武本睦子あっちこっちポルトガル

ポルトガルあっちぶらこっちぶら報告です。

ルドンド紙の祭

2011-08-25 | 各国いまどき報告

私の住んでいるセトゥーバルは大西洋に面し1年を通して比較的穏やかな気候だが、その東側、スペインとの国境までの間に広がるアレンテージョ地方は真夏には連日40℃近くの猛暑が続く。「真夏のアレンテージョには行くものではない!」と今までの経験でわかっていても、この夏もまた行ってしまった。「どこへ?」「ルドンドへ紙の祭りを見に…」である。

ルドンドは素朴な陶器と美味しいワインの産地、そして8月に開催される夏祭りは見応えがある。ルドンドは小さな町で、古い家並みが続いている。そうした家並みの間をいくつもの石畳の小道がめぐっている。ルドンドの夏祭りの特徴は紙細工。小道ごとにテーマを決めてすべて紙細工で飾り付けてある。


紙で作られたバルセロスの雄鶏。紙細工の天井が涼を作る。

小道の入口と出口には紙細工のアーチが作られ、その間にはひもを張り、切り紙がひもにずらりと貼り付けてある。真夏の直射日光を防いで日陰を作り、たまに風が吹くとさわさわと涼しげな音を立てながら揺れる。切り紙細工の下にはテーマにそって作られた力作が入口から出口までずらりと並ぶ。それがすべて紙で作られているのだが、あまりにも精巧で見事なので、思わず目をこらし、手で触って確かめてみたくなる。


ここは赤ん坊や幼児の小道


幼児の広場

車を飛ばして町に到着したのはちょうどお昼。祭りの間は市役所脇の公園に特設の食堂ができるので、私たちは毎回この屋台でお昼を楽しむ。町の農協メンバーがやっているらしいので、食堂のことはいかにも素人でものすごくスロー。まず前売りで食券を買うのだが、小さな窓に顔を突っこんで、奥に座っているおじさんに注文をする。メニューは窓の横の壁に手書の紙が張ってある。メニューといってもすべて炭火焼だけ。選べる品はフランゴ(チキン)か豚肉、それにイワシ。

私たちはフランゴの炭火焼一羽と焼きピーマンのサラダ、パン、それにノンアルコールビールとコップいっぱいの赤ワイン、デザートは白いメロンを注文。一品ごとに切符をきるので、全部で7枚も手渡された。それから小屋の反体側に回ると、また窓口があり、ここで切符を渡して紙のテーブルクロスとお皿とナイフとフォークを受け取った。

即席で作られた長いテーブルが数列並んでいるのだが、今年は日よけのテントが張ってないので、ほとんどの席がカンカン照り。わずかにある木蔭の席はどこも先客が座っている。半分木蔭の席をどうにか見つけてテーブルをセットした。できあがった料理は自分で受け取りに行き、飲物は別のカウンターに切符を渡して受け取る。まだお客が少ないのでよいが、混んできたら時間がかかってしょうがない。でも青空の下、木蔭で食べるのは気持がいい。フランゴはかなり焦げすぎだったが…炭火焼はやはり美味しい、デザートのメロンもぐっと冷えて旨かった。

ゆっくり食事をした後、「今年はどんなテーマなのだろう」と期待して紙の祭りの展示を見て回った。その中でも「アマゾン」をテーマにした小道は見応えがあった。


パパガイオ(オウム)の小道

アマゾンの珍しい草や花、そして生息する昆虫や動物が紙で再現されている。本物そっくりの花の上にはこれまた本物そっくりの小さな昆虫が止まっている。紙でできた木の枝には紙製のカメレオンが止まって長い舌を出し、舌の先には紙で作った小さなハエ。なんと芸が細かいこと!


アマゾンの小道。蝿を取るカメレオン。


木に着生する蘭の花に小さな虫


アマゾンのインディオ。石も竹もフルーツも人間もすべて紙で作ってある。


白むねオオハシも木の葉も紙製


別の小道ではポルトガルらしいテーマ「マタンサ」。これは秋の終りに農家で行なわれる伝統行事。これからやってくる冬に備えて、養っていた豚をしてベーコンやハム、ソーセージなどの保存食を作る作業。このテーマをとても細かいところまで再現している。


「マタンサ」の小道。豚もナイフも人形も服や靴もすべて紙。


まず母豚が子豚に乳を飲ませているところ、次には豚を解体する場面、豚肉をミンチにして腸詰のチョリソ(ソーセージ)を作るところ、チョリソなどを乾燥、燻製する小屋など…これがすべて紙で作られているというのがすごい!


