きらく堂日記

鍼灸師の喜楽堂が日々の出来事、過去の思い出、趣味にまつわる話などを綴った日記帳(=雑記帳)です

寝刃合わせのこと

2008年07月13日 | 居合・日本刀
 大分前になりますが、山田洋治監督の時代劇2作目「隠し剣・鬼の爪」を見ました。この中で主人公がいよいよ明日斬り合いに行くという時に、日本刀を土間に山盛にした砂(砂利)の中に切っ先からザッ、ザッと差し込んでいるシーンがありましたが、あれを「寝刃合わせ(ねたばあわせ)」と言います。
 日本刀の波紋や地肌の美しさは観賞・鑑定の重要な要素であり、武士たちは魂である刀に美しい研ぎをかけ、錆びさせることの無いように大切に保管していた訳で、良く浪人がさび刀を差していていざと言うときに抜けなかったり、抜いたら「赤いわし」だったり、というシーンがドラマなどでありますが、まず作り事と思った方が良いですね。わずかの脂があれば錆びさせることはありませんし、いかに暮らしに困っているとはいえ、将来の仕官を夢見る浪人が武士の魂といえる刀を錆びさせることはありませんね。実用本位の考えで刀を見ている武芸者でも、仕上げの研ぎはしていなくとも、白研ぎぐらいはしている訳で、赤錆状態は考えられませんね。
 いろいろな刀を扱ってきましたが、鉄質の良い刀は普通に保存していればまず錆びさせることはありませんね、ただし安物の軍刀は錆び易いような気がします。

 ところで、このように刃先までシャープに研ぎ上がった状態の刀は実はあまり切れません(現在の美術刀剣では刃先まで研ぐことはありませんが)。トイレットペーパー(巻いたもの)を横にして刀の刃を当てて引き切りしたときどれだけ食い込むかで比較できますが、シャープに研がれた刃は滑ってあまり食い込んでいきません。ここで「寝刃合わせ」が必要になります。たとえば少し荒めの砥石で刃先を軽く両側から軽くすってやったり、映画にあったように砂山に数回付き入れることによって、刃先をノコギリの刃のように(ミクロ的に見ての話ですが)に荒らしてやることによって刃の食い込みが格段にアップするのです。まさにザクという感じで深く食い込みます。これはあくまで着衣や肉体に対する切れ味をアップするためのもので、これで甲冑が切れるようになるわけではありませんが。

 寝刃合わせは武士の作法の一つであり、戦に出かける前にはかならず行ったもので、そのため日常的にも土間などに砂山を備えておいたわけです。映画の主人公は下級武士で生活も苦しいようですが、武士の魂(士道)を忘れていないということを示しています。さらに真田紐で柄を巻き締めているシーンもありましたが、あれも斬り合いの最中に刀の柄が折れたり、割れたり(いわゆる柄割れ)しないようにしているのです。チョットしたシーンでしたが、リアルで、さすが山田洋治監督と思ったものでしたが、残念ながら映画そのものは今ひとつで、「たそがれ清兵衛」には及びませんでした。

<鍼灸マッサージサロン・セラピット>

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1 コメント

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日本刀の魅力! (茶屋0101)
2005-07-08 22:35:40
宜しくお願いいたします。
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