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コンピューターが向かう場所

2008年01月27日 | 産業

これまで、コンピューターは高性能化の一途を辿ってきました。ハードウェアとしてのPCを例に挙げれば、CPUやメモリー、HDDの容量等を時系列で見ることで、どのように高性能化してきたかは一目瞭然です。また、そうしたコンピューターのハードウェアとしての高性能化に伴い、ソフトウェアも高度化し、昔では到底考えられないような難しい処理も、非常に手軽に行えるようになってきました。これはまさに、コンピューター産業を支えてきた方々の功績であり、現在、私たちはその恩恵に与っていると言えるでしょう。

ところで、一方でこうしたコンピューターの高性能化の流れについては、ひとつの予兆が現れています。それはPCの高性能化の限界です。単純に、ここ最近のPCのCPUの性能は、10年前に比べてほとんど進歩がみられなくなりました。CPUの性能を表す指標としてクロック周波数というものがあります。10年ほど前、この数値は毎年急速な勢いで伸びていましたが、ここ数年ほとんど変化が見られません。もちろん、各メーカーはCPUの高性能化を進めており、いろいろな工夫がなされているようですが、少なくとも以前のように「クロック周波数の向上」のみが、開発ターゲットにはなっておらず、それ以外の技術や付加価値を追求するようになっているようです。例えば、省電力化やネットワーク化といったポイントが、メーカーにとっての課題に上がってきた等です。これは、これからのコンピューターを考える上での、ひとつの大切なポイントです。

私は、このように技術的な意味における、PCの高性能化の限界のみならず、ユーザーの利便性の観点からも、コンピューターの高性能化には、陰りが見え始めていると考えます。

インターネット網の整備等により、高度にネットワーク化が進んだことによって、コンピューターの小型化や携帯化には拍車がかかってきました。現在では、インターネットは固定網が主流になっていますが、さらにモバイル環境でのブロードバンド化が進むようになれば、「PCの携帯化」はますます加速化していくことでしょう。さらにネットワークに接続するコンピューターをPCだけではなく、携帯電話、ゲーム機、ミュージックプレイヤー、デジタルカメラ等のデジタル機器まで考えると、数多くの小型コンピューターがモバイルネットワークに繋がるようになることになります。これらに加えて、自動車のナビゲーションシステムや各種センサー等を含めば、膨大な数のコンピューターがネットワークに繋がり、利用者の便益を飛躍的に高めることになるはずです。

こうしたネットワーク化の進展に伴い、高性能化に的を絞ったコンピューターの方向性にはいくつかの問題が生じてきたように思います。そしてネットワークは、以下のようにそうしたコンピューターの限界や問題を補い始めていると考えます。

①データーの安全性
 PCのハードウェアは意外と脆いものです。もちろん、しょっちゅう壊れるわけではありませんが、その安全性は、絶対的な信用を置くほどのものではありません。当然、バックアップをとるということを習慣としてされているユーザーの方もいらっしゃるでしょうが、あまり一般的ではないと思います。事業者が利用するような一部のコンピューターを除いて、PC側に溜め込んだデーターは、いつ消し飛んでもおかしくないと考えると、これはユーザーからすると大変な脅威です。PCが高性能化すればするほど、多くの作業をPC上で行いますし、それらのデーターをPC内に保存します。例えば、10年以上も撮り溜めた写真データーが、一瞬にダメになるということもあるわけで、そのリスクはPCの高性能化による副産物でもあります。
 最近では、インターネットの普及を受け、それらのデーターをPCではなく、インターネットに繋がっている特定の事業者のハードディスク(安全な保存場所)に保管させるというサービス(ストレージサービス)も出ています。インターネットの発達に従い、これから生まれるであろうこうした流れは、「大切なデーターは外部に保存するもの」というユーザーの行動パターンを定着化させる兆しであると考えます(ただし、ストレージサービスの効用は、単に「データーを安全に保管する」ということだけではなく、一般向けあるいは限定的にデーターを公開・共有できる等の利便性もあります)。

