自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ロング・エンゲージメント (どんな台詞が気に入りましたか?)

2005-03-14 00:51:25 | 映評 2003~2005
「ロング・エンゲージメント」は"希望"を物語の核としており、希望に関する台詞が印象的だった。
「あまり希望を持つな」
「希望を持てないなら死んだ方がまし」

「偽りの希望は余計に苦しむ」

また、これは愛の映画であり、同時に謎解きミステリーでもある
だからこんな粋な台詞も出る
「愛する者同士の暗号は誰にも解読できない」

ま、この映画、一言で言っちゃうと、"アメリ の再構築"なんである。
物語の時代設定を第一次大戦にすることで、童話性、あるいは寓話性を増している。ジャン=ピエール・ジュネはそういった作家となるべき野心がもともと強かった。「"エイリアン4」はジュネらしさも希薄で、作品的にも三流だったが、ジュネのハリウッド映画への愛着と未練を断ち切り、映画作家としてステップアップするための捨て駒だったと解釈する(「アメリ」DVDの解説でそんなこと言ってた。)
アメリ」の成功をうけて童話/寓話映画の作家として本格的に乗り出した意欲作が本作となる。
1カットたりとも妥協の無い、徹底的に作り込まれた映像に彼の"本気"が伺える。
しかしながら、映画作家ジャン=ピエール・ジュネが旧作(特に「アメリ」)で使い込んだテクニックをフル動員したのみで、いってみれば自分の引き出しの中の取りやすい位置にあるアイデアだけで作った映画という印象をうける。アメリの両親は工具箱やバッグの中を全部出して、中を奇麗にして、元通りに戻すことが趣味だったが、ジャン=ピエール・ジュネは自分の工具箱の奥深くにあるテクニックを取り出してはいない。
具体的に言えば、冒頭、五人の死刑囚の説明。ナレーション、フラッシュバック、テンポラリ映像の使用、細かいカット割りとデジタル処理施した映像。音楽がヤン・ティルセンからアンジェロ・バダラメンティに変わっただけで、そこに展開されるのはもろ「アメリ」だった。
ただ、その辺は別にさして否定要素ではない。小津だってスコセッシだって似たような映画ばっか撮ってるしね。テクニックのリサイクル/リユースなんかより、ジュネの作り込みの甘さとして一番気になるのはストーリーテリング・・・いやキャラクターの描き込みにおける"省略"と"旧作依存"である。
この映画は"マチルドとマネクには固い運命的絆がある"ということを大前提として展開していく。2人の絆の説明をはしょっており、説得力がない。子供時代の出会い、楽しかったデートの思い出、ガラス越しのキスごっこ、初めてのセックス・・・説明はそれだけである。デコレートされたイベントのハイライトのみ。もっと精神的な強いつながりを想起させるエピソードが欲しかった。「MMM」の暗号も2人の絆を描く上でも、ストーリーの伏線として使う上でも、練り込み不足。ただ一応主人公マチルドの性格描写不足を補うものはある。オドレイ・トゥトゥ嬢というキャスティング、それに依っている。彼女はアメリそのまんまの妄想癖の女の子をアメリと同じ様に演じる。
マチルドの性格描写については「アメリ」を参照して下さい。この映画ではめんどくさいのでその辺省略します。
というReadme.txtが必要ではないか?と思ってしまう。
結局キャラ描写が弱いため、淡々と物語を進めるだけに終ってしまい、ラストの感動が薄れた。

