日本歯周外科学会

日本歯周外科学会(会長:伊藤輝夫)より、会員および患者さんへの情報発信のページ

抜歯の世界基準:抜歯か 残す(保存)か?

2014-10-14 12:08:46 | Weblog

日本歯周外科学会会長 伊藤輝夫「J.Oral Imp.2012 No50」掲載

 有能な臨床医は治療方針を立てる際、正確な予後の見通しと、予知性の高いプロトコールの作成を行う。
現在のようなEBMに基づいた歯科治療の時代には、治療法と、その治療結果を再検証し、より良い治療法があれば、それを選択すべきである。今まで我々が行ってきた歯周治療や歯内治療、補綴治療などの予後と、戦略的抜歯を行った結果を比較検討すべきである。例えば、予後に不安のある歯牙に対し、従来の保存的治療を施していいのか、それともインプラント治療のために戦略的抜歯を行うべきかを検討する。ある歯周治療後の追跡調査によると、臨床的パラメーター(単根、複根、歯列、性別、年齢など)が多種多様で、正確な分析結果ではないが、20~30%の患者は適切なメインテナンス治療に従っておらず、また、患者の半数は、気まぐれで、不十分なメインテナンスであり、真面目にガイドラインに従っている患者は30%程度であり、多くの歯周治療後の患者は再発と再治療を余儀なくし、さらに喫煙、糖尿病、免疫障害などの全身的リスクファクターの存在により、再発を繰り返すたびに、歯槽骨はサイレントに破壊・吸収を増大する。

職業柄、歯科医、特に歯周治療専門医は歯牙を救うために、ひたすら努力する習性が染み付いているが、患者が術者の治療や指導に素直に従ってくれてこそ、良い治療結果を得ることが出来ることを忘れてはならない。加えて、我々の施術が、望ましい結果に至らない場合は、速やかに抜歯を含め、他の手段を考慮すべきである。

近年、インプラント治療は急速に普及しているが、これはインプラントによる機能回復の成功率(評価)にある。即ち、8~15年経過症例は90%を優に越えている。こうしたインプラント治療の原則的課題は、骨量の確保であることから、悪戯に歯周治療に没頭して、過大に骨を喪失することにより、インプラントのみならず、義歯の安定を欠く顎堤形態を招いてしまう、賢明な臨床歯科医はインフォームドコンセントを踏まえたうえで、過去の歯周治療概念から脱皮して、パラダイムシフト、即ち、戦略的抜歯を選択することが、進化を遂げる歯科医療のなかでは必要なことかもしれない

 ここに、戦略的抜歯の条件を考察してみたいと思う。多様な臨床的パラメーターのなかにあって、各術者の抜歯に対する条件、基準は、其々状況において異なると思うが、重要なことは、どんな歯科治療においても歯槽骨を温存、あるいは可能な限り再建し、後続する口腔機能再建処置を有利にすすめる方策をたてることである。 それには、歯周外科の術式を随所に活用すべきである、歯科医は外科医であることを忘れてはならない。                 ここに、抜歯か、保存か・・・について、判定チャートを提示するので、それらの目安になれば幸である。

 

 

 

Step 1

治療を受ける態度

 

悪い

好ましい

(初期評価)

治療の予測期間

長期

 

短期

 

審美性

 

望まない

 

 

経済状態

 

制限あり

 

患者の歯に対する
価値観

抜歯

残したい

高い

 

プラーク・コントロール

不良

普通

良好

     判      定

 

 

 

 

 

Step 2

ポケットの深さ

7mm≦

5~7mm

5mm≧

(歯周疾患の態度)

動揺度(miller‘s)

3度

2度

0~1度

 

再発性歯周膿瘍

あり

なし

 

 

骨吸収度

65%≦

30~65%

30%≧

 

骨欠損の形態

表面広く・深い

表面が広い

表面深く・狭い

 

骨移植、再生治療に対する治療費負担

不可

     判     定

 

 

 

 

 

       Step 3       ( 分岐部病変)

分岐部
(Hampら1975)

3級

2級

1級

 

歯間・分岐部の
 骨レベル

下方

同レベル

上方

 

根の異常

あり

あり

なし

 

根切除、骨移植などに対する経済的制約

あり

なし

なし

    判    定

 

 

 

 

 

Step 4

常時歯石沈着

あり

あり

なし

      (疫学的要因)

咬合異常

あり

あり

なし

 

再歯周治療

難治

再発し易い

なし

 

根の近接

あり

軽度

なし

 

歯内治療

失敗

難治

必要なし

      判   定

 

 

 

 

 

         Step 5     (修復要因)

不適切な修復物
または破損

修復不能

修復可能

なし

 

広範囲う蝕歯

多数

少数

なし

 

歯冠/歯根比

不適

1対1

良好

 

歯冠補綴の必要性

 

あり

なし

      判   定

 

 

 

 

 

Step 6

喫煙

喫煙中

 

非喫煙

     (その他の要因)

全身状態

無関心

       コントロール中

健康、常時チェック

 

ビスフォスフォネートの服用

あり

あり

なし

 

術者の技量

 

不十分

経験豊富

      判    定

 

 

 

 

 

     Total判定

 

 

 

 

      結果判定

 

 

 

 

 

 

抜歯の判定基準

 •A:歯の保存は期待できない。骨吸収増大の危険性有り。

 •B:注意深く継続管理の必要性有り、予後診査において判定の変更有り。

 •C:長期的に歯の延命(保存)が期待できる。

 
判定結果
 
 チャートの各項目を抜歯の判定基準で判定し、総合スコを以下のクラス分類で判定。

 【CLASSⅠ】全てA:早期に抜歯勧告

【CALSSⅡ】A×3≦、A×2+B×2≦:抜歯を選択すべき

【CLASSⅢ】A×2+B×1、A×1+B×3≦、B×4:抜歯を考慮

【CLASSⅣ】A×1+B×2≦、B×3:保存治療を試み、不良の場合は抜歯を考慮

【CLASSⅤ】B×2:保存治療を行い、難治かも知れないが、抜歯の可能性有り

 【CLASSⅥ】全てC、B×1:歯の延命(保存)は十分期待できる

 

 

 


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