②ニーズの多様化
 PCで行う作業が、非常に限定的なユーザーにとって、ある時点からPCの高性能化があまり意味を成さなくなってきました。つまり、メールやウェブ閲覧がメインであるユーザーにとっては、PCの起動時間や添付写真を開くまでの時間等が重要であり、それを超える性能は、あまり関係ないわけです。もちろんコンピューターメーカーも、そうしたニーズがあることを十分に認識しつつ、商品開発を進めています。
 しかし現在のニーズは、そのように「ライトユーザー(要求レベルが低いユーザー)」と「ヘビーユーザー(要求レベルが高いユーザー)」の二つに分類されるほど、単純ではない点がポイントです。つまり、その間には「そこそこのアプリケーション(ソフトウェア)を使うユーザー(即ち「ミドルユーザー」)」も多数いるわけであり、それらの中間層に位置するユーザーの要求を含んだ、多様なニーズに如何に対応するかが、サービス提供側のポイントとなるのです。また、これらのユーザーの場合、そうしたアプリケーションの最新版を使いたいと思うわけであり、そうしたアプリケーションのバージョン管理などについては、自分のPCに入れて使うよりも、インターネットに繋がっている別のサーバー(大型コンピューター)上で使用する方が、利便性が高いということになるわけです。
 これについては、長らくASP(Application Service Provider)というモデルが存在していますが、これをソフト上(ウェブブラウザー上)で、一歩踏み込んだサービスを展開しているのが「Google」という会社であり、米国の成功した企業として注目されています(ただし私は、こうした「Google」のモデルにも限界があると考えており、私は日本のコンピューター産業はさらに根幹に踏み込めるし、また踏み込むべきだと思っています)。これもまた、PCの高性能化一辺倒という限界をネットワークで補完しつつあるひとつの例だと言えます。

③端末の多様化
 コンピューターは、いわゆるデスクトップPCやノートPCに留まらず、ノートよりもさらに小型化したPDAタイプのものも数多く出てきており、それらにもPCと同じようなOS(Operating System=コンピューターシステム全体を管理する基本ソフトウェア)が入っています。それらのOSが、デスクトップのOSとは多少の違いがあるにせよ、基本設計はいわゆる普通のPCから出ているものが多くあり、小型化や携帯化が進んでしまったコンピューターの演算処理能力やバッテリーの制約条件に相応しくない状況を生み始めています。今後、こうした流れに修正が入るでしょうが、いずれにせよコンピューターは高性能化一辺倒ではなく、別の軸による開発が必要な時代に入ってきたということだと思います。

このようにネットワーク化は、高性能化一辺倒で走ってきたコンピューターの限界を補完していく働きを生んできていると考えますが、一方でネットワーク化を進めれば進めるほど、ネットワーク化自体に大きな問題が表れます。ちなみに、これからのネットワーク化のベクトルは「ブロードバンド化」に加えて、「モバイル化」であると考えています(「ネットとコンピューターの融合」参照)。

いずれにせよ、ネットワーク化が抱える問題は、以下の通りです。そして私は、それらの問題がある限りにおいて、上記のように、現在の高性能化一辺倒のコンピューターの方向性を、完全に転換させて、新しいコンピューター産業のかたちを整備できないと思っています。

①セキュリティ問題の深刻化
 ネットワーク化が進み、ブロードバンドがモバイル化していくと、携帯PC(広く言えば携帯電話等を含む「端末全般」)側でいろいろな作業をし、またそこにデーターを保存するようになると、それを紛失したり、処分したりするときのデーター流出が問題になる可能性が高くなります。実際、企業ではモバイルワークの利便性を認識しながらも、顧客情報の流出等のリスクを抑えるため、原則としてモバイルPCを社外に持ち出させないという措置をとっているところが数多くあります。また、使われなくなった携帯電話のメモリーに残っているアドレス帳のデーターが、一部業者の間で取引されるといったことが社会問題にもなりました。

②メンテナンスの高コスト化
 コンピューターがネットワークに繋がるということは、そのコンピューターに対する外部からの不正アクセスやウィルス対策をとっていかなければいけないということです。これがノートPCだけならばともかく、今後予想されるようにデジタルカメラやミュージックプレイヤー、果ては自動車のカーナビゲーションにまで、各々そうしたメンテナンスが必要ということになると、その手間やメンテナンスコストは莫大なものとなります。コンピューターのウィルス対策ですら、手間が大変で、一部代行サービス等がある現状を鑑みて、それが如何に大きな問題であるかは、想像に難しくありません。

ネットワーク化(ブロードバンド化+モバイル化)の流れは、新しいコンピューターを生み出すためには必須です。しかし、上記のような問題を根本的に解決しない限り、真のネットワーク社会は訪れません。そして、それを解決していくことこそが、これからのコンピューター産業に求められているのだと思います(「シン・クライアントの潜在力」参照)。

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