道端鈴成

エッセイと書評など

お父さんのためのワイドショー講座的現実認識の世界におけるエートスとパトス

2007年08月07日 | 思想・社会
昨日、朝日放送のムーブを見ていたら、宮崎哲哉さんが、民主党の研究会にも出ているが、民主党の年金案はでたらめだ。小沢党首のバラマキの公約の財源はどうするのだ、自民党も対抗上補助金行政に逆戻りだ、日本の政治が停滞してしまうといった趣旨の、しごく真っ当な発言をした。そしたら、朝日放送的に何かまずいのか、堀江アナがあわてて、でも「やっぱり悪いのは政府ですよね」とフォローし、勝谷氏は、それを補って、昔から日本の政治は停滞しているんだよと、まぜかえしていた。反論するなら良い、「悪いのは政府」という念仏とまぜっかえしである。せっかくまともな議論、問題の検討の糸口が提示されたのに。文春の仏頂面日記にも書いているが、宮崎哲哉さんは、慶応大学の権丈教授の著書などを調べて、また、実際に民主党の議員と研究会で議論しての結論のようだ。

今回の選挙は年金問題で盛り上がった、記録もれ問題に国民は怒り、ワイドショーはそれをあおり、怒りの炎は燃え上がった。たしかに政府には責任がある。しかし、社会保険庁のでたらめな業務ぶりは、自治労の反合理化闘争の責任も大きい。ところが、自治労幹部で民主党の比例区から出た、あいはら氏は、マスコミで問題とされることなく、まんまとトップ当選を果たした。出来事の重要度はマスコミで放映される時間できまるという、お父さんのためのワイドショー講座的現実認識の世界に有権者の多くは住んでいるのだろう。あいはら氏の問題を扱った大坂毎日放送の番組が放送されたのは投票終了後である。マスコミは、赤城大臣の絆創膏を報道するのに、忙しかったようだ。

ジュリアス・シーザーにおけるアントニーの演説は、大衆煽動の見本である。聴衆は、ブルータスの生真面目な演説に納得した。それをうけて、アントニーは、注意深くブルータスの信頼性(エートス)を徐々に切り崩していく。ブルータスは高潔の士だ、しかし、と一見矛盾する事実の提示、この繰り返しで、最後には、「ブルータスは高潔の士だ」が、皮肉にしか聞こえないところまでもっていく。そして、シーザーの血まみれの衣服の提示というイメージ(哀れみと怒りのパトスの喚起)、シーザーによる遺言が市民への遺産分配とのほのめかし(利害のパトスの喚起)、これで完全に聴衆を自分の方へ引きつけ、ブルータス一派に対する暴動をまんまと誘導してしまう。ここでのポイントは、相手のエートスの切り崩し、具体的な映像による怒りのパトススの喚起、利益のほのめかしの三点である。ロゴスは関与していない。

今回の選挙では、安倍首相が状況把握が鈍く、演出力にとぼしく、ロゴスによる反論を中途半端に試み、かえって怒りを増すなど、大衆への働きかけが下手すぎた。小泉批判を試みたマスコミの報道も結果としては自分に利すように使ってしまった小泉氏の天才とは比較にならない。結果として、安倍内閣の信頼性を損ねる内閣不祥事のイメージが繰り返し、繰り返し、提示され、安倍首相のエートスは順調に低下していった。年金問題に対する怒りのパトスも、繰り返しの事例で強調され、それを受ける政府というイメージで、怒りのパトスは、無責任な公務員・労働組合・民主党ではなく、安倍内閣へと首尾良く向けられた。小沢氏は、地方まわりと利益誘導で仕上げをすれば良いだけだった。小泉改革による自民党組織の疲弊、経済格差に苦しむ地方に、小沢氏の金丸ゆずりの手法は、実に有効だった。今回の民主党大勝は、マスコミ主導の安倍内閣エートス崩壊劇、年金劇場に小沢氏の利益誘導が結びついて生じたのだろう。

国民のバランス感覚なんて昔のことになってしまった。小泉劇場は、組織の影響や固定票の割合が小さくなり、マスコミの提示するエートスとパトスの劇場で浮動する票によって選挙の結果が大きく左右される時代の幕開けだったのかもしれない。

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