのうちの一つ。

遊びに来てもタロウが居なければ
また違う遊び場所へ行くのだろう。

「おや、マジダだ」

今日のタロウは農具整備の仕事に来ている。
いつもの小屋でする作業とは違う。
出張作業だ。

マジダは同じ年頃の子ども達を引き連れて遊んでいる。
何やら新しい遊びを発見しているのだろう。

「おい、そこ持ってろタロウ」

ユウジがそんなタロウを見とがめる。

「作業中によそ見なんてするんじゃねぇ。
 ケガすんぞ!!」

大型の機械整備なので
2人がかりじゃなきゃ出来ないそうだ。
今日は職人であるユウジの『助手その1』なタロウだ。

「はい、すみません」

タロウは作業に手を戻す。

はっきりとは言わないが
ユウジは経験を積ませているのかもしれない。
タロウは彼の弟子ではないが、
そんな存在として扱って認めてくれているのかも……。

「あぁ、なんだ、マジちゃんか」

ユウジ、よそ見!!!!!

「そう言えばお前、
 この前は風邪で倒れたそうじゃないか」

「あぁ、少し寝込んじゃって」

彼にまで話が行っているのか、と
タロウは何だか気恥ずかしくなる。

「マジダと、マジダのお父さんが来てくれて
 ええ、その」

栄養満点とかいう
謎の液体を飲まされたり、
全てが終わった後、ひとりひっそり
家の扉を直した事、とか、色んな思いがよぎったが。

「―――すごく、助かりました!!」

タロウはキレイにまとめた。

「いい人は、誰か居ないのか?
 男のひとり暮らしなんてろくなもんじゃねぇからな」
「身に染みてます」

ふーむ、とユウジはしばらく考え込む。

「なんだ、ウチのかみさんにでも
 聞いてみるかな」

思わぬ方向に話が転がり始めたので
タロウは手元の道具を取り落とす。

「お前、好みとかあるのか」

急展開。

「いや俺、今、そんな風には考えて無くて」

「まぁ、言うだけ言ってみろ
 もしかしたらちょうど良いのが居るかもしれないぞ」
「ええー、あのー」

考えても居なかった話に、タロウは尻すぼみになる。
その気がないのにあれこれ注文を付けるのはユウジに悪い。

いやでも、

これが何かのきっかけになるかもしれない。
そうなるとリクエストは言っていた方がいいの、かも。

「あの、あんまり注文はないんですけど」

「おう」

「家事が得意な人がいいですね。
 俺は料理なんてワンパターンしか作れないし」

「あぁ、食い物は大事だよな。
 ウチのかみさんの料理は美味いぞ」

「あとは、元気な人より
 少し控えめな人が性格も合うかな、と」

「性格の一致、不一致も外せないな」

「あ、性格は大人しめなんですけど
 それでも芯はあるというか」

「お、おう」

「白髪系よりは、黒髪系で
 ショートよりセミロングかロングが好きですね」

「さっき料理って言いましたけど
 苦手な食べ物があっても
 相手の好みに合わせた料理を作ったり」

「そういうの全部、恋人だけじゃなくて
 誰にでもそんな態度で、
 優しさが垣間見えるってのが、また」

いいですよねー、と微笑むタロウに

「……」

ユウジが無言になる。

「あれだな、実際にお目当てが居る様な口ぶりだな」

ゴホン。

「お前、北一族の村に住んでたんだっけな。
 あれだろ、
 その時の恋人か」

隅に置けねぇな!!というユウジに

「違いますよ」

タロウは急に真顔になって言う。

「恋人じゃないです。
 その人彼氏居ましたから」

「………」

ユウジが言葉を無くす。

「「……」」

「この話、……止めとくか」

「そうですね」



「―――って事があってよう。
 おいちゃんドキドキしちゃったぜ」

いつもの職人堅気な表情はどこへやら、
ユウジは先日の出来事をマジダに聞かせる。

マジダはというと
出されたお茶をワイングラスよろしく
波打たせながら言う。

「ははーん、ユウジさん、
 それ心の闇ってやつね」



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「天院と小夜子」15

2015年04月24日 | T.B.2017年

「義母様」

 彼は、顔の前で、手を合わせる。

「近いうちに、西に参ります」
 云う。
「お世話になりました」

「……西、へ?」

