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意思による楽観のための読書日記

遠の眠りの 谷崎由依 ****

女性が夢を持てず、働くばかりで、子どもを生んで育てて、人生を終えていたそんな時代に、福井に生まれた百姓の娘絵子が、自立の夢を叶えようとした物語。

大正末期、福井の百姓の次女だった13歳の絵子は本が好きだったが、両親は女に学問は要らない、というので幼馴染で裕福な家庭の娘、より子に借りた本を親に隠れて読んだ。絵子は女性が家の手伝いをして、結婚して、子どもを生んで、楽しいことは長男の出世だけ、という一生を送っていく母の本当の気持ちにはどうなんだろうと疑問をいだいた。父親にそれを言うと、出ていけ、と家を追い出され、より子の母のツテをたどって福井の街にある自動織機の工場で働いた。しかしそこでも、成り上がり社長の桜井は女工を酷使した。女工の中には、平塚らいてうの青鞜運動に傾注する女性が居て、絵子は影響を受けた。ある日、会社の帳簿を見ると、社長が女工の賃金をピンはねしていることを知って直訴、字が読めるだけで仕事ができないと言われ、18歳にして職を追われた。絵子には帰る場所はなかった。

その時期、福井中心街にえびす屋という百貨店が開業、大繁盛したが、商品だけではなく少女歌劇を客寄せに使っていた。絵子はひょんなことからその経営者で教育者でもあった鍋川と知り合い、百貨店レストランの女給として働きながら、少女歌劇の脚本を書かせてもらう。劇団には若い少女たちが入団、絵子も共に寮生活を送る。その中に、ポーランド生まれで日本人の父を持つユダヤ人のキヨがいた。声変わり前の男の子で女装、その美声で客を魅了した。キヨはナチスの迫害を逃れてロシア経由で日本に逃れてきた難民の一人だった。絵子はキヨに惹かれながら、女性自立のシナリオを書く。

そんな時に頭に浮かぶのは、15歳で嫁に行った姉、そして幼馴染でキヨの兄に恋をするより子であった。近所の女性に教えてもらった回文の歌を思い出す。
「長き夜の、遠の眠りのみな目覚め、波乗り船の、音のよきかな」
メザメ、と言うところで折り返し元に戻る回文。目覚めると元の場所に折り返してしまう、自分や回りの女性の人生を見るようだった。それでも、女性の自立への強い思いを表現した脚本を書き、「遠の眠りの」というタイトルを付けて上演された。客の反応は様々、しかし鍋川はこれでいいと言ってくれた。日本が戦争に突入する時代、満州事変から上海事変、そして戦争になり、キヨは招集され、少女歌劇はなくなって福井の街も空襲で焼けてしまった。戦争が終わり、絵子は焼けてしまった福井のえびす屋の跡地に生える草を見る。緑の芽を出していた。自分は次の世代に希望をつなげる子どもたちのために学校を作りたいと思った。

文字を学び、仕事を覚え、世の中を知る女性の半生は、最近読んだ、同時代のアメリカ人女性を描いたジェニファー・イーガンの「マンハッタン・ビーチ」を思い出す。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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