道端鈴成

エッセイと書評など

切り込み隊長こと山本一郎氏の本

2005年03月29日 | 書評・作品評
  証券会社に勤めている後輩から、株をやってみないかと言われた。余裕のお金はないけど、営業で苦労しているようだし、どうしようかと思って、株についてはまったく無知だったので、切り込み隊長の「美人(ブス)投票入門」を読んでみた。よたをかましてるようでいて、実に冷静かつ客観的に株投資について述べられている。それで、次のような返事を送ってしまった。
 「切り込み隊長の本には、推奨銘柄の1年後の平均値は下落なので無視するのがよく、自分が特に詳しい業界があるなら、将来性を思い入れなしに予測してすぐに売らずに長期的に保持し、しかし見込みがないと判断したら損切りは早めにと書いてあり、合理的だと思うと同時に、時間とお金に余力がないと、できないゲームだと思いました。投資行動としては、利益損失×確率=期待値を最大化するのが合理的ですが、人間は損については少額でも嫌い、逆に得については少額でも確実に確保しようとしてしまいます。このため、損失が生じないわずかな可能性にかけて大損をしてしまいがちですし、逆に利益については大きな利益の可能性を逃してしまいます。そんなことで、私の方は、ゲームに参加するお金も時間もないのが実際のところです。」
「美人(ブス)投票入門」 (オーエス出版)
「ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々」(扶桑社 )
「投資情報のカラクリ」 (ソフトバンク・パブリッシング )
「けなす技術」(ソフトバンク・パブリッシング )
  経営者列伝は連載もの、投資情報のカラクリはたぶん自分の会社でのプレゼン、けなす技術は自分のブログ経験、とそれぞれ、元になる材料はあるにしても、一年やそこらで、自分の会社やブログをやりながらこれだけ書く筆の早さは相当なものだと思う。「けなす技術」は、おそらく一番急いで書かれたように思える。それとわかるような内容の薄さもあり、けなす技術については何も書いてない。しかし、ブログについては、適切な助言や観察がしっかりしめされている。
  山本一郎氏の書くものを読んで感じるのは、まず、膨大な事実情報をおさえる情報処理能力の抜群の高さである。この辺は、投資家、ゲーマーとしての能力、経験から来るのだろう。ただこれだけでは、たんなるオタクの羅列記事になってしまう。これに、しきりにとばされる2ちゃんねる的ヨタ(不快になる人も多いかもしれないが)と、状況を外から把握しようとする視点(引いて概観しようとする姿勢、不明確な点をはっきり分からないというメタ認知など)による、ある種の批評性が加わる。論点を批判しつつ自分の立場を主張するようなところはあまりない。バーク流の保守主義も自分の立ち位置としてあっさり提示されるにとどまる。ネタとヨタはかなりあぶなく偏っているように見えながら、切り込み隊長、実は、山本一郎だったというように、最終的な結論、集約点は案外に常識的である。この辺は、一見まともに見えながら、トンデモな主張や煽りが、商売やメディア、政治の世界には多いので、あるいは、その裏返しということになるかもしれない。

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