 義母は、不安げな顔で、彼を見下ろす。

 義母は、ひとつ高い、屋敷の中。
 彼は、庭に立っている。

「西に、いったい何をしに……」
「務めです」
「まさか……」

 彼は顔を上げる。

 義母を見る。
 義弟の、実の母親。

「どうして、そう云うことに」
「宗主様に、お訊ねください」
「今からでも、取り下げを、」

 彼は首を振る。
 義母から目をそらす。

「いえ。……私から、宗主様に申し上げる」
「無理です」
「でも、」
「義母様からの言葉でも、宗主様は、変わらない」

 彼は、再度、義母を見る。

 彼と同じ、黒い髪。
 当然、義母も東一族だ。

 けれども

 義弟は

 東一族では、疎まれる、白色系の髪。
 西一族と同じ、白色系の髪。

 ――それなのに、自分とは違い、何不自由のない、義弟。

「……何か、西一族に伝えることはありますか」

 その、彼の言葉に、義母は目を見開く。

「なん、ですって」
 義母は、思わず、手を口元にやる。
「今、何て」

「何か、西一族に伝えることはないかと、訊ねました」

 彼が、義母を見る目は。
 その目は、けして、母親を見る目ではない。

 義母は、口を動かす。
 けれども、言葉は出てこない。

 彼から、目をそらす。
 首を振る。

「……ない」

 云う。

「何も、……ない、わ」

 そして

「どうか、行かないで」

 義母の目に、涙があふれる。

「行かないで……」

「俺も、行きたくはありません」
 彼が云う。
「家族と、……彼女を残して、行きたくはありません」

「……どうして、あなたばかり」

 彼は、目を細める。

「どうして?」
 云う。
「それは、あなたのせいです」

「あなたも、同じ、子のように」
「俺は、そう、思ったことがありません」

「……ごめんなさい」

 義母は涙を流す。

 彼は、再度、手を合わせる。

「義母様。どうぞ、お元気でお過ごしください」

 最後に、彼が云う。

「俺は、あなたを一生恨みます」



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「タロウとマジダ」6

2015年04月21日 | T.B.2001年

「……あれ?」

マジダは閉じられた扉を見る。

いつもは開け放たれているタロウの作業小屋だが、
今日はぴっちりと扉に鍵までかけてある。

「ターローウー!!
 こんにちはー!!」

「……」

返事がない。
「大変!!」
取っ手に手をかけたところで、向こう側から声がする。

「マジダ?」
「タロウ!!生きてたのね!!」
「……殺さないでくれマジダ」

扉の向こうでタロウは脱力する。

「ああ、でも、ちょっと具合がね」
「そうなの?風邪?」
「うーん、なんだろうな
 明日もこの調子だったら病院に行くよ」

声に覇気がない。

「今日はごめんね。
 また別の日においで」
「でも、病気なら看病しなきゃ」

「ダメだ、帰りなさい!!!」

タロウは思わず大きな声になる。

「……ごめん……なさい」

あ、しまった
言い方が悪かった、と
タロウは声を抑える。

「マジダに感染しちゃいけない。
 子どもだと大人より酷くなったりするから」

「……うん」
 
マジダの気配が遠ざかる。
しばらくして、扉を開けて、
彼女が帰ったことを確認してタロウはベッドに戻る。

具合は優れない上に
悪い事したな、という罪悪感も併せて視界が回る。
まず
心配してくれてありがとうと言うべきだった。

早く治さなくては。

……ン。

……ポーン。

「?」

タロウは目を開ける。
しばらく寝ていた様だ。
横になって居た分、先程より少し楽になったが
まだまだ全快には遠い。

タロウは再びまぶたを閉じ

「ピンポーン」

「???」

タロウは思わず起き上がる。
ちなみに彼の家にインターホンは付いていない。

「ピンポポーン」

あぁ、これは
人の声でピンポンと言っている。
出たら面倒くさいやつだ!!!
タロウは布団に潜り込み目をつぶる。

が。

ばこーん!!

何かがはずれた。というか
蹴り飛ばした音がした。扉かな。
タロウは病とは違う頭痛を感じる。

「看病!!」
「来たぜーーーー!!」

マジダ&マジダ父――――――!!!!!

