意思による楽観のための読書日記

大阪学 大谷晃一 **** 大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか竹山隆範  *** 

コミュニケーションの取り方は、人との距離感でずいぶんと違ってくるようです。この数年で被害者激増の振り込め詐欺、都道府県別人口一人あたりの「振り込め詐欺被害金額ランキング」(平成17年週刊SPA!調べ)によると第1位東京 412.9万円、最下位大阪 47.4万円、「なんでやねん」と言いたいくらいの差がついています。2位が鳥取、46位は青森であり、都会と田舎、貧乏と金持ちという差でもなさそうです。振り込め詐欺グループへのヒアリングでは「大阪はやめとけ」というマニュアルもあるとかないとか、人とのコミュニケーションの取り方に秘訣がありそうなこの話、理由を考えてみましょう。

「大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか」(竹山隆範著)によると、「大阪のおばちゃんの貢献が大きい」とのこと。話し相手との距離感を大切と考える大阪のおばちゃんは、会話をする中で必ず相手にグっと近づくタイミングを持つ、その時に相手の嘘がばれる、というもの。静岡県では「大阪のおばちゃんを採用した振り込め詐欺撲滅キャンペーンを平成15年に実施したところ被害が急減」、冒頭ランキングでは45位にランキングされています。いわゆる「ボケとつっこみ」はグッと近づくコミュニケーションの典型、いつも本音で話すように生活すれば詐欺など怖くない、というのが先ほどのキャンペーンCMにも登場した大阪のおばちゃん代表舟山さんのコメントです。そういえば大阪のおっちゃんはどうしたのでしょうか。舟山さんに聞くと、「うちのお父ちゃんなら最近はマナーモードになってます」とのこと、これは別問題。

関西転勤者が必読書と薦められる「大阪学」(大谷晃一著)によると「大阪人のケチさが街を詐欺から守っている」「ケチとは悪いことではなく、合理的でないものには1円も払いたくない、という近江商人の考え方につながっている」「東京では人間関係が上下関係から、これは武士と町人の関係。大阪は人間関係は対等、商売人と客、という関係、この違いは大きい。東京は三代続いてはじめて江戸っ子、大阪では三ヶ月も住めば立派な大阪人になれます」「聞くのはタダ、聞かな損、一瞬恥かいても得したらええ」。人との距離感が東京と大阪ではとても違う、このことが振り込め詐欺が少ない理由ではないか、としています。組織で上下関係を無視してはいけませんが、合理性は重要です。組織内コミュニケーションを取る上で自由闊達に意見を言えること、これは重要なポイントです。近江商人と言えば「売り手よし買い手よし世間よし」としてCSRの元祖とされています。江戸時代には儲けた商人が公共工事や橋の工事も負担した町大阪、CSRでも大阪が元祖かもしれません。

「大阪人」と一言で言っても「いろんなヤツがおるでぇ」という関西人からのつっこみがありそうです。「上方芸能と文化」(木津川計著)によると大阪の文化を、都市的華麗の宝塚型、土着的庶民性の河内型、伝統的大阪らしさの船場型、学術研究機能性の千里型と分類し、それが相互に浸透し混在して全体文化を形成しているとしています。「大阪学」が扱う大阪人や、典型的大阪人、とよく語られるタイプは、河内型ですね。関西には大阪人とは文化背景が異なるとされる京都人、神戸人もいて、東京から見れば「多民族」な関西地方、コミュニケーションで最も重要な言語にも奥深いニュアンスや歴史的変遷があります。(神戸、京都、大阪比較論もありますが別の機会に)

有名な「好っきゃねん」、大阪でも日常会話ではあまり聞かなくなった言葉、小さい「っ」や「ゃ」を使っています。「好き」に親密感を増す「や」を小さくひっ付けて照れを隠しながら、「小っさい」「大っきい」というような形容を強調する場合の促音「っ」と、だめ押しするような「ね」にさらに念には念を入れた「ん」。まとわりつくような「好き」の告白用語で、距離感、これ以上近いモンなし、という使用者の気持ちが表れています。「とても好きです」などという標準語には及びもつかないくらいの気持ちが入っています。人とのコミュニケーションの第一歩、気持ちの表現です。ちなみに、やしきたかじんの「なんか好っきゃねん」、「なんか」は関西弁ではないようですので、照れ隠し気味のチャンプルー的用法ですね、これも最近の関西弁ではアリです。仕事場ではあまり気持ちの表現は不要かもしれませんが、普段のコミュニケーションには必要、大阪人に学ぶところないでしょうか。