豚肉をミンチにする。これもすべて紙製。


チョリソを燻す小屋。チョリソも小屋も鍋も紙製。赤い服のおじさんは紙製ではありません。


 その他にも、世界情勢を反映して、経済新興国ロシアと中国をテーマにした小道もあり、バラエティに富んでいる。


ロシアの小道


2時間ほど猛暑の中を歩き回ってふらふら。この時間、歩いているのは観光客だけで、町の住民は窓を締め切って食後の昼寝をしているのだろう。夕方からぼつぼつ人が出て、夜9時過ぎから特設舞台で演奏が始まり、夕食を終えて待ちかまえていた人々が踊り出す。それから夜中の1時まで祭りは盛大に盛り上がる…。







ヴィアナ・ド・カステロのロマリア祭

2011-08-25 | 各国いまどき報告

北部ミーニョ地方の町ヴィアナ・ド・カステロの夏祭り。去年に続いて今年も350キロの道のりをものともせず出かけた。といっても運転は夫で、私は横に座っているだけなのだが。

ミーニョ地方はポルトガル発祥の地と言われている。十一世紀にキリスト教徒がイスラム勢力から国土を取り戻そうと起こしたレコンキスタ(国土回復運動)。そのとき活躍したフランスのブルゴーニュ公爵に与えられた領地だった。それがポルトガル発祥の土台になり、イスラム勢力を南へ南へと追い出して領土を広げていった。祭りを見ると、そのころの文化が今でも色濃く残っている。

祭りに参加する人々は男も女も伝統的な衣装を身につけ、女性たちは代々伝わる金の首飾りを何重にも胸にかけて練り歩く。去年はニュースを見て、急に思い立って出かけたので、着いたのは最終日の夜8時過ぎ。すごい人出と人垣で、祭りの行列は隙間からしか見えず、周りが暗いので写真もあまり取れなかった。今年は昼間の行列をぜひ見たいと出かけた。町の入り口あたりからすでにどこもここも車がびっしり駐車している。観光バスも次々と到着。バスから降りた人たちがぞろぞろと中心に向かって早足で歩き、どの顔からもかすかな緊張と興奮が感じられた。

この「ロマリア祭」はアゴニア教会を目指して各地から巡礼者が集まる。去年、道路わきの空き地にテントを張って泊り込んでいる人々をかなり見かけたが、彼らは祭りの4日間をそうして過ごす巡礼者だったのだろう。中心地では、駅から港へ通じる大通りの両脇に階段状の観覧席が設置されている。去年は無料だったが、今年は有料で8ユーロ。それも全席すでに売り切れだという。その他の道路沿いは無料だが、どこも最前列はプラスティック椅子や折りたたみ椅子などを置き、早い時間から場所取りをしている。祭りの行列は午後の4時から始まる。でも後ろの方だと人の頭しか見えなかった去年の苦い経験があるので、最前列はもう無理だとしても絶対に2列目は確保しようと、私たちもずいぶん早くから場所を決めてそこを動かないことにした。

通りの両側はだんだんと人が増えて、車両進入禁止の道路では手押し車に折りたたみ椅子を満載した「にわか椅子屋」が何人もいて、掛け声を上げてひっきりなしに行ったり来たり。あちこちから声がかかり、飛ぶように売れている。行列の間ずっと立っているのも大変なので私たちも買った。これでゆっくりと長時間見られる。

3時ごろになると、祭りに出演する人たちが晴れやかな伝統衣装を着て、次々とやって来た。出発の集合場所に向かっている姿は楽しそうだ。親たちはもちろん、小さな子供たちや赤ん坊まで晴れ着を着て、まるで日本の「七五三のお宮参り」のよう。


