「空気」に異議あり!

世の中の「空気」のいくつかを相対化していきます。初めての方は、左下の「カテゴリー」の「注意事項」をご覧ください。

人権侵害救済法案への論評の紹介

2011-12-29 | 権利と空気
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新法案(「人権侵害救済法案(概要)」)に騙されるな!
「危険」で「無駄」な人権委員会制度        日本大学教授  百 地   章

1、今回の法案では強制調査や過料もなく、問題はないように見えるが、危険な本質は変わらない

(1)「人権侵害」の定義は、これまでと変わらず曖昧なため、濫用の危険は依然、解消されていない

①法案では「人権侵害」とは「不当な差別、虐待その他の人権侵害及び差別助長行為」を指すとされて
いるが、「その他の人権侵害」とは何か。これではいくらでも拡大でき、濫用されるおそれがある。

②法務省は、「人権侵害」とは「民法、刑法その他の…法令の規定に照らして違法とされる侵害行為」としているが、これはあくまで説明にすぎず、実際にそのような解釈が守られる保証はない。なぜなら、何が民法等に違反する違法行為かは、本来、中立公正な裁判所の慎重な審理を経て初めて結論づけられるものだからである。それに対して、この制度では、人権侵害の訴えがあると人権委員会は速やかに対処しなければならないことになっており、次々と出されるであろう「人権侵害救済の申し出」について、申し立て人の一方的な主張だけをもとに人権委員会が中立公正な判断を行うという保証は何もない。それどころか、「政府からの独立」を理由に、一切の政治的コントロールを受けないまま、人権委員会が暴走する危険さえはらんでいる。


(2)この法案(概要)では、従来の「差別的言動」に代えて「差別助長行為」を禁止しているだけだが、
実体は変っておらず、憲法で保障された表現の自由を侵害し、自由社会を崩壊させる危険がある

①法務省の説明では、「差別助長行為」とは、「人種等」を理由とし、「不当な差別的取扱いを助長・誘発することを目的」として、「情報」を「文書の頒布・掲示等の方法により公然と適示すること」とされている。しかし、これは「差別的言動」の取り締まりそのものである。しかも「不当な差別的取扱い」の定義がなされていないため、人権委員会独自の判断で、表現活動を自由に取り締まることが可能となる。これは、曖昧不明確な基準をもとに表現の自由を規制し、表現活動を委縮させるものであって、憲法21条に違反する。

②法案では「マスコミ規制」は対象外とされているが、メディア関係者も一個人としては当然、規制の対象となりうる。それゆえ、新聞や雑誌の署名入り記事など、真っ先に糾弾の対象とされよう。


(3)今回の法案(概要)では、令状なしの「強制調査」がなくなり、拒否した場合の「過料」も見送られ
たのだから、問題はないとする意見も見られるが、これは安易すぎると思われる

・人権侵害救済法が存在しない現在でも、法務局は人権侵害の訴えがあると任意の呼び出しを行っており、外務省主催の「意見交換会」において在日韓国・朝鮮人特別永住者の特権について批判的な意見を述べたというだけで「差別」であり「人権侵害」に当たるとの告発がなされ、呼び出しを受けた実例がある。これを見ると、法務局では何が「人権侵害」に当たるのかまともに検討をしないまま、訴えがあったというだけで直ちに呼び出しを行っていることがわかる。これが実態であることを考えると、もし人権侵害救済法が制定されたら一体どうなるのか、極めて深刻な事態が予想される。


(4)「任意調査」しか行わない組織を、なぜ「3条委員会」にする必要があるのか

①「3条委員会」とは、人事院や公正取引委員会などのように「形式的には内閣のもとにありながら、実際には内閣の指揮監督を受けず、独立して職権を行使する行政機関」を指す。つまり内閣の統制が及ばず、それゆえ内閣を通じて国会がコントロールすることもできない強力な地位と権限が認められ、委員には「意に反して罷免されない」身分保障まで与えられている。そのため、「行政権は、内閣に属する」と定めた憲法65条や「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」と定めた憲法66条に違反しないか、といった疑義もあり、あくまで「例外的なもの」とされてきた。

