碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

走り雨にぬれながら9

2017-07-01 21:48:02 | 日記風雑感
ランパーンの窯業試験場はバスターミナルからソンテウに乗って20分ぐらいの場所にある。ここはもう隣のコカ市になる。国道1号に面した敷地は広く大きな工場へ来たような感じであった。日本にはこのような広い敷地を持った施設はおそらくないのではないか。大きな工場ののような作業棟が3棟に管理棟、研究棟が続き奥に食堂と寮がある。それらの棟をつなぐ広い道路がめぐり緑地がたっぷりある。狭い島国の日本人にはこんなに広くなくてもいいような気もする。タイの土地が安いのか、予算が余っていたのか知らないけれど無駄に広い気もする。チェンマイの大学の敷地も巨大だけど、(チェンマイ市の旧市街お堀で囲まれた2km四方よりも広いので、キャンパス内は無料の電気バスが路線ごとに走り回っている)タイでは公共施設は広く敷地がとってある場合が多いと思う。道路に近い守衛小屋の若い男性にあいさつすると、タイの作法でニコニコ微笑みながら、どうぞお入り下さいとばかり奥の建物を指さした。100mぐらい奥へ進むと左側に2階建ての事務棟と研究棟があり、その中にある受け入れ窓口であり、研究棟の責任者であるケーさんの部屋へ行くと、簡単な手続きと仕事の要望を聞かれ、それについての設備の使用説明をしてくれ、すぐに仕事に取り掛かれるように親切に取り計らってくれた。ここは公の機関ですから、手続や、規則がきびしいのかと思っていたが、面倒なことは一切なく、まるで知りあいの陶芸工房で仕事をするようにやらせてくれた。「なにかあれば言ってください」とお客様待遇でかなり厚遇されていると感じた。窯の電気代も材料費も取らなかった。タイでは人治の傾向がまだ強いので、コネがあるのとないのでは大いに待遇が違う。といって、ここの職員にコネがあるわけではないのですが、ここは日本のJICAの援助でできたせいで、日本人を歓迎するのだろうと思った。同じ公務員でもイミグレの役人とは天と地ぐらいの差がある。タイで焼き物の勉強をしたい人はおおいに利用するべきで、日本の窯業試験場よりはるかに待遇がいいのです。金沢市の卯辰山工芸工房などは、役人の為の天下り先の役目の方が大きいのではないかと思うぐらい、外部のと言っても金沢市民であっても、利用しにくい。市民の税金で運営されている施設であっても市民の利用は歓迎されない雰囲気がある。タイでは見ず知らずの外国人であっても歓迎してくれるこの差が日本人にはわかっていないと思う。一事が万事でヨーロッパ人が日本よりタイへ来る理由の一つであると間違いなく言える。日本人の「公」と「私」の区別は「公」>「私」です。良い悪いは別にして、日本人の基準が世界の基準ではないことは確かです。ここの施設には研修者用に宿泊施設がある。それも、男用と女用の寮がある。ここで1年間暮らしたら、年金生活者でも貯金ができるくらい、安い宿泊料で生活できるようになっている。至れり尽くせりの施設なのだ。日本にはここまでの窯業研修施設はないと思う。世界に冠たる日本の窯業はもう完全に落ち目で、その分タイと中国が隆盛しているのは、単に人件費の問題だと言い切れなくなっている。










ここで、釉薬の試験のためのテストピースを作っていると、地元の人がやってくる。ある青年が、釉薬の組成が間違いないか訊きに来た。ここの職員でもない人間に聞かなくてもほかにだれか教える人がいるはずなのに、なぜ私に訊くのかというと、日本人の人に訊いてみろと言われたらしい。私としても知らぬ存ぜぬというわけにはいかないので、レシピを見せてもらうと、結晶釉の組成であった。これはマット素地の釉薬のつもりらしい。多分ケイ酸マットのつもりであろうと思う。以前ランパーンの窯元でケイ酸マットの素地を持つ製品を見たことがあった。マット素地は表面に細かい凹凸があるが、それが多く出ると汚れやすくなることがある。鉛筆で表面をこすって見て、汚れが残るのは面白くない。日本ならば不良品の部類に入るので、そのことを指摘したことがあった。だから多分ケイ酸マット釉薬の改良をしようと試みているのだろう。同じマット素地でも結晶釉をベースにしたものにしようとしているのではないかと考えた。何分言葉がストレートに通じないので、確認することもなく、問題点を指摘し、そのレシピを修正してあげた。その後それでよい結果が出たかどうかわからないが、青年は喜んでいろいろ質問をし始めた。話をしているうちに、その青年が実は以前訪問した窯元のあのケイ酸マット素地のあったところの者だというではないか。そこの窯元の息子であった。世間は狭い。そうとわかれば私も少しはランパーンの人のお役に立ったということかもしれない。それから、ここで試験をしているらしい別の青年が、深刻な顔で訊きに来たことがあった。それはやはり釉薬の問題らしいのだが、日本の杯と徳利を作ってみたが杯は漏れなくできたのに、徳利は水がにじんでで漏れてくるという。どうしてそうなるのかわからないと言って何日も考えていたらしい。それでもわからなくて、日本人に聞いてこいいわれたか、私のところへ訊きに来た。徳利を受け取ってみると確かに底の方がぬれている。しかし杯は全然だいじょうぶで外は乾いている。なぜそうなったか、粘土が赤土の粗い粘土だから、釉薬のかかっていない場合は水が浸透して漏れてしまうことは理解していたので、これは要するに徳利の内側に釉薬がかかっていない部分があるようだと絵に描いて指摘すると、一瞬ああっと声を上げて謎が解けたことを喜んだ。それまでいつも深刻な顔をしていた青年がこの時から、人が変わったように明るくなった。言われてみると、簡単なことだが、一人で試験をしているとそれに気が付かないで時間ばかりかかることがある。そいう意味では、やはり同じ場所で何人かいると問題を解決しやすいと言える。ここの場所があることに感謝するしだいです。いろいろな人に出会えることがやはり一番の発展のもとになっているということを実感したわけです。また焼き物の展覧会もちょうど開かれていて、ここの職員の人の車に乗せてもらって、見に行ってきたのですが、すぐ近くの展示館というかイベント場に大きな作品が出品されていた。タイ全土からの出品でタイの陶芸の傾向と水準が理解できた。おりしも表彰式の真っ最中で、お茶とお菓子の接待まで受けて、来賓の横の席に座らされたので、ひょっとして、あいさつの一言ぐらい言わなきゃならないことになったらどうしようとドキドキしながら、場違いなところへ来てしまったと考えていたら、すぐ拍手を持って閉会になってほっとした。1週間ここの寮で過ごしたが、窯元の青年からビールの差し入れがあって、どうにかもったというか、精進も楽ではない。


























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1 コメント

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いいね・・・!! (T,N)
2017-07-09 14:05:15
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