新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

東京美術館巡り③

2008年11月06日 | 美術館&博物館

今日の美術館巡りは、山種美術館。東西線の九段下で下り、風光明媚な千鳥ヶ淵に沿って歩いたところにあります。日本画専門の美術館です。

           *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

★「百寿を超えて 奥村土牛 小倉遊亀 片岡球子」展 ― 山種美術館

それぞれ101歳、105歳、103歳で没するまで、百寿を超えてもなお意欲的に制作を続けた画家の展覧会です。湧き出してくる創造力や制作意欲に、なるほど年齢は関係ないのですね~。3人とも文化勲章受章者です。

Naruto「鳴門」は、四国を訪れ観潮船に乗った土牛が、奥さまに帯を後ろから支えてもらい、海に身を乗り出して何枚もスケッチしたという絵で、まるで渦巻く潮の轟音が聞こえてきそうです。

音のある絵・・・。滝を描いた「那智」も、滝の神性を損なわず、滝壺に落ちる水の轟音が聞こえてきそうな絵でした。両方とも70歳、69歳の絵です。

海の持つ偉大さと神秘さと力強さが、抑えた色数で描かれている大作だから、印象も強いのかもしれません。ここには人だかり。静かな海が時折暴れる風景は、印象深いのです。

Yuki1_3 小倉遊亀「涼」は、京都のお茶屋の女将さんがモデル。背筋がピンとして、着物が見事に馴染んでいる日本の女、座り方が自然で美しい!

放映中のNHK「だんだん」に登場する花村の女将・久乃とダブって見えました。気品と落ち着きと生きてきた人生の自負のようなものがよくにじみ出ていると思います。

傍らの半分だけ描かれた大ぶりの器の存在感がまたよく出ています。お盆も器の影も花も丁寧に描き込まれています。静物画にもよく使われるおなじみの器です。よほど気に入っているのでしょう。

だから、ここではまるで主役が二つ…なんて、得した気分でした。

Tamako1_2片岡球子「むすめ」の着物の強烈な色と個性的な柄。これは、この作家にしか描けないものに思われます。とても69歳の時の絵とは思えないほどです。

「鳥文斎栄之」は、顔の輪郭と皺に黒い太い線を使っており、その線で人間の内面性まで描ききってとても衝撃を受けました。最初は、一歩引きそうになりながら、でもよ~く見ていると強烈な表情にぐんぐん引き入れられてしまいます。

作品一枚一枚につけられたキャプションが楽しくて、絵の向こう側に作家の生の人生が見えるのが面白いのです。絵+αはまさに素人の観方でしょうが、こんな見方があってもいいと思います。

70点弱の展示作品は山種が所蔵しているものばかりで、さすが日本画専門の美術館。入館者はほとんが女性で、3人の画家の組み合わせがよかったのかも知れません。来年秋には広尾に新築移転するそうで、美しい千鳥が淵からは遠く離れてしまいます。

前の2日間が大きい展覧会ばかりで少々疲れたので、最後の今日はゆっくりとスケジュールを組みました。最後の日本美術は、心を静める上質のデザートという感じで、やはり日本人にはぴったりとくるのでしょうか・・・。

朝の散策で、久しぶりに行ってみた日比谷公園、皇居前広場は隔世の感がありましたが、まだまだ都心には緑が多く残っている…というのが実感です。

かくして3日間の美術ツアーは終わりました。パンフレットをたくさんもらってきたのでまた、次の機会があるといいなと思っています。

コメント (6)

東京美術館巡り②

2008年11月05日 | 美術館&博物館

秋の気配漂う上野の森。西洋美術館の開門前にもう一人の友人と合流して、今日は3人での鑑賞になりました。ハンマースホイ展は私が一番観たかった展覧会だったのでドキドキ。

          *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

★「ヴィルヘルム・ハンマースホイ静かなる詩情 」展  国立西洋美術館

Hanmershoi_3 ヴィルヘルム・ハンマースホイは、デンマークを代表する画家。生前はヨーロッパ美術界で高い評価を得ていましたが、没後は、シュールレアリズムや抽象絵画の台頭などで、彼の具象的な絵画は時代遅れとみなされ、急速に忘れ去られていきました。近年また再評価が進み、国際的にも脚光を浴びている画家です。