にもかかわらず、「任意調査」しか行わない人権委員会を、なぜ「3条委員会」にする必要があるのか。現在でも、法務局は「任意調査」を行っており、単に「財政的な独立を維持するため」という理由だけで人権委員会を「3条委員会」とすることには無理がある。したがって、明確な理由も示せないまま「3条委員会」を強引に設置するのは、憲法違反の疑いさえある。

②民主党内の推進派や法務省は、「小さく生んで大きく育てる」との戦略のもと、ハードルを下げて無難を装い、何とか通過させようとしている。つまり、「強制調査」や「過料」については批判が多いことから、取りあえず法制化は見送るものの、「3条委員会」さえ設置しておけば、あとはどうにでもなるという考えではないか。そのように考えれば、法務省が「3条委員会」に固執する理由も理解できる。しかし、これは本末転倒であって、絶対に認められない。


2、現在でも様々な制度があり、人権侵害は救済されているのだから、人権委員会など無駄である

(1)現行制度(法務局、人権擁護委員)の下で、99%の人権侵害は救済されている。

①法務省の統計によれば、毎年、約2千件の「人権侵犯事件」が発生しているが、99%つまりそのほとんどは現在の法制度のもとで救済されている。

②救済方法として、新しい人権委員会制度のもとでは「援助」「調整」「説示」「勧告」「要請」等が行われることになっている。しかし、すでに現在でも法務省訓令に基づき「援助」「調整」「説示」「勧告」「要請」等は行われているのだから、改めて人権委員会など設置する必要はない。


(2)法務省は、「政府から独立した人権委員会」(3条委員会)を設置しなければならない理由として、以下の事柄をあげているが、いずれも正当性を欠くと思われる

①人権擁護推進審議会の「答申」(平成13年)

   ・この答申は、10年も前に出されたものであって、すでにそれ以前から「ストーカー規制法」「児童虐待防止法」「人権教育・啓発推進法」「配偶者暴力防止法」が作られているほか、答申後も「総合法律支援法」「裁判外紛争解決法」「高齢者虐待防止法」「障害者虐待防止法」など、きめ細かい個別法が多数制定されており、今更、屋上屋を重ねる包括的な一般法など作る必要はない。

   ・もしこれらの法律に不備があれば、改正によって対処すれば十分である。

②「パリ原則」(1993年(平成5年)、国連総会決議)

   ・この原則も18年も前の決議にすぎず、今更、新しい人権委員会など不要である。

   ・法務省は、「パリ原則」を根拠に、「政府から独立した機関」つまり「3条委員会」(後述)が必要としてきたが、パリ原則は「政府から財政的に独立した機関」を要求しているだけである。


3、それでは、一体だれが何の目的で、このような危険でムダな法律を作ろうとしているのか?

①それは「法務省の省益」や「解放同盟の利権」などのためといわれている。

・人権委員会の設置にともない、中央には事務局が設置され、全国所要の地に現地担当官や事務局職員が配置されることになっている。また、人権擁護委員は新たに非常勤の国家公務員とされ、「専門的な知識経験を有する者」を委嘱することも可能となる。これは法務省にとって絶好の天下りの場となろう。

・他方、同和対策特別措置法等のもとで、国から総額約15兆円に及ぶ財政支援がなされてきたが、法律の廃止後、解放同盟はこれに代わる法律の制定を強く求めてきた。これも大きな理由とされている。

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今回は細かいお話は避けますが、百地氏の分析以外に感じることは、
日本の知識人達が国民をバカにし、国民の一切のチェックなしに自分達が好きなように権力を揮いたい
という欲望が見え見えの法案だという印象ですね。


