意思による楽観のための読書日記

さくら 西加奈子 ****

家族愛の物語、若くてエネルギーに溢れたお話だ。

僕は長谷川薫、長谷川家の次男、22歳になり東京で大学に通う。年末に大阪の実家に帰るところからお話は始まるが、それは物語のお終いでもある。本当の始まりは父と母が中華街でデートして、母が父に恋をして、その日は上がってしまい、餃子を食べられず残念な思いをした。いつかは、この人と遠慮なく餃子を食べられるようになりたいと結婚したことから始まる。

実家に年末に帰った実家には弱ってしまった飼い犬のサクラがいた。そして出て行ってしまった父が年末だということで帰ってきていた。一家のヒーローだった兄が20歳の時に事故で下半身不随になり、今までのように周囲から注目されず、逆に事故の結果変形してしまった顔にギョッとされてしまう環境変化に耐え切れず、22歳になったとき、自分の絶望して”ギブアップや”と自殺した時に、父は逃げるように家から出て行ってしまっていたのだった。

年末の長谷川家の年中行事である餃子作りに妹の美貴と励む薫、そしてここからが薫の記憶で一家の歴史が蘇る。

兄の一が生まれたのは、父と母が最初に結ばれた結果としてもたらされた。つまり両親のできちゃった婚の原因となったのである。一は長谷川家の第一子であり、自慢の息子だった。もちろんあとから生まれてきた薫や美貴にとってもあこがれであり自慢の兄だった。学校でも一はクラスのヒーローだったし、サッカー選手でクラブ活動のエースだった。薫も美貴もそんな兄といつも一緒にいたかった。

そんな長谷川家に犬のサクラがやってきた。最初は子犬だったサクラ、それからはいつも僕たちのそばにいて、長谷川家の歴史を一緒に歩んできた。妹の美貴が生まれて、母さんが家に初めて帰ってくる日、薫は一とまだ見ぬ妹に花をプレゼントすることにした。花はどこかで摘んで来ようと思ったが、よその庭から持ってくるわけには行かない。そこで「誰のものでもない花」を遠くの公園まで摘みに行ったら兄弟で迷ってしまい、警察のおまわりさんにお世話になってしまった。これが初めてパトカーに乗った経験。

その後、美貴はだんだんと美人になり、一はさらにヒーローになっていった。そして兄弟はますます仲良くなっていった。仲の良さは両親の仲良さにも影響されていたのだと思う。仲良くなりすぎて、美貴は本当に兄に恋をしてしまった。一が付き合い始めた矢嶋さん、兄が最初に彼女を連れてきた時にいは妹の美貴は彼女のことを自分の敵だと認識したようだ。美貴は敵には容赦なかったが、兄の前ではいつものような傍若無人さは影を潜めていた。しかし、後に、矢島さんが九州に引っ越して手紙のやり取りを二人が始めたとき、美貴はみんなに知られず、矢島さんからの手紙を自分のランドセルに隠すようになった。その結果、二人の縁は遠くなってしまった。

そんなみんなのヒーローの一が事故に遭ったとき家族みんなは驚いたが、美貴だけは兄と一緒にいられると密かに喜んでいたのだ。しかし、一が自殺してからは美貴は抜け殻のようになってしまった。そして薫は大学に入り、年末に帰省していたのだった。最後は、出て行ってしまい、母に責められていた父が、病気になったサクラを病院に連れて行くと張り切りすぎて、パトカーのお世話になったとき、薫にとっては二回目のお世話になったとき、再び長谷川家の残された4人が一家のまとまりを感じ始める時だった。病気から立ち直ったサクラと存在感の薄い父が実は一家の柱だった、という話。

いくつかあったエピソード、誰のものでもない花を探しに行く話や美貴を見つめていたフェラーリと呼ばれる男の話、母さんが父とのセックスで出した母猫の声、薫の付き合った女性ゲンカンの胸の話などが印象に残る。そしてこの一家の物語が泣ける話なのだ。小さな大河物語だと解説にはあった、そのとおりのお話、この本がよく売れたわけが分かる。これは自分で読んでみたほうが良いと思う。


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