石川与太読書紀行

ドロップアウト、オーガニック・ブンガク

別世界通信

2010-02-27 10:17:34 | 書誌関係
「別世界通信」荒俣宏・著 1977年


<ファンタジー>とは何ぞや?その定義、理論、その歴史、作家論、作品論を語る。これが処女エッセイ。瑞々しい文章が出色。

小難しい理屈皆無。語り口の確かさでスラスラ読める。取り上げられた作品を読みたくなること保障。ボクはG・マクドナルド「リリス」読み始めました。
巻末に上げた推薦本<書籍の片すみに捧げる100冊>は、これから何度も参考にし、読み返すに違いない。此処だけで元取れる。

ボクの中でこの著者の存在、澁澤と風間賢二を繋ぐミッシングリング。「繋がる」と言うなら、この人の理論を通せば、サイバーパンクもサドもスプラッタパンクも<ユートピア>でトールキンやH・G・ウェルズやルイス・キャロルと繋がる。
ファンタジー小説、実はジャンルレスなのだと画期的(?)な発見。

改訂版が出てるそうだけど、そっちは未読です。

★★★★

バカカイ

2010-02-26 09:50:48 | 海外小説
「バカカイ ゴンブローヴィチ短篇集」ヴィトルド・ゴンブローヴィチ著


シュールレアリズム趣向の個性派。何気なく読んだ長編「コスモス」の面白さに狂喜。短編はその個性、より濃密に味わえる。著者の入門用には最適かと。

「クライスキ弁護士の舞踏手」(1926)は主人公の片思いがテーマ。例によってシュールな手腕を発揮。同年作「ステファン・チヤルスキの手記」も痛烈な毒が塗された、青年の回想録。一人称の切り詰めたスタイルで描いた快作。

不条理な設定の「計画犯罪」(1928)は主人公の主観のみで描き、同年「コットウバー伯爵夫人の招宴」はルイス・ブニュエルばりの不条理劇。これも同年「純潔」もまたまた不条理に幕切れる。

「冒険」(1930)は内容はサディスティック、でも文体は陽気で明快。その落差がシュールさ増幅。カフカも逃げ出すような面白さ!<独創的>とはこの作品のためにある言葉。
「帆船バンべり号上の出来事」(1932)も悪くない。クエイ兄弟に映画化してもらいたいシュールな一編。

以上七編、処女短編集「思春期からの手記」発表作。で本著には三篇の<おまけ>付き。

主人公の奇妙な恋心描く「裏口階段」(1929)はもっとシュールに飛躍しても良かったかも。題材が面白い「ねずみ」(1927)は何かのパロディ?後半乱調になるけど。風刺劇の「大宴会」(1940)は悪意しか感じず、今イチ。

★★★★

小遊星物語

2010-02-25 07:56:47 | 海外小説
「小遊星物語」パウル・シェーアバルト著 1913年


早くも今年のワースト本に決定!ってぐらい失望しまくり。

種村季弘が邦訳してるってことで、どれだけ期待したことか。その期待、数ページで裏切られた。パラス星を舞台にしたファンタジーの中身、かなり陳腐!全てがアイディア止まりで、イマジネーションを文章に焼き付けるだけの筆力に欠けている。

著書の文章力、中学生の作文レベルだと思う。失礼ながら、途中でページ閉じた。そのぐらいの駄作。当時も今も、評価低くて当然。
これを「ドイツの稲垣足穂」と持ち上げる人いるのにビックリ。思考停止してる?


地球礁

2010-02-20 07:36:11 | 海外小説
「地球礁」R・A・ラファティ著 1968年


邦訳・柳下毅一郎ってことで手に取ってみた。
作家の名前、噂だけ耳してた。でもSF作家ってことで遠慮してた。「あとがき」でも指摘されてるけど、SF作家ではない。マジックリアリズム作家が正解かと。

地球で暮らすプーカ人家族の物語。いきなり子供達が鬼畜な与太話始めるプロローグに唖然。好きな感じ。一気引き寄せられた。「これ買ったの正解」と喜んだ。しかし面白いのは此処まで。本編入ると失速する。

父親が殺人罪で逮捕、子供は逃亡。物語は作劇に四苦八苦。堂々巡りの退屈なコント繰り返されるだけ。かなーり陳腐。ガックリ。「結末を先延ばしにする展開、何かの意図あるのでは?」深読みしてみたけど、ただアイディア倒れなのが正解と思う。

柳下氏がB級マニアなの合点してたけど・・・。

★★

ブレストの乱暴者

2010-02-19 09:25:01 | 海外小説
「ブレストの乱暴者」ジャン・ジュネ著 1947年


ブレストの街蔽う霧。犯罪者や死体隠し、生死を曖昧にし、男女の性別まで隠す。長編4作目。

ファスビンダー監督の映画版「ケレル」観てたから、内容把握してるつもりだったけど、全く別物だった。かなり脚色されてる。映画版蔽ったのがオレンジ色だったら、こっちは霧。

船乗り、左官工、刑事、ヤクザ者etc、多彩な群像劇スタイルで、全てを繋ぐのが<男色>関係。それも主要キャラは主人公のアナル通して一つになる。
主人公がオカマ掘らせる理由は<贖罪>。殺人犯した後、償いするようにヤクザ者に掘らせる。刑事には逮捕の代わりに。左官には罪擦り付ける代わりに掘らせる。逆に自分を片思いしてる上官には、左官騙して襲わせる。

著者の美意識が全編に貫かれた力作だけど、かなり饒舌。そして展開が性急。そこもまた個性になっているから、欠点とは言い難いのが難しい。小難しい理論、比喩が延々と続く前半には辟易した。物語と乖離してるから。
そこに才気見出す人いるの分かるけど、僕はその才気が鼻につく。タイトにまとめてほしかった。比喩は全て上官の手記(モノローグ)で描き出せてると思うから。