以前見たこの後姿がずっと心に焼き付いていました。不可思議な空気が感じられる絵です。決して親しみやすくははないけれど拒絶している後姿でもない・・・。さみしい後姿でもない・・・。孤独をしっかり受け止めている姿かしら・・・。トレーをもった表情は・・・といろいろ考えてしまいます。

Hammershoi2080930_4左は、国立西洋美術館がこの4月に購入したばかりの「ピアノを弾くイーダのいる部屋」で、後期傑作の一つと言われています。イーダは彼の妻で、彼女をモデルに繰り返し自宅の部屋を描いています。

がらんとした部屋には、なにか不安な感じをおぼえます。ピアノを弾いているのに音が聞こえません・・・。テーブルに灰皿はあるけど、なぜか生活感が希薄で・・・。そんなふうにして生まれる静かで謎めいた詩情が人の心をつかむのでしょうか。

フェルメールを手本にしているとも言われますが、抑えた色彩、最小限の調度品で、隅々まで計算しつくしていないこの絵の方が、却って心を打つ気がします。

代表作90点ほどを、イヤホンガイドを聞きながらゆっくり回りました。10時を過ぎると入館者が増え始めました。早く入館してよかった!

ここに来るたびに、常設展は必ず見ることにしています。14世紀からの絵画や彫刻など、松下コレクションや美術館が意欲的に収集した作品があります。

            *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

★「大琳派展継承と変奏 」展     東京国立博物館 平成館 

Soutatu_2圧巻は「風神雷神図屏風」です。奇しくも、17世紀の宗達、18世紀の光琳、19世紀の抱一と1世紀ずつの隔たりを持って同じテーマで描かれたものが、比較しやすいように並べて展示されています。19世紀の鈴木其一の「風神雷神図襖」もあり、「琳派」が、どのように継承され変奏していったか、江戸文化の開花への道筋がわかります。

上は宗達の絵。国宝です。宗達の絵は、おおらかで威厳があって生き生きと力強く感じました。その力は屏風の外にまではみ出しています。3人の3枚の屏風を見比べると、やはりこれが一番好きな屏風です。

Korin

左は光琳、重要文化財です。宗達の絵を忠実に写した作品です。宗達にに比べるときらびやかな装飾性、色彩が鮮やかで絢爛豪華な感じがします。

いわゆる「琳派」は、血統でなく「私淑」により断続的に受け継がれた特異な形の流派だとか。「琳派」は1970年代以降に研究の成果つけられた名称だそうです。

ちなみに私淑とは、直接に教えは受けないが、密かにその人を師と仰ぎ尊敬し、模範として学ぶことだそうです。

Hoitsu_3左が抱一。抱一は繊細で軽妙。光琳を尊敬しながらも、花鳥風月の優雅な独自の「江戸琳派」に発達させていきます。

芸術は爛熟期に入ると、力強さが後退し典雅優雅に変わってくるのかなというのが感想です。

宗達が下絵を描き、本阿弥光悦が筆をとった新古今和歌集などのコラボレイトの作品もあります。

作品約240点・・・。会場は案の定混雑し、人垣が十重二十重。「琳派」はいつも人気沸騰の展覧会。さらに「大」がついた「大琳派展」だから、さもありなんです。また記録を作りそうです。美術館はゆっくり観たいものですが・・・。

今日の夕食は、洋風居酒屋。スペイン、イタリア、タイ…と多国籍の料理。帰りには、お土産にオーストラリアのオレンジをもらいました。

相当に痛めつけた足には、用意してきた湿布でケア。翌日はばっちり回復していました。

コメント (6)

東京美術館巡り①

2008年11月02日 | 美術館&博物館

Tokyoubijyutu_044東京はやはり文化の都市。今、展覧会の花盛りです。友人と2泊3日で6つの美術館を巡りました。強行軍かな・・・の懸念もありましたが、スイカカードならではのアクセス時の省力化。入り組んだ路線も予想外にスムーズにいって、乗り換えも楽々。スイカカードは大都会には必需品だと思います。

