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ザンビア心臓血管外科技術移転事業についての報告(2019年10月10日分)

2019年10月19日 | TICO Medical

TICOのザンビア心臓血管外科技術移転事業の一環として、2019年10月10日にザンビア大学付属教育病院にて現地の心臓外科チーム及びTICOチームにより手術を行いました。その状況についてご報告させていただきます。

 

心臓血管外科医 松村武史

 

2019年10月10日にザンビア人の21歳の男性の手術を行いました。医学部生の彼は10年前からリウマチ性弁膜症による僧帽弁閉鎖不全の診断でフォローされてきましたが、3か月前に貧血を指摘され、精査の結果、感染性心内膜炎による僧帽弁疣贅(ゆうぜい:細菌の塊)、高度僧帽弁閉鎖不全、中等度三尖弁閉鎖不全と判明し、抗生物質の治療を4週間行いました。その後も20mm以上の疣贅が残存し、手術をしないと疣贅による脳梗塞と心不全を起こす可能性がとても高く、手術を行うことを判断しました。術前のCTでは梗塞は起こしていませんでしたが、高度の脾腫と貧血、血小板減少を認めました。そのため術前に輸血を行い、手術中にも輸血や血小板を用意して手術を行いました。手術はムテマ医師が執刀し、日本人スタッフ3名(医師1名、看護師1名、臨床工学技士1名)がサポートしました。

 

手術において、僧帽弁を観察すると、20mmの疣贅が付着し、弁を一部破壊していたため、弁の置換(入れ替え)を行うこととしました。本来なら耐久性の観点から機械弁を置換すべきなのですが、機械弁は高額で患者さまご自身での購入が必要となり、それが不可能であったため、病院に在庫がある生体弁を入れることとし(在庫のあるものは購入、支払いの必要なし)、問題なく僧帽弁を置換しました。次いで三尖弁を確認したところ、三尖弁にも小さい疣贅が数個付着しており、逆流量も中等度だったため、疣贅を除去し、三尖弁の弁輪を縫合糸で縫縮して無事手術は終了しました。

 

術後は集中治療室に入室し、翌日朝に人工呼吸器を離脱しています。覚醒後、意識状態や神経学的所見に異常はなく、術中の脳梗塞の合併はなかったと考えられます。患者さんは今後4週間の抗生剤治療を待って退院になると思われます。医学部への復帰もその後可能で、ご本人もとても喜んでおられます。

 

前手術から2日準備しての手術となりましたが、その間、検査や薬剤の準備の確認、手術手技の共有、手術時間短縮のためのアドバイスなどを繰り返し行い、手術直前には外科、麻酔科、臨床工学士、検査部、手術室看護師、手術室助手が集まり手術手順の確認を行い、安全対策を十分にたてて手術に臨みました。

 

ザンビア人医師の執刀として初めての術式となりましたが、問題なく、患者さまは順調に過ごしておられます。僧帽弁置換が必要な方々は数多くおられますので、一人でも多くの患者さまを救えるように手術の安全性をより向上させていきたいと考えます。


ザンビア心臓血管外科技術移転事業についての報告(2019年10月7日分)

2019年10月15日 | 合宿

TICOのザンビア心臓血管外科技術移転事業の一環として、2019年10月7日にザンビア大学付属教育病院にて手術を行いました。その状況についてご報告させていただきます。

心臓血管外科医 松村武史

 

2019年10月7日、ザンビア大学付属教育病院にて現地の心臓外科チーム及びTICOチームによりザンビア人の女性(25歳)の手術を行いました。

彼女は、すでに4か月前から心臓内の右心房に腫瘍が指摘されており、その腫瘍が血液の流れを悪くし、三尖弁の機能も悪くし、胸水や腹水を合併した重度の心不全の状態でした。TICOチームがザンビア大学付属教育病院を訪問した10月1日に手術の依頼が病院側よりありましたが、もう少し良くなってから手術したほうが望ましく、そうでないと手術のリスクが高すぎると判断させていただき、薬剤を調整しました。しかし利尿剤に対する反応も思わしくなく、日ごとに体重が増加し、酸素飽和度が低下していきました。

内科的な治療では死を待つばかりになるため、ご本人とご家族に対して主治医ムテマ医師と松村から病状説明を行い、リスクは高いのですが手術を行うしか選択肢がない事をお話し、手術に対する同意が得られましたので10月7日に手術を行いました。ムテマ医師が執刀し、日本人スタッフ3名(医師1名、看護師1名、臨床工学技士1名)がサポートしました。

 

手術では、開胸して人工心肺へと移行し、心停止下に腫瘍を摘出、三尖弁には問題ありませんでしたので右心房を閉じ、人工心肺を離脱しました。人工心肺離脱時には頻脈と血圧低下がみられ、肺高血圧も疑われました。そのため麻酔科による薬剤調整を行いました。状態は改善し、閉胸をおこなっていましたが、胸を閉じようかとする少し前に急に血圧が下がり徐脈となりました。不整脈の薬剤が投与されたのと時間的には重なります。すぐに装着されていたペースメーカーを作動させ、胸を再度開き、閉胸前の状態にしましたが改善が見られず、再度人工心肺を装着し、状況の改善を試み、手を尽くしましたが、あきらめないといけない状況になり、低心拍出症候群で死亡されました。人工心肺を離脱して閉胸してICUに入室、ご家族には主治医ムテマ医師と松村から説明をさせていただきました。病院へのインシデントレポートは10月11日に提出されました。

 

何も対処しないでいるより数日死期を早めた結果となりましたが、難しい事例だからと手術をせず、患者さまを見捨てる選択はできませんでした。もう少し早く手術できれば救うことができていたと思われます。そういう意味でも心臓手術ができる人材を育成する必要を痛感しています。

今後、同様に重症患者さんに出会った場合、今回の事例を踏まえた上でも、「救いたい」という想いは変わらないと思います。救える可能性が少しでもあると判断できれば、それにチャレンジしていきたいと考えています。

 

今回は患者さまの重症度が高く、相当な覚悟で臨んだ手術でしたが大変残念ながら患者さまを救うことは出来ませんでした。今後、彼女のように苦しんでいる方々を救えるよう、改めてチームメンバーのコミュニケーションを十分にとると共に、使用する機器や試薬類においても万全の準備を行い、手術を安全にかつ適切に実施できるよう配慮したいと考えます。

謹んで患者さまのご冥福をお祈り申し上げます。


今回の手術症例 第6回活動

2019年10月06日 | TICO Medical

今回の手術症例  第6回活動

 

現在のところ下記3例を予定しています

 

10月7日 月曜日 23歳女性

              右房腫瘍 三尖弁逆流

              腫瘍切除 三尖弁輪形成

 

10月9日 水曜日 21歳 男性

               感染性心内膜炎 僧帽弁狭窄

               僧帽弁置換

              

10月11日 金曜日 41歳 女性

                僧帽弁狭窄 三尖弁逆流

                僧帽弁置換 三尖弁輪形成

        

今回はいずれも重症ばかりです

明日からです