見事な刺繍がほどこされた伝統衣装。


母親に手を引かれて祭りの集合場所へ急ぐ子供たち。


母親に抱かれたこの小さな子供たちも、行列では母親と一緒にダンスを踊った。


4時を少し過ぎて、いよいよ始まった。先頭は「ギガンテ」と呼ばれる張りぼての巨人たち。高さが3メートルほどで、フラフラしながら太鼓に合わせて踊る。大太鼓の小気味良いリズムと音が腹に響き、沿道の観客も一気に祭りの雰囲気に引き込まれる。

昔は牛か馬が引いていたのだろうが、現代はトラクターに引かれた祭りの台車がやってくる。台車ごとにテーマがあり、まず今年の「ミス・ロマリア祭」に選ばれた女性、そして黒いドレスに何重もの金の首飾りを着けた上流階級の女性たち、手には金銀の飾りに包まれたロウソク。新郎と腕を組み、白いブーケを手に持つ花嫁。昔の服装をした貴族夫婦や商店の夫婦たち。

昔からの町の産業と特産物を再現した台車も次々にやってくる。陶器の台車では土をこね、足で蹴るロクロの実演、ビーニョ(ワイン)の台車ではぶどう棚に本物の葡萄の葉と実をつけて、後ろにはビーニョ樽があり、コックを開けて甕に移し変えたのを沿道の観客に振舞っている。

ミーニョ地方の特産「ビーニョヴェルデ」は発泡性ワインで、フランスのシャンパンの元祖みたいで素朴な味。グラスではなく茶碗で飲む。私の前に座ったおじさんが強烈に要求して、何杯ももらっていたが、ついに私の横にいる女性が手を出してその茶碗をむんずとつかんで奪い取り、飲んでしまった。おじさんはあっけに取られ、周りは爆笑。


大太鼓小太鼓のリズムに合わせてユーモラスに踊るギガンテたち。


金銀細工で飾ったロウソクを捧げ持つ女性。胸にはずっしりと重たそうな金の首飾りが。


上流階級の新郎新婦。


発泡性ワイン「ビーニョヴェルデ」は厚手の茶碗で飲む。観客に振る舞い酒。


台車はますます庶民的になり、もうもうと煙を振りまくサルディーニャ(イワシ)の炭火焼まで実演。希望者が台車に駆け寄って手を出す。若い女性たちがパンやお菓子をくばり、その後を蜂蜜の壷を抱えた女性たちが観客たちの差し出したパンに付けている。ちょうどみんなお腹がすくころだから、大喜び。


行進する台車の上でイワシの炭火焼。


壷に入った蜂蜜を振舞う。


マリア様へ薔薇の花の捧げもの。かなり重そうで、途中で隣の女性と交代。


華やかな衣装を着た年配の女性たちが頭に大きな花かごを乗せている。花かごの中にはレイタオ(生後間もない子豚の丸焼き)。これはさすがに試食はない。

あとの方になると、漁師たちの台車が来た。本物の漁船の上ではヤスに本物の蛸を突き刺したり、別の漁船ではモリの先に何やら長いものを突き差している。それは、長さ1メートルほどもあるランプライア(ヤツメウナギ)だ! 遠目にも点々と8個の眼(眼と7個の鰓孔-えらあな-)が付いているのが判った。ミーニョ地方の特産だ。

農家の人々は鋤や鍬を持ち、女性たちは野菜やトウモロコシを入れた籠を頭に乗せて行進。台車と台車の合間には、民族衣装で着飾ったフォークロアの人々が民謡を歌いながら踊る。小さな子供たちも母親の踊りをまねて踊っているのが、なんとも可愛らしい。

この祭りは「ノッサ・セニョーラ・ダ・アゴニア教会」の宗教行事を中心に、敬謙なキリスト教徒である貴族、町民、漁民、農民など、あらゆる階層の人々が自分たちの職業と衣装にほこりを持って生きてきたことを確認するための4日間なのだろう。みんなが生き生きと祭りを楽しんでいた。


マリア様への捧げもの。レイタオ(子豚の丸焼き)の入った籠を頭に乗せて。


漁師たちが集まるバル(一杯飲み屋)を再現。台車の上で飲み食いして盛り上がっている。


フォークロアの演奏。


楽隊の演奏に合わせて唄い踊り始めたフォークロアの人たち。