目的のNO.1は、「ヴィルヘルム・ハンマースホイ」展。予定では「フェルメール」展も入れましたが、出品作品にぜひ観たいものはなく、それよりも「大琳派展」を選びました。

              *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

今、六本木が熱い!ピカソ展が国立新美術館とサントリー美術館の2会場同時開催。パリ・ピカソ美術館の改装に伴う世界巡回の一環としての展覧会です。まさに大作ぞろいの大回顧展です。

Picasso1 ★ 「巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡 」展 ― 国立新美術館

「青の時代」「キュビズム」「新古典主義」「シュールレアリズム」と、人生の壮絶なドラマに遭遇するたびに変化し続けた作風。妻や愛人とのすざましいまでの愛の葛藤。生きること、愛すること、芸術を創造することを同時に実行したピカソを丸裸にしたような展覧会でした。

青の時代の人間の内面性の表現、キュビズム時代の色彩の豊かさ。フォルムの力強さ。キャンバスからはみ出してしまいそうなエネルギーに圧倒されました。

ピカソのデッサン力はピカイチと言われていますが、まさにその痕跡を見ることができました。約170点、インパクトの強い絵でした。

              *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

国立新美術館から400mほどのところに隈研吾氏設計のサントリー美術館があります。先の入場券を見せれば200円を割り引いてくれるといういきな計らいがされています。

★ 「巨匠ピカソ 魂のポートレート」展 ― サントリー美術館

Picasso2青の時代の憂愁を帯びた美しい自画像、自己を投影したミノタウロス、愛情を持って描かれた子供の絵などピカソの魂の叫びを表した油彩画60点ほどの展示がされています。

晩年近くには1年で165枚も描いたそうな。国内の展覧会では、そういうスケールが大きくスピードが見える絵が多くて、よく理解できませんでした。

その印象が変わったのは、マドリードのゲルニカや、バルセロナのピカソ美術館で初期の頃のしっかりしたデッサンの絵を見てからでした。

パリのピカソ美術館には、ピカソが最後まで手元に置いていたという作品が数多く収蔵されているとか。そんな絵に遭遇できる2会場のピカソ展。またとない機会でした。

             *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

★ ブリヂストン美術館      常設展示コレクションより148作品

Mane_2ここのコレクションは久留米の石橋美術館にもよく展示されますが、「本家」で観てみたいと夕方入館すると、なんと貸し切り状態。リッチなひと時に感激しました。民間の美術館のせいか、閉館が夜8時というのも来館者の心をくすぐるものです。

おなじみのモネの睡蓮。1907年、荒いタッチで描かれた「睡蓮の池」は近くで見ると、縦横の朦朧とした荒いタッチの塊にしか見えず何が描かれているかはっきりしません。今までは、同じ睡蓮でも西洋美術館の睡蓮のほうがカラフルでずっと好きでした。

ところが次の部屋に行く時に、振りかえりざまに観た睡蓮の絵はまったく違って見えたのです。はっとして声を出してしまいました。離れてみるとまるっきり違う絵に見えました。睡蓮が生き生きと水面に浮かんでいるのです!池に映った夕焼けの色の何と美しいこと!今までの睡蓮の絵の中で最も美しく感じました。ここまで計算して描かれたのか・・・と深い感銘を受けました。

上の写真と実物の筆のタッチや色彩はかなり違っています。部屋の戸口では、とにかくこんな感じに見えたのです。ここが印象派の印象派たる所以でしょうか・・・。素人の解釈は自由です。だから勝手にそう思い込んで喜んでいます。

ピカソも8点あり、「腕を組んですわるサルタンバンク」がこちらを見ています。「ここはピカソ展の第3会場ね!」と、二人で大喜びしました。

夕食にあぶり寿司セットで軽くビールを飲んで、とてもいい気分でホテルに帰りつきました。かくして第1日目は、満足の美術館巡りでした。

コメント (5)