「子どもはダメだと言うから
 大人を連れてきたわ」
「ええっと」
「大丈夫だぞ、マジダはきちんと家に帰すし、
 俺が付きっきりで看病してやるからな!!」
「……ウチの扉……」

もう、いっそ、
医者を連れてきて欲しかった。

「タロウ、他には??
 私は本当に何もしなくて大丈夫?」

凄く遠く離れた所からマジダが言う。
タロウの言いつけを守っているらしい。

「あぁ、それなら
 水をくんで来てテーブルに置いててくれるかな
 喉が渇いたから」

分かった、と頷くマジダに
今度こそタロウは言う。

「マジダ、今日はありがとう」

「えへへ、どういたしまして」

マジダ1人じゃ背が届かないのか
よいしょーっと抱え上げているマジダ父がちらりと見えた。

家族って良いな。

「じゃあ、栄養がつくように
 色々と入れるかー」

マジダ父は何やら色々持っている。
入れるって何に?
頼んだのは水だったんだけど?

家族―――親子なのである。
マジダ父は、マジダを育てた父なのである。

信じられない食材がちらほら
視界の端に映りつつ、

いよいよ目が回り始めたのを感じて、
タロウは
明日こときちんと病院行こう、そう心に誓った。


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「天院と小夜子」14

2015年04月17日 | T.B.2017年

「おい」

 彼は、屋敷の外に出ようとした義弟を、呼び止める。

 その声に驚いたのか、義弟は固まる。

「ああ。……天院」
 少しだけ、義弟が振り返る。
「久しぶり、だね?」
「お前、彼女の装飾品をどうした?」
「え?」
 義弟は苦笑いする。
「そんなことより、怪我は治ったのー?」

「……彼女の装飾品をどうしたかと、訊いたんだ」

「あの子の装飾品?」

 義弟は少し、考える。
「えーっと。どうしたっけ?」
 彼は、義弟を見る。
「うーん。どうしたっけなー」
 義弟も、ちらりと彼を見る。

「もう、見つからないところかなぁ」

「…………」
「忘れちゃったよー」
「どこにやった」
「だから、判らないって!」

 義弟が云う。
「だって、あの子の装飾品たいしたことないんだもん」
 義弟は腕を上げ、自身の装飾品を見せる。
「高位家系のとは、比べられないほどね!」

 義弟の手元で、高位家系の装飾品が揺れる。

「……あれ?」

 義弟は、彼を見る。

「天院の装飾品が、ひとつしかないじゃないか!」
 云う。
「僕より、いいものを持っているくせに!」

 彼は、何も云わない。

 義弟は、はっとする。
「ひょっとして、あの子にあげたの?」
 云う。
「そうなんでしょ!?」
 彼は、答えない。
「ねえ、ちょっとは答えて! 天院の装飾品はどうしたの!」

「……彼女に渡した」

「ばかなことを!」

 義弟が騒ぐ。

「高位家系の正式な装飾品を、使用人にあげただって!?」

 義弟は、彼を見る。
 彼と目が合う。

「そんなだから、西に行けとか、云われるんだよ!」

 義弟は思い出したように、あざ笑う。

「あーあ。天院にはもう会えないねぇ。西から帰って来ないんでしょ」
 彼は、頷く。
「残念だなぁ」

「俺も残念だ」

「そう?」

 彼が云う。

「お前の息の根を止めることが出来なくて」

「わっ!」

 義弟が、再度笑う。

「怖いねぇ、天院。……でも、そんなこと出来ないよ」
「なぜ?」
「なぜって、自分が一番判ってるくせに」
 義弟が云う。
「天院は、一族の中でも強い方だけれど」
「…………」
「天院には呪術があって、僕にはないからね!」
「もし、呪術がなかったら?」
「うーん」

 義弟は少し考える。

「そんな、怖い天院を、あの子に教えてあげたいね!」
 義弟が云う。
「あの子も、天院とお別れでどうするのかなー」

 彼は、義弟に背を向ける。
 歩き出す。

「あ、」

 彼が向かう方向を見て、義弟が声をかける。

「母さんのとこにも、あいさつ行くの?」

 彼は振り返らない。

「天院、元気でね!」



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「タロウとマジダ」5

2015年04月14日 | T.B.2001年
「おはよう、タロウ。
 今日もお仕事少なそうね!!」
「……やぁ、おはようマジダ。
 挨拶の後半はいらなかったな」

「ちょうど良いわ、おでかけよ。
 40秒で支度しな!!!」

今回はお出かけ回です。

タロウはマジダに引っ張られる様に
彼女の後に続く。
南一族は農業の村だが、
中心地にはそれなりにお店も並ぶ。

商店はここに集まるし、
ユウジの農具整備の店もこの並びだ。

一方タロウはというと、
村はずれに小さく作業小屋を構える程度の規模だ。
やる気あるのかと言われると確かにそうです。

「お買い物♪おっかいもの♪」

前を歩くマジダの家は
ちょうどタロウとは正反対の村はずれだ。
いつもウチまで来るのは大変だろうに。
そう思いながらタロウはマジダの背中をゆっくりと追いかける。

「あら、マジちゃん
 今日はタロウさんと一緒なの?」

通りすがりの誰かがマジダに声をかける。

「そうなの、お供同伴よ」
「あらまぁ、それは頼もしいわね」

その瞬間、すれ違う大人同士で
目線の会話が行われる。

ご苦労様、頑張って!!
はい、慣れっこです!!

