K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

Ai Weiwei: Making Sense

2023年07月22日 | 美術
大変ご無沙汰しております、と書き出すといかにもビジネスメールのようですが、渡英して以来一度もブログを更新できず気づけば1年もの間放置しておりました…自分には継続力が足りないなとつくづく思う限りです。本当は去年ボテロの展示や2022年の映画ランキングについても書きたかったりしたのですけれども。

ロンドンに住み始めてから、美術愛好家の私としてはこの上ない体験ができていますが、特にテート・ブリテンでミレイの『オフィーリア』を鑑賞した際の感動と言ったら!(※妹曰く絵と自撮りする人初めて見たとのこと)「おれが心から美しいと認めてしまったもの、その前でおれは無力になる…」というユダの台詞の深みを感じたものです。

前置きが長くなりましたが、今回は美術展の感想文です。London Design Museumで開催されていたAi Weiweiの個展『Making Sense』に先月行ってまいりました。実は昨年ヒースロー空港でAi Weiweiご本人に遭遇(!)し、何かあるのかなと疑問だったのですが、この企画展のためだったようです。

《展覧会概要》
艾未未(アイ・ウェイウェイ)は、今日活躍するアーティストの中で、最も重要で、認知度の高いアーティストの一人です。アート、建築、デザイン、映画、コレクション、キュレーションなど、その活動は多岐にわたります。
アーティストとのコラボレーションによるこの大規模な展覧会は、彼の作品をデザイン的に解釈し紹介する初めての試みであり、私たちの価値観の変化を明らかにします。物質文化との関わりを通して、艾未未は過去と現在、手と機械、希少性と無価値、建設と破壊の間の緊張感を探求しています。
この展覧会は、艾未未が中国の歴史的工芸品に魅了され、その伝統的な職人技を、中国における解体や都市開発の最近の歴史と対話させるものです。その結果、無視されたり消されてしまった歴史や技術といった価値についての瞑想が生まれます。
アーティストの最も重要な作品の数々を、未公開のコレクションやこの展覧会のために新たに制作された作品とともにご覧ください。
(特設サイトの'What to expect'項目をDeepLにて翻訳&微調整)

こちらの企画展で作品群は「①Evidence」「②Construction/Destruction」「③Ordinary Things」の3つに分類されており、空間自体が複層的に演出されています。



艾未未的対極主義

私個人の印象としては艾未未は移民問題に深い関心を抱く作家の印象がありますが、今回は展覧会概要にもあるように、価値観の対極的なシフトに焦点を当てた展示会でした。特に急成長する中国の都市のメタボリズムに対する関心が高いように感じました。
しかし、メタボリズムに対する態度は決してポジティブなものではなく、「急速に発展する」ということに対し警鐘を鳴らしているようです。印象的だった作品は異なる二つの作品を組合せたインスタレーション作品。


平面作品:《Untitled (LEGO incident), 2014》 立体作品:《Through, 2007-2008》
※平面作品で使用されているレゴは、政治批判的な艾未未の制作活動に対してレゴブロックの販売を拒否したLEGO社の対応に反応した一般人から寄贈されたもの

床一面に敷き詰められたレゴブロックは急速に発展した都市の脆さを鑑賞者に想起させ、その上で力強く屹立する木製の柱と椅子が歴史的なものの永続性を示唆します。カラフルなレゴと茶色い木の組み合わせが、素材的・色彩的な対極も実現しているのが視覚的にも面白いポイントです。
美術業界において対極にあるものの止揚を求めた作家といえば、私としてはまず岡本太郎の対極主義が思い浮かびます。抽象と具象の間での作品作りに腐心したのが岡本太郎だとすれば、艾未未は主に歴史と進歩を題材とした対極主義的作品を発表したと言えるかもしれません。

因みにこちらは漢王朝の壺にCoca Colaのロゴをあしらった作品。古今の文化を代表する価値観を組み合わせることで、鑑賞者に価値体系とは何なのか問いかけます。


《Han Dynasty Urn with Coca-Cola Logo, 2014》

新石器時代の斧からiPhoneの型を抜いた作品もありました。モダンテクノロジーが古くからの工芸にルーツを持つという、こちらも歴史と進歩の対極主義的作品ということになるでしょう。


《iPhone Cutout, 2015》



モネの睡蓮の再解釈 

今回の展示の目玉としても紹介されているのが本展のために制作された新作《Water Lilies #1》です。こちらもレゴを素材としており、巨大な睡蓮の作品を形作っています。どの睡蓮を参照したのかは不明ですが、かなり抽象度が高いので晩年近くのものでしょうか。


《Water Lilies #1, 2022》

レゴの最小ピースでモネの睡蓮をピクセル的に再構築した、という点は、視覚的には印象派から新印象派への転換にしか過ぎない気がしますが、面白かった解説は「モネの池も人工的なものである」というものです。油絵からレゴという「比較的ナチュラルなもの」から「人工物」へのメディア/素材転換と同時に、対象としての池も「自然の中の池」ではなく「理想化された池」という点で相似関係にあることを指摘しています。
高知県北川村に「モネの庭 マルモッタン」と いう観光スポットがありますが、確かに「再現可能な池」というのはそれ自体が異様な表現であるように聞こえますね。因みに一昨年訪問しましたが非常に再現度が高くて感動しました。ゆずジュースも美味しいので高地訪問の際はぜひ。





やっぱり移民問題も

個人的に好きだったのは《Life Vest Snake》というベストを数珠つなぎにして蛇を構成したインスタレーション作品です。

《Life Vest Snake, 2019》

視覚的にインパクトがあったのも良かったですが、何よりやはり移民問題を作品に昇華する抜群のセンスをここでも感じます。ここで使用されているベストは難破した移民船で亡くなった移民が着用していたもの。
2017年に発表された艾未未の映画『ヒューマン・フロー』はまさにこの移民問題を扱っており、象徴的なアイテムとしてライフベストに焦点を当てていました。※映画の感想はこちら


対極主義的な見方としてキャプションには人工物と自然災害を結びつけたと書いてありますが、それと同時に私は救命のためのベストが移民の死を纏っているという皮肉めいた対極性も感じます。

その対となるように置いてあったのが四川大地震で亡くなった子供たちのリュックサックを数珠繋ぎにした《Backpack Snake》という作品も置いてありました。なお、蛇のモチーフは予想できない複雑な自然の驚異とのこと。


《Backpack Snake, 2008》

そんなに規模は大きいわけではないので、1時間程度もあれば十分に作品を堪能できるかと思います。企画展は今月末までやっているそうなので、もしロンドンにいらっしゃることがあればぜひ訪問してみてください。※グローバル巡回とかしないのかしら…

余談ですが、イギリスでこの作品のグッズ(イギリスの国会議事堂に中指を突き立てた作品)を大量に売っている辺り、イギリス人のシニカルな側面が出ていて笑いました。
※因みに私はこのデザインの折り畳み傘を買ったものの、街中で差す抵抗感が半端ないです…笑




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