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意思による楽観のための読書日記

アイヌと縄文ーもうひとつの日本の歴史 瀬川拓郎 ****

アフリカ大陸を出た人類の祖先は、何回にもわたりアジア大陸に拡散したという。3.5万年ほども前には、そうした中の一団が氷河期の日本列島に到達し、旧石器時代の文化をもたらした。その後、気候が温暖化、植生や気候相が変化すると、食生活が変化。木の実や植物性の食料を利用するようになり、加工具、煮炊きのための土器が発達、定住性が高まる。この頃の文化が縄文文化。北は南千島から九州南部までの列島のほぼ全域に広がった。DNA分析によれば、このアイヌ人につながる人達はウイグル人、ヤクート人、東アジア人、朝鮮人、本土人、琉球人とも異なる遺伝的特徴を持っている。アイヌ語と日本語は類似性があるもののこれも異なる特徴を持つ。世界で孤立した言語とされるものは9つ。日本語、アイヌ語、朝鮮語、サハリン先住民のニヴフ語、バスク語、西シベリアのケット語、インダス川上流のクスンダ語。いずれも大きな大陸の中でも山や海で周りを囲まれた閉鎖的な地域に残る言語。このアイヌ語が日本列島で暮らしていた縄文人が使っていた共通語で、九州に暮らした縄文人も使っていた。弥生時代になってからも、長崎、佐賀、五島、薩摩の隼人など、漁撈生活を送っていた縄文人の一部がいた。魏志倭人伝に記述される漁撈民は彼らのこと。

九州北部では3000年ほど前に稲作が始まり、数百年かけて瀬戸内、近畿、東海道経由で関東にまで稲作文化は到達、2500年前には東北北部でも稲作は行われた。これが弥生文化と呼ばれるが、北海道では稲作は受け入れられず異なる生活様式が残る。本州が弥生から古墳時代に移行する頃、北海道は続縄文文化と呼ばれる縄文式土器の伝統を受け継ぐ文化が続く。現在でも継承されるクマ祭は、冬眠中の熊狩をしたときに、子熊を連れ帰り、数ヶ月飼育した後に秋に食すという儀式を行っていた。佐渡でも見られたイノシシ祭りも共通の文化。

本州で古墳文化が始まる頃に、北海道の北、サハリンから北海道北端からオホーツク海沿岸に移り住んだオホーツク人が13世紀頃まで定着、オホーツク文化と呼ばれる。海獣狩猟、漁撈に特化した海洋適応の文化で、現在サハリンに暮らす先住民ニヴフは彼らの末裔とされるが、北海道では13世紀までにアイヌ文化の祖先である擦文文化に吸収された。北海道で続縄文文化を受け継いだのが擦文文化、本州では奈良・平安時代の頃、アイヌたちは農耕民の影響を受けた生活に移行した。住居は竪穴式、カマドを持ち、土器は土師器、その表面に板でなでつけた文様をつけたことから擦文文化と呼ばれる。擦文文化は鉄器や農耕も受け入れ、西暦300年ころから13世紀ころまで続き、ニブタニ時代へとその文明は継承される。この時代以降、オホーツク文化は道東、ニブタニ文化は道央、和人との共住が進むことになる道南には青苗文化と棲み分けがあった。また、葬祭の儀式で使われる形式や墓の上に置く家形、三年の喪などにはサハリン、ニヴフ、アムール川流域人などにも共通点が多い。

本州が鎌倉時代、北海道は現在のアイヌ文化に連なるニブタニ文化の時代を迎える。平地式住居で鉄鍋、漆器椀が土器に置き換わる。15世紀には和人が北海道に移住を始め、交易が始まるが戦乱も起きる。アイヌ文化では、交易のための商品交換を拒絶。伝統的に行われてきた平等が破壊されるとの懸念があったのではないかと思われる。そのため、贈答、その返礼として疑似的商業が行われたり、交換場所を決めて、交換する商品を置き去り、その物品に相当、値すると思われる物品を代わりにおいて帰るという方法で「沈黙交易」が行われた。贈答文化は世界の他の狩猟民族に共通して見られる考え方。

アイヌ文化を持ったニブタニ人と和人との交易の間を取り持ったのが青苗文化人とも考えられるが、本土から移り住んだ和人は、交易の利益を独占するため青苗文化人たちを取り込んだ末、道南は和人に乗っ取られる。ニブタニ文化を受け継いだアイヌ人には、「チシャ」と呼ばれる砦のような場所があった。そこは聖域、交易に使う鹿、熊、ラッコなどの「無縁化」儀式が行われた形跡がある。神からの贈り物である獲物から魂を抜き去り、自分たちとの無縁化を図ることで、心の整理をしたのではないかという推察がある。本書内容は以上。

アイヌは千島列島、サハリン、アムール川流域にまでその活動領域を広げていたという。山岳信仰や修験道、入れ墨文化など、今でも見られる文化には色濃く縄文文化が残る。北海道や東北の地名以外にも、アシカ、オットセイ、鮭などアイヌ語が日本語として残る言葉も多い。カムイが神、アイヌは人。日本人は単一民族などというのは幻想で、日本列島には多様な文化が根づいていたこと、あらためて思い返したい。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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