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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

クライマーズ・ハイ [監督:原田眞人]

2008-08-04 18:44:25 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)

縦横無尽なカメラワークが参考になる。
広い空間、沢山の登場人物、様々な目線が交錯する中で、カメラはイマジナリーライン(※)など安々とまたいで、型にはまらないカット割となる。結果として緊迫感と不安感がカット割りだけで見事に表現されている。
群像劇をスピーディにまとめるためには、型どおりのカット割りにこだわってはならない。
反対に型どおりのカット割りで物語を進めようとする頭の固い、古いタイプの作家は、表現方法に課した制約ゆえに柔軟性を欠き、物語やメッセージまで凡庸なものとなり、そこから抜け出せなくなるのでは・・・と思わされた。
編集者の功績も大きいだろう。(「魍魎の匣」の編集で映画秘宝誌からたたかれまくった原田遊人であるが、本作を見る限りこれほど複雑な視点移動を見事に捌いているところに、並々ならぬ技量を感じる)

物語りも抜群に面白く、「24」のように短期間に都合よく(脚本家にとって都合よくという意味)色んなことが起こりすぎる気はするものの、地方新聞社の地元で起こった大事件から、様々な人間の思惑が目線以上に複雑に交差する。いい奴、嫌な奴、ずるい奴、弱い奴、古い奴、若い奴・・・それぞれ独立した個性を持つ人たちにも関わらず、それらが集合して組織という一つの性格が形作られる様がよく判る。
記者の仕事は山登りと似ている、仲間を信頼し協力し合って取材を続けねばならない・・・として80年代の大事故取材と2008年の登山とを交互に見せる展開も面白いが、新聞社という組織の中では足を引っ張る奴がそこら中にいる。大自然と人間社会の対比としても面白かった。

ラストの息子に会いに行くシーンが物語構成的には綺麗だが、高ぶった感情に水を差すような蛇足感が強かったり、ドキュメンタリー的にすすむ前半部においては堤真一の芝居が大げさすぎてのれなかったり(劇画調の展開となる後半はむしろはまってくるのだが)、いくらか不満要素はあるものの、「金融腐蝕列島 呪縛」以来、久しぶりに面白い映画を作った原田監督に拍手を送りたい。

原田監督の舞台挨拶のある会の次の会に見に行ったら、ロビーで監督が囲み取材を受けていた。
話しかけたりしにくい雰囲気だったのでサインももらえなかった。残念。

山崎努の社長がペットボトル飲料を飲むシーンがある。
85年にペットボトル飲料なんてあっただろうか・・・
しかしそれをもって時代考証がデタラメと非難していいのだろうか。
誰も気付かなかったハズはないし、物語上必要性も必然性もないのにあえて強調するようにペットボトル飲料を飲むシーンを入れていた気がする。
そうなると、むしろあれは狙いではないのかとも思う。例えば、あれは85年を舞台にしながらもこれは現代に生きる我々が現代のために作った映画なのだと主張するため・・・とか。
どんな意図にせよ、いい効果を出していたとは思わないが。

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(※)イマジナリーライン
会話する2人の人物を結ぶライン。
会話する2人の顔を交互に写して編集でつなげる場合、一般的にはカメラはこのイマジナリーラインをまたいで撮影してはならないとされる。
このラインをまたぐと向き合っているはずの2人が、同じ方向を向いているかのように映ってしまうため。
しかし小津安二郎などはそんな一般原則に批判的なことを述べている
「しかし、この"文法"も私に言わせると何か説明的な、こじつけのように思えてならない。それで私は一向に構わずABを結ぶ線をまたいでクローズ・アップを撮る。するとAも左を向くし、Bも左を向く。だから、客席の上で視線が交わるようなことにならない。しかしそれでも対話の感じは出るのである。おそらくこんな撮り方をしているのは、日本では私だけであろうが、世界でも、おそらく私一人であろう。私は、こんなことをやり出してもう30年になる。」(芸術新潮 1959年4月号)・・・吉田喜重著「小津安二郎の反映画」より

最近は映画の世界ではイマジナリーラインなど意に介さない監督が増えている。トニー・スコット、廣木隆一、大林宣彦・・
一般受け大前提のテレビドラマはイマジナリーラインまたいじゃダメの法則を愚直に守っていると思う(そんなにドラマ観てないから予想)。

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2 コメント

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カメラワーク (sakurai)
2008-08-05 08:43:11
なるほどねえ。
物語の重量感に蹴落とされて、カメラワークなど、トンと頭にありませんでした。
あの撮り方が、さらにまた重量感を増してくれてたんでしょうか。
役者の配置がうまかったですね。見ただけで、そのキャラがわかる配置でしたから。それを配するということが、映画にいかに効果を与えるのか、ということもイヤらしいほどに分かって撮ってると。
さて、あの社長。当地の地元紙の先代の社長を彷彿させました。
在学中は、まだあの社長いましたか?
コメントどうもです (しん)
2008-08-06 01:28:54
>sakuraiさま
山新の社長ですか?
在学中もいたと思いますが、当時は地元マスコミの経営者などあまり興味が無かったので、よく判んないです。
しかしまあ、地方の大物実業家ってけっこう、あの山崎努なイメージですよね。ああいう人ばかり紹介されるからでしょうか

撮り方は重量感というか、細かいカットが緊迫感を、違和感あるモンタージュが不安感を煽っていたと思います。

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