「どうした?」
マユリの助けを呼ぶ声に気付き、ナオトがやって来る。
「ナオト様!」
マユリは、ナオトに駆け寄る。
「村の外に何かが!」
「何か?」
ナオトは村の外を見る。
「何かって、何だよ?」
「判らないんです!」
「落ち着けって」
ナオトが云う。
「息を整えるんだ」
マユリは目をつむる。
胸に手を当てる。
息を吸い込む。
「……アキラ様が、何者かに怪我を負わされて」
「アキラが?」
「それが、海一族ではないかと」
「海が?」
マユリは頷く。
「そんなばかな」
「でも、絶対に身内ではありません」
ナオトは再度、村の外を見る。
「アキラはそれを追っていったのか?」
「おそらく……」
マユリはうなだれる。
「海一族か……」
ナオトは呟き、手を上げる。
一羽の鳥がそれに答える。
ナオトの鳥。
「マユリ」
「はい」
「俺の名を使っていいから、とにかく、上に報告しろ」
「判りました」
「俺は、アキラを追う」
「お願いします」
ふたりは、同時に走り出す。
雨が降り続いている。
この雨はやがて山を下り、海へと向かう。
山を下りる形のナオトは、雨と併走していることになる。
「どこまで行ったんだ。あいつ!」
森は暗い。
ナオキは山の斜面を利用し、山を下る。
先を飛ぶ鳥を追う。
「このままじゃ、海にたどり着くぞ」
夜の雨で、視界はいっそう悪い。
「っ!」
思わず、ナオトは立ち止まる。
そこに
「まじかよ」
大きな、動物の死体。
あたりに、死臭。
「いったい誰が」
山一族であれば、無用な殺生はしない。
もし
獲ったのであれば、必ず、村へ持ち帰る。
それが、山一族の掟。
ナオトは、獲物に近付く。
その身体を見る。
致命傷となる傷は見受けられない。
「どう云うことだ?」
何カ所かの、小さな傷。
「……まさか、毒で?」
ナオトは首を傾げる。
と
鳥の鳴き声に気付き、顔を上げる。
「アキラはいたか?」
ナオトは、鳥に呼びかける。
鳥は、ナオトの頭上で旋回し、合図を送る。
ナオトは、あたりを見る。
目をこらす。
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