下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。
宮澤賢治の里より
481 氣候不順に依る稲作の不良
《創られた賢治から愛される賢治に》
昭和3年7~8月の賢治さて帰花直後~7月5日頃までの賢治のことは前回までの考察である程度わかった。では、7月7日~8月の間の賢治の営為はどのようなものだったのだろうか。
前回は「新校本年譜」からは
7月18日 農学校へ行き堀籠に稲の病気検査依頼。
8月10日 賢治健康を害し自宅に戻り、病臥。(推定)
などを拾っておいたのだが、かつての「宮澤賢治年譜」には、例えば『宮澤賢治研究』(草野心平編、十字屋書店版、昭和14年発行)所収のものには、この年の7~8月に関しては
八月、心身の疲勞を癒す暇もなく、氣候不順に依る稲作の不良を心痛し、風雨の中を徹宵東奔西走し、遂に風邪、やがて肋膜炎に罹り、歸宅して父母のもとに病臥す。
<『宮澤賢治研究』(草野心平編、十字屋書店版、昭和14年発行)>ということだけが記載されている。
昭和3年7~8月の気象検証
そこで、ここでは賢治が病臥することになったという原因
氣候不順に依る稲作の不良を心痛し、風雨の中を徹宵東奔西走し
に関わる、当時の花巻の気象等を少し検証してみたい。
(1)『岩手日報』によれば
『昭和3年8月25日付岩手日報』に次のような見出しの記事があった。
四十日以上打ち續く日照りに
陸稲始め野菜類全滅!!
大根などは全然發芽しない
悲惨な農村
續く日照に盛岡を中心とする一帯の地方の陸稲は生育殆と停止の状態にあり両三日中に雨を見なければ陸稲作は全滅するものと縣農事試験場に於いて観測してゐる。
したがって、昭和3年の夏の盛岡地方は40日以上も日照り続きだったということになる。陸稲始め野菜類全滅!!
大根などは全然發芽しない
悲惨な農村
續く日照に盛岡を中心とする一帯の地方の陸稲は生育殆と停止の状態にあり両三日中に雨を見なければ陸稲作は全滅するものと縣農事試験場に於いて観測してゐる。
(2)『宮野目小史』によれば
一方、これは盛岡に限ったことではなくて花巻も同様であったらしい。
『宮野目小史』には、昭和3年の宮野目地区の天候の記録があり、次の期間
昭和3年 7月18日~8月25日(39日間)
<『宮野目小史』(花巻市宮野目地域振興協議会)20pより>
に亘り雨が降らなかったと書かれてある。つまり、花巻の宮野目も盛岡同様に約40日間も雨が降らなかったということとなる。ではこれは宮野目だけのことかというと、それはなかろう。花巻全体でもほぼ宮野目と同じであったであろうと推測できる。宮野目は花巻の一部だからである。
(3)『岩手県気象年報』によれば
『岩手県気象年報(大正15年、昭和2年、3年)』(岩手県盛岡・宮古測候所、福井規矩三発行人)を元にして、大正15年、昭和2年、3年の気象データをグラフにしてみると、
《図1》
<素データは『岩手県気象年報(大正15年、昭和2年、3年』(岩手県盛岡・宮古測候所、福井規矩三発行人)より>
となる。たしかに上図を見ると昭和3年は他の年とはその傾向が明らかに違うから〝異常な気候〟とは言えそうだ。
昭和3年については、6月は多雨、逆に8月~9月は少雨
であり、他の年と比較して折れ線がほぼ上下逆だからである。
しかし、この年の花巻では田植え時の6月に雨量が多かったのだから稲作にとっては異常な気候どころかかえって好ましいことのはず。また、たしかに7月は他の年と比較して雨量はやや少ないが、これだけの雨が降っておればまず旱魃の心配はなかろう。一方、8月~9月の雨量はかなり少ない。とはいえこの時期水稲にとって用水の必要性はあまりなく、また稲熱病を引き起こしやすい多雨多湿であるよりはこのような気候のほうが好ましいのではなかろうか。
一方の気温については下図のように
《図2》
《図3》
<素データは『岩手県気象年報(大正15年、昭和2年、3年』(岩手県盛岡・宮古測候所、福井規矩三発行人)より>
となっているから、気温の方は3年間の平均とほぼ似たような推移である。したがって、気温に関しては例年に比べれば特に問題はなかったようだ。したがって、「氣候不順に依る稲作の不良」に関して言えば、陸稲については頗る心配だが、水稲に関してはその逆でかえって気象条件等は好ましいものだったのではなかろうか。現実には、昭和3年の夏は「氣候不順」だったとまでは言えなさそうである。
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