どうやら、マジダのやんちゃ具合は
村でも評判なのだろう。

確か今のは学校の先生だったかな。

「タロウさん家だけじゃなくて
 たまにはウチにも遊びにおいで!!」
「はーい」

それでも、沢山の人がマジダに声をかける。
良い事だ。
あれ?でも、ちょっと待てよ。

「タロウ、ここ、
 ここに寄るのよ!!」

タロウがなにか考えかけたとき、マジダが彼を呼び止める。
指さしたのは菓子を売る店だ。
やっぱり甘い物が好きなんだなぁ、と
タロウは一緒に店に入る。

「いらっしゃーい、あら
 マジちゃんにタロウさん」
「こんにちは」
「おばさーん、いつものやつ」

はいはい、と
店主がこの店の看板商品を袋に詰める。

「今日はね、7個詰めてね!!」
「マジダ、そんなに食べきれるの??」

南一族特産の豆に砂糖を加えて煮込んだ物で
餅米を包んだ、伝統のお菓子だ。

「大丈夫!!今日は7個要るの!!」

マジダがお財布を出しかけたので
タロウはそれを制して代金を払う。

「あら、タロウさん太っ腹ねぇ」

店主はおまけで一つ加えてくれる。
合計8個に増えた。

「ぶーー!!」
お店を出るとマジダは頬を膨らませる。
「私が払うんだったのに!!」
「いいんだよ。子どもは遠慮しないで。
 でも、ちゃんと全部食べるんだよ」

「大丈夫、今日はこれお家で食べるの。
 おばあちゃんと、お父さんと、お母さんと、
 上の弟と、下の弟と、私と」

ふむふむ、家族へのお土産か、
下の弟ってまだ小さかったよな、
食べ……られるのだろうか。

んん?っと頭をひねるタロウにマジダが続ける。

「それにタロウだったのだけど、
 もう一つ増えたからどうしようかなー」
「わぁ、俺にもくれるんだ、ありがとう」
「だから私が払うのだったのに!!」

さて、こっちよ、と
マジダは商店街を抜けて歩き出す。

「マジダ、次は何処に行くの?」
「私のお家」
「お家かぁ。―――おうち??」

「今日はね、ご招待なの。
 この前の小刀のお礼よ。
 タロウ、ウチにいらっしゃい」

なるほど、これはその時のお茶菓子か。

「でもマジダ。
 俺ちゃんとお代は貰ったよ」
「あんなの全然出来上がりと釣り合って無いじゃない。
 それくらい私にも分かるのだからね!!」

それにね、と
念押しする様にマジダが言う。

「好意は遠慮せず受け取る物よ」

なるほど、とタロウは笑う。

「それじゃあ、お邪魔しようかな」


「おおお、マジダが本当に連れてきたぞ。
 よろしくなタロウ!!俺、アスカ!!」
「……どうも、いつもお世話になっております」
マジダ父、声が大きい。
「こちらこそー、うちの子がお世話になってます。
 さぁ、タロウさん上がっていってね」
「……」

「なぁに、タロウ。
 母さんに惚れたの??」
「いや、そうじゃなくて。
 あのさぁ、マジダ」

タロウは頭を抱える。

「なによ?」
「この前からちょっと気になっているのだけど」

タロウは気がついてしまった。
この違和感に。

「なんか、
 みんな俺の事、タロウって呼んでない?」

整備屋のユウジも。
今日すれ違った村人達も。
マジダの両親までも。

「タロウはタロウでしょう?」

それはタロウが彼の本名であればの話だ。

そもそもタロウとは
マジダがつけたタロウのあだ名だ。
それがなぜ村中に広まっているのか。

「いいじゃない、タロウの方が合ってるのだから」
「あ、えーっとね、そうじゃなくてさ」

タロウは考えた。
マジダの納得できる様な、
論破できるなにかを。だが。

「……もう、タロウでいいや」

あきらめた。


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