「大阪では毎日が無礼講」これは言い過ぎかもしれませんが、東京に比べれば、という比較論としては頷けます。また、TVの街頭インタビューで登場する元気な大阪のおばちゃん(たぶん河内型)を思い浮かべれば、「自由闊達」と言う言葉も霞みます。仲良くなるまでは、東京人にとっては異なる言語体系と価値観をもつ他民族、と感じることもある関西のお友達。一度親しくなると急接近で、人によってはお正月急に相手の自宅へ訪問する人もいて、来られた側は土足で私生活に踏み込まれたように感じてしまうかもしれませんが、これも親愛の情の表現です。この距離感が大阪人、いやこれは関西人共通のコミュニケーションだと思います。会社は会社、プライベートは別と考えたい方には難しい距離感かもしれませんが、慣れてくると、相手が一番忙しいときに訪問する、こんなこともできるのが本当の友人ではないかと感じるようになります。言いたいことが言い合える雰囲気、自由闊達のお手本は大阪のおばちゃんです。

敬称の付け方にも特徴があります。東京では浅草の観音様、門前仲町のお不動様、関西では「すみよっさん」や「えべっさん」のように神様がいる神社はさん付け、大文字山の送り火は京都では「だいもんじさん」(「八月の風物詩、大文字焼き」とNHKニュースが流れるたびに、京都の人は「気持ち悪いわー」と感じています、せめて「五山の送り火」にして欲しいと思います)。おいもさん、お豆さん、あめちゃん、食べ物にも敬称、愛称をつけます。昔、京都のおばあちゃんから「お玉さん、卵から“ごぉ”引いて“さん”足したら“にぃ”少ななったさかいに、かわいそやから“お”付けた」と説明されました。身近に感じたいもの、大切な食べ物には愛称を付けて親しみを表現する、というのもコミュニケーションの第一歩です。

この際、ついでに大阪論。東京では他人を笑おうとするが、大阪では自分自身を笑いのネタにする。関西の漫才では自分や相方の入院(退院できれば)や離婚は最も笑いのとれるネタです。小学校の学級委員の選び方でも、一学期はとりあえず頭の良いヤツ、二学期はスポーツができるヤツ、三学期はやっぱおもろいヤツ。大阪での価値観を表しています。「おもろいヤツ」が最大のほめ言葉、笑いを取るためには誰でもちょっとしたリスクなら冒す覚悟があります。家族同士の付き合いがある男友達同士の久しぶりに会った時の挨拶、「どや、おまえんとこのぶっさいく(不細工の強調)な嫁はん、元気にしてんの?」「うちのプリティーハニーちゃんかいな、元気すぎて手におえんがな」。東京ならケンカでもはじまりそうなご挨拶、売られたつっこみにはボケで返さなければ損する、という、まあ、東京人には想像もできない距離感です。一方、1985年に起きた現物まがい商法による豊田商事事件、被害の中心は大阪でした。「儲かる話には弱い」というのも大阪の特徴、周りの知り合いもみんな信じている儲け話には「乗り遅れたら損」と言うケース。「ウチは騙されへんでぇ」と思っている元気なおばちゃんも気をつける必要があります。ちなみに、小切手が一般的なアメリカでは振り込め詐欺はないがフィッシングが深刻という報道がありました。人との対面が必須となる小切手時代にはなかった犯罪が、インターネットという人の顔が見えない時代にはびこるようになった典型です。一時話題になった“セカンドライフ”も今は閑古鳥が鳴いているとか、人と人との関係ではやはり信頼の確立、フェースtoフェースのコミュニケーションがどこの国でも重要だと思います。

関東出身者が関西に赴任して聞き取りに苦労する関西弁。ご参考までに、大阪南部では「だ行」や「ざ行」を「ら行」で発音するケースがあり、東京人からは「関西弁は聞きづらい」、と言われる典型例です。関西のお客様のシニア経営幹部に、こうした関西弁を多用する方がおられて聞き取りにくい例がありました。「よろがわのみる飲んで腹ららくらりや」→「淀川の水飲んで腹ダダ下りや」、これが聞き取れるようになれば関西のお客様とのコミュニケーションも不安はありません。「せーらいつこたっておくれやす」→「せーだい使ってやってください」。「せーだい」これは「うんと」といった感じで関西では多用される副詞です。意味が分からなかった方、大阪人とコミュニケーションを取るためにはもう少し修行が必要でしょう。関西でのコミュニケーション向上のお役に立ちましたか?せーだい頑張って!。
大阪学 (新潮文庫)
大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか―カンニング竹山と考える (扶桑社新書)
上方芸能と文化―都市と笑いと語りと愛 (NHKライブラリー)

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コメント一覧

momo
どうもこの手の本は大阪は特別、大阪は特異となりがちで、ステレオタイプ過ぎるように感じます。

あと「好っきゃねん」は確かこのような表現はないとか。やしき氏の歌で広まったそうですが、あくまで歌として載せるにはこの表現しかなかったと何かで話しておりました。

自分を笑うという漫才がありましたが、最近はどうも大阪人全体を指して笑いにするようなのが多くてちょっと嫌な流れです。自虐的というか。
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