後半はストーリー、作劇に焦点絞られて快適なテンポ。なのに終盤、著者が「テンポ上げ、先を急ごう」と講談調で顛末綴り始める始末。蛇足だったと思う。

★★★

小説アイダ

2010-02-18 08:41:48 | 海外小説
「小説アイダ」ガートルード・スタイン著 1941年


ガートルード女史を初体験。もちろん名前存じてた。齢70過ぎた晩年作とは思えない瑞々しさで驚いく。とても実験的。こんなユニークなスタイルの作家だったなんて!食わず嫌い反省します。

ヒロインの幼年~晩年までのアイデンティティー巡る物語。でも非大河ドラマ。飄々としたキャラクターと文章。
エピソードが一気飛んだり、戻ったり。詳細にディテール描写したかと思えば、脇人物がオブジェのように描かれ、時には自分自身までオブジェと化す過激さ。ジャズのアドリブの如く自由自在。徹底的に物語性解体する。
そこに脳内リンクしたのデビッド・リンチ。随所に挿入されるドッペルゲンガーのようなエピソードは「インランド・エンパイア」みたい!
 
前半はイメージの氾濫が圧倒的で傑作の予感。でも後半、アイディア切れてしまう。シュールにオトそうとする作意見え過ぎて失速。でも面白いです。 

★★★★

スターン氏のはかない抵抗

2010-02-17 08:58:18 | 海外小説
「スターン氏のはかない抵抗」ブルース・ジェイ・フリードマン著 1962年


シニカルなコメディの傑作!その語り口、ウディ・アレン作品ばりの軽妙さ。皮肉な視点と自虐ギャグ、早いテンポの文章、キャラ立ちまくった人物達、豊かなディテール。著者の才気に惚れた。他著も読みたい。

物語、主人公家族が田舎暮らし始める所からスタート。しかし望んだようなスローライフは味わえず、帰還兵の粗暴なワスプからのイジメを受ける羽目に。
まず妻へのセクハラからスタート。それを我慢する夫・・・サム・ペキンバー「わらの犬」そっくり!でもダスティ・ホフマンのように猟銃で復讐しない。じっと我慢し精神病んで行く。読み手は共感しつつ、笑ってしまう。「笑いとは、観客との不幸の距離感」とはウディ・アレンの言葉だった。

中盤、意外な展開。病んだ夫は療養所に入る。そこでの奇人・変人たちの姿が笑える。いきなりトーン違ってスプラスティックするけど、夫はここでも自分の居場所を見つけることが出来ない。やっと仲間に入れてもらえのに、退院決まると、裏切り者扱いされる始末。読み手は共感しつつも、また笑うしかない。

退院してからのクライマックス、加速付いたようにテンポアップし、帰還兵宅へ殴り込むが、アッサリ殴り倒される。「わらの犬」のように飛躍しない小心者な幕切れがピッタシ。

★★★★★

性なき巡礼

2010-02-16 09:02:36 | ルポ本(国内)
「性なき巡礼―インドの半陰陽社会を探る」大谷幸三・著 1984年


PLAYBOYドキュメント・ファイル大賞受賞作。

タイトルに惹かれて一読。両性具有として生まれた<ヒジュラ>に密着。カースト制度からもハミ出し、古い文献にまで登場する<ヒジュラ>とは何者か?その謎の日常、伝説の虚構を暴いていく。

宗教に答え求めようとする極私的な視線の語り口、ルポと言うよりエッセイに近いような気が。そこから出た答えは「それを受け入れる<村落共同体>がかっては存在していた」って?そんなの最初から分かってたのでは?と突っ込みたくなったけど・・・。

でも経済発展がその共同体を壊すことの危惧は鋭いし、何よりも、すでに伝説崩壊してて、実は去勢して女装した性転換者の集まりであること指摘してるのは読み所。

★★★

花田式噂の収集術

2010-02-16 08:46:55 | エッセイ
「花田式噂の収集術」花田紀凱・著 1997年


「週刊文春」「UNO!」編集長で知られる著者の思い出話。期待したけど、彫りの浅い裏話本でガックリ。

もっとスクープ裏側、駆け引きを知りたかったのに。自主規制?と言うか著者にとってはどうでもいい思い出かも知れないけど、読み手が来たいしてるのはソレなわけだし。
そう、本書は読み手のニーズに応えてない。編集方針、ミスってない?
一番の不満は「マルコポーロ」廃刊の裏側。ご本人は忘れたい思い出だろうけど。此処に触れなかったら、回想する意味ないんじゃない?

オウム事件、NHKキャスター不倫スクープの裏側は興味深い。もっと<山師>みたいな人を取り上げてほしかった。

★★


小倉の極道 謀略裁判

2010-02-15 21:08:31 | エッセイ
「小倉の極道 謀略裁判」宮崎学・著 2001年


自衛隊員が窃盗を働く。しかし逮捕されたのは被害者のヤクザだった。そんなウソみたいな事件の真相に斬り込む。

噴飯モノの裁判の様子、コメディみたい笑える。ヤクザを有罪しようとする検察側の横暴はファシズムの粋。本来は癒着許されない司法との馴れ合いにはゾゾゾッ。
問題意識は伝わるのに・・・しかし面白くない。何でだろ?著者の文書、下手になってない?多作で筆荒れてない?

ヤクザ者の逃亡生活描いた章が一番面白いのも問題。でも、そこだけクローズアップして世みたいと思ってしまう。OVで映画化か?

★★