最後に、人権侵害救済法に対する東京での抗議行動のご案内です。

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2 月4 日、人権侵害救済法反対デモにご参加を

日時:平成24年2月4日(土)13時 日比谷公園霞門に集合 

13時半デモ出発 15時常盤橋公園で解散

「言論の自由を奪う人権侵害救済法に反対する地方議員の会」

    会長   町田市議  大西宣也(携帯 090-4711-3716)

事務局長  渡辺 眞(携帯 090-1113-2061)

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8 コメント

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どうでもいいコメントかも知れませんが… (かず)
2011-12-30 00:54:18
>「不当な差別、虐待その他の人権侵害及び差別助長行為」

よく契約書に。
ネットの場合だと、何かをダウンロードする際に提示されるものですが…。
物品の購入者や、サービスの利用者が、要らぬ問題を引き起こして、会社(サービスや物品を提供する側)に損害を与えない様に。
また、要らぬ係争、法廷闘争を避け、物品の売買やサービスの円滑化を図る為に、「以下の文面・規約に同意出来る方は、同意するをクリックしてください。」と表示され、考え得る様々な状況に対応するべく、
例えば、
「こういう場合(例:ユーザー同士のトラブル)は、会社(サービスを提供する側)は責任を負いかねます。」
「こういう場合、お客様の責任として、会社側は対応出来ません。」
「こういうことをお客様がされた場合、サービスの停止や退会処分をする場合もございます。」
等と、細かく規約を掲載し、それに受諾した者だけが、物品の購入やサービスの利用権限を与えられるシステムが、資本主義社会では必須となっています。

その規約の中に、「その他、迷惑行為が行われた場合…」「その他、会社に損害を与える行為を行った場合…」という文言が必ず挿入されています。

それは何故か。
要するに、規約を作った時点では予測出来なかった事態に対応する為。
もしくは、考え得る可能性が余りに多岐にわたるので、それを省略する為に、こういった文言が挿入されているのです。

少し話は違いますが…。
憲法を始めとした法律全般も、事細かな条文を定め、制限を設け過ぎることにより、「その事態、その出来事にしか対応出来ない」という状態に陥らない様に、解釈の幅を持たせる様に工夫されているのかも知れません。
こういうグレーゾーン、見解の差異・相違が出来る余地があるからこそ、弁護士等、法律に携わる国家資格を保持した者や、学者、業者が活躍出来るのです。
(これも一種の権益と言えなくもないですが…。)
逆に言うと、特に憲法・防衛問題絡みで言われる、「拡大解釈」「縮小解釈」といった論争が発生する原因となります。
(防衛の話をさせてもらうと…、以前、チャンネル桜の番組で聞いた話ですが、現在、自衛隊では、戦闘時にして良い行為だけを挙げた、所謂「ポジティブリスト」というものが採用されているそうです。
そのリストにイチイチ照らし合わせて、戦闘に対処しなければならないのなら、その分、判断の遅れを招くことになるでしょう。
しかし、その逆でアメリカでは、戦闘時にしてはいけない行為を挙げた、「ネガティブリスト」が採用されているそうです。
つまり、大袈裟に言えば、「これと、これと、これはしてはいけないが、それ以外の行為は、安全を保持する為、勝つ為に何を行っても良い」というシステムです。
条文の縛りや理念というものは、こういうところにも表れている様です。)


で、今回の話ですが…。
この人権擁護法案の場合、上記の(法の監督下にある)会社が個人とのトラブルを極力避ける為に行う、売買契約における「その他」という規約の性質とは対称的に、百地氏が言われる様に、具体的な制限が設けられず、審判も受けない行政機関が、「その他」という条文を利用することにより、私的解釈に基づいた、権利・権限の濫用を行う可能性が十分に考えられ、一度、法律が施行された後、人権委員会の制限ではなく、更なる権限の付与・強化が懸念される以上、僕はこの法律の制定に反対します。
(公取、特に人事院の場合、それを統括する為の権力、つまり内閣を構成する人々や関係者にとって不都合な審議や判断を阻止する為に、内閣からの圧力により、審議や判断が行われない可能性も考えられなくもないので、それを考慮した場合、公取・人事院を例外的に3条委員会とするのは、分からなくはない様な…。
しかし、人事院は官界にとって都合の良い組織と化しています…。)


