意思による楽観のための読書日記

帝都東京・隠された地下網の秘密 秋葉俊 *****

なるほどと気付かされることが多い一冊。1915年にロンドンがドイツによる爆撃を受けた際、最先端国の首都、そして日英同盟の大切な相手国が爆撃されたことに衝撃を受け、日本陸軍は地下鉄による防空を考えるようになった。さらには、ベルリンからロンドンへ空爆、ということは中国大陸から東京へも空爆されかねない、とつながり、満州への進出意欲、関東軍設立、日中戦争へとつながるきっかけとなったというのだ。おどろおどろしさを出そうとして陳腐なタイトルになり、少し損をしている本ではないか。しかしこの著者の東京の地下鉄網にかける執念は、マツコであれば「少し狂気を感じるわね」と言うくらい、見上げた根性だと思う。

本書の章立ては筆者の思考の順序と同じ流れになっている。つまり読者は筆者の疑問や解決策探索にまつわる苦労などを感じながら一緒に進むことになるので、分かりやすさを随分犠牲にしていると感じる。それでも最後まで読み通した読者にとっては本書の価値は失われていないだろう。地下鉄に乗りながら、軌道の横の壁の色やふるさ加減、地下鉄駅の構造と、壁の向こうに向けた想像力など、筆者は疑問解明のためにどれほどの労力を注ぎ込んだのだろうと思うと気が遠くなる。

大前提として、国会議事堂や首相官邸、皇居、元陸海軍施設の地下には地下道が建設されていただろうということは想像できる。それがどのように計画され建設されたかは、関係者は多いはずだが公にはなっていない。また、1923年の関東大震災後の帝都復興計画で、時の東京市長後藤新平は、それまでの市電と狭い道路に代えて、地下街路と地下鉄を計画した。それが冒頭に紹介した陸軍による防空計画に上塗りされ、機密度合いが上がってしまう。戦後のGHQ占領時にはその一部が占領軍の知るところとなるが、全体ではなかったらしい。本書でもその全貌を解き明かすには至っていないが、多くの糸口が明らかになる。

比較的新しい南北線の溜池山王駅のB1は政府専用らしく、B2洗面所からB1への非常扉は存在するが一般にはシャットアウトされている。この近辺には官邸や議事堂があり多分地下道が建設されているはずだが、明らかにされていない。ひょっとしたら筆者は情報を得ている可能性もあるが、本書の発刊と引き換えにお蔵入りさせた可能性さえ示唆している。1957年に国会図書館の大改修工事があった際、国会議事堂も大工事があり、同時に衆参両院議長公邸も大成建設により工事が行われた。首都高三宅坂ジャンクション工事も同時に行われ、さらには赤坂離宮、迎賓館とすべて大成建設により行われた。創始者は大倉喜八郎、今の首都高新宿線はすべて大成建設により建設された。筆者は、東京下水道整備事業が大震災後に計画されたことと、そのごの経緯をつぶさに検証し、東京駅前から新宿までを一直線で結ぶ地下道の存在を信じているようだ。本書には、その直線状を結ぶ地図も掲載されている。確かに、東京駅前の行幸道路から皇居横を抜けて最高裁判所、日本都市センター、清水谷公園、迎賓館、学習院初等科、南元町公園、慶応大学病院、四谷第六小学校、新宿御苑、明治神宮、京王線初台から新国立劇場に抜ける地下道の存在を考えている。

地下鉄路線の不自然なカーブにも着目、銀座線が赤坂見附で約90度旋回しているのは、計画では新宿に向かうところであり、また、新橋でも本来は後に敷設された浅草線と入れ替わった可能性を述べている。銀座線のカーブの半径が182.881メートルである点に着目、その他はメートルで切りの良い数値なのに、ここだけは200ヤード、つまり設計者の意図と実際の路線が違うのではないかと疑念を呈している。また、銀座線神田のホームがB2にある点に着目、B1に今でも残る地下通路の存在を指摘する。

そして、地下鉄の上下線の真ん中の壁にも注目、帝都復興により建設された道路の地下を今でも走る地下鉄が、道路の下を走るときには壁があり、道路を外れると壁は姿を消し柱に変わるという。帝都復興計画では、道路拡幅と同時に、地下街路が建設され、その構造は地上の道路、中央分離帯の下に左右を隔てる壁、そして地下鉄と上下水道網という構造だったという。しかし陸軍の横槍により機密度が上がり、地下鉄網という資料はなく、下水道整備事業として議事録に残る。

戦前の地下鉄は銀座線しか建設されなかったことになっているが、帝都復興計画では次のような計画だったという。第一線、築地ー日本橋ー浅草橋ー浅草ー押上 これは浅草線の前身である。 第二線、戸越ー五反田ー三田ー赤羽橋ー新橋ー銀座ー日本橋ー秋葉原ー上野ー千住大橋 これも浅草線、そして日比谷線。 第三線、目黒ー恵比寿ー六本木ー虎ノ門ー日比谷ー東京ー神田ー本郷三丁目ー巣鴨ー板橋 これは日比谷線から丸ノ内線 第四線、渋谷ー高樹町ー赤坂見附ー桜田門ー日比谷ー築地ー月島 第五線、新宿ー四谷四丁目ー市ヶ谷ー五番町ー東京駅前ー永代橋ー南砂町 第六線、大塚ー池袋ー目白ー江戸川橋ー飯田橋ー九段下ー大手町ー日本橋ー人形町ー大島 これらはJR山手線、大江戸線、有楽町線、東西線、半蔵門線、都営新宿線など。つまり、多くの地下鉄は戦前に地下道網として建設が進んでおり、戦後の地下鉄建設の折に活用された。また、国会近辺では今も情報公開されずに利用されているという。

まさに、東京アンダーグラウンド情報、読んでいてワクワクするではないか。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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