本来なら、反権力を謳うマスコミや左翼系の団体、アナーキスト等が盛んに抗議しそうなものですが、「人権」という二文字や、この法律の制定を推進する背景となっている物事は、こういう方々に対し、免罪符として効力を発揮するのでしょうかね。
余計な圧力を受けたくない為、原理主義的な理想の追求の為、新たな権益の保持の為ならば、許されてしまうのでしょうか。


今回のコメントは一旦ここまでにしておきます…。
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>かずさん (太一)
2012-01-12 21:46:36
>具体的な制限が設けられず、審判も受けない行政機関が、「その他」という条文を利用することにより、私的解釈に基づいた、権利・権限の濫用を行う

特に法律系の知識人は一般国民をバカにしていますし、
できれば自分たちの思うままに処分したいと思っているでしょうね。

あと最初罰則がなくても、運用してから
「このままではこの法は何の効力も発揮しない」
などと言って、後程罰則を設ける可能性が高いと思いますね。

>人権」という二文字や、この法律の制定を推進する背景となっている物事は、こういう方々に対し、免罪符として効力を発揮

そうですね。
欧米の権威が作ったものには無条件にひれ伏す日本人が多いですよね。
特に法律系の知識人の中には。
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Unknown (B.I)
2012-01-26 03:42:25
TPP反対署名協力のお願い。
2月1日14時よりTPP反対署名の募集が行われます。
ご協力をよろしくお願い申し上げます。


署名の詳細:http://p.tl/oQ-G
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Unknown (aoi)
2012-02-04 12:17:04
今日のデモ行きます!
一般人主催のデモばかりあったけど政治家が動いてくれて嬉しいです。
一緒に頑張りましょう。
返信する
>B.Iさん (太一)
2012-02-04 19:02:29
日本人は海外に向かって黙っているだけで意見を言わないので、
署名活動もデモも賛成です。

ただ特にトピずれの場合は活動の理由になる意見を
書いていただければと思います。
返信する
>aoiさん (太一)
2012-02-04 19:04:42
政治家は事なかれ主義の人が多いので、
こういう運動に参加してくれる人は貴重ですね。
私は今は遠く地方にいて行けませんが、是非頑張ってください。

残念ながら、日本人の多くはデモという行為自体を恥だと勘違いしていたり、
(事なかれ主義と冷静至上主義からくるものですが)
仮にデモをやっても、周りからどう思われたかばかり気にする人も見受けられます。
実際、一般人が多く参加したデモの後のネットでは、
白い目で見られたからどうだとか、一部過激な人がいて恥だとか、
相変わらず周りからどう見られたかばかり気にする書き込みも目立ちます。

日本以外の国のデモは、周りの目よりも自分たちの主張をすることを優先します。
ただでさえ力のない庶民だからこそデモという行為に出るのであって、
「周りからどう見られるか」などは二の次三の次で当然だと思います。

どうか、白い目で見る人がいようが、
周りからの目ばかり気にして過度な反省会をしたがる参加者に惑わされず、
ご自分の思いのたけをデモで出していただけると幸いです。

もちろん、デモの中心の人たちの主張が自分の主張と少しズレていることも
あると思いますが(私もよくありました)、全て同じ意見の人はいませんので、
まあ大目に見て、自分は自分の意見を主張されるといいと思います。
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動画公開されました (碧庵)
2012-02-04 22:36:19
本日はお疲れ様でした
写真と動画を公開いたしましたので御報告します
返信する
>碧庵さん (太一)
2012-03-28 22:43:29
だいぶ時間が経ってしまいましたが、
あらためてリンクを貼っておきますね。

http://ts25mumon.wordpress.com/
返信する

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