もう一つの問題として、物語の意外性のなさも指摘したい。戦死したと言われる婚約者は必ず生きていると信じる女の子が謎解きに乗り出す・・・という物語なら、ラストどうなるかは容易に想像がつく。
アメリ」の場合、最後はもちろんハッピーエンドだろう・・という程度の予想しかつかず、物語がどう転ぶか予測できない面白さがあった。エピソードは連鎖反応で新しいエピソードを想像し、謎解きはラストに向かうためのタメとしての役割でしかなかった。おまけに主役は何をするか予測できない不思議ちゃん。「アメリ」のシナリオは問答無用の傑作だったのだ。
しかし「ロング・エンゲージメント」の場合、謎解きで全てが終ってしまう。いくつかのエピソードは物語の道筋における中間地点でしかなく、スタートからゴールまでの道のりが監督だけでなく観客にも俯瞰できてしまう。主役は「アメリ」を知らなきゃ新鮮かもしれないが、少なくとも彼女の最終目標はハッキリしており彼女の行動には全て目的があるから、意外性は弱くなる。
この映画の欠点を象徴しているかのような台詞
戦場跡を訪れるマチルドの一行。かつての凄惨な戦場は一面の花畑となっており、足の悪いマチルドはスーに背負われている
「象に乗ったインドの姫だな」
「猟師とともに悲しみの道を行くのよ」


物語の道筋の明示。これはジャン=ピエールが一度断ち切ったはずのハリウッド映画のシナリオスタイルではないか?!
実は断ち切れていなかったハリウッドへの未練と「アメリ」大成功の甘い思い出が、ジュネに悪く作用したように思える。


と・・・文句並べたけれど、前述したが映像の作り込みは半端でなく、圧倒される。
オドレイ・トゥトゥ嬢まんまアメリな演技とはいえ、存在感ばっちり。存在感というより彼女が写っているだけで安心感がある。「アメリ」のやや(かなり?)過剰なアイドル扱いから、女優としての脱却が計られている。
サスペンス描写は絶品。特にサイドストーリーとして展開するティナの将校殺しのシーンはアイデアに満ちあふれていて引き込む、引き込む。どんな殺し方するんだろうとワクワクしてしまう。ティナはその最期まで見せ場にしてしまうし(ワンシーンワンカットによるギロチン処刑シーン)ある意味主役よりも存在感がある。
アンジェロ・バダラメンティの音楽の美しさ。
戦闘シーンも気合い入っている。
アメリ」同様、動物の使い方が上手い。実はしっかりものだった猫ちゃん。いいやつだにゃん。つい気になったのがマチルドの部屋の動物ポスターのオオアリクイ。
さんざん文句は並べたが、ジャン=ピエール・ジュネはこの作品で超一流の監督であることを示した。最も新作が期待できる監督だ。
ただこの作品の場合、テクニカルな面での評価だけで、心からの感動は残念ながら受けなかった。
どんな名匠にだって失敗作はある。次回作期待してます。

追記
恥ずかしい話
・・・この女優ジョディ・フォスターにそっくりだなあ。誰か知らんけどこれからにせジョディと呼んでやろう・・・と思ってエンドクレジットを見たら・・・本物でした・・・

↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング

自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP

コメント (10)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ローレライ (お気に入りの台... | トップ | 父と暮らせば (貴方の心に響... »
最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
たしかに・・・ (kossy)
2005-03-14 15:43:49
やはり感動作ではなかった。

面白さと映像美が突出してました。

泣いてる人も結構いましたけど、

ラストを想像してしまったのでしょうね~
>kossy様 (しん)
2005-03-16 00:20:35
水準をはるかに越えた映画だったとは思うのですが、テクニックに走り過ぎた気がします。

もっとエピソードを削るか、いっそ3時間の映画にするかして、ゆったりとした映画にすれば、泣けたかもしれないですね
初めまして (ぶぶ)
2005-03-23 19:37:49
TBありがとうございました。

暇な時アメリ観てみますね~。

映画好きなんですね。私も好きで~す。

なんか観てる映画私と同じようなのですね?

今までで何かお勧めあったら教えて下さいね~。

観てなかったらビデオで観てみたいと思いま~す
>ぶぶ様 (しん)
2005-03-24 03:57:09
「アメリ」見て下さい。見た後しばらく顔から「にやけ」が消えません。



えっとじゃあ、お勧めは

(1)「仮面/ペルソナ」「野いちご」「鏡の中にある如く」「処女の泉」

(2)「男たちの挽歌」「男たちの挽歌2」「ハードボイルド 新・男たちの挽歌」「ゴッド・ギャンブラー」「友よ、風に抱かれて」「風の輝く朝に」
アメリ (ぶぶ)
2005-03-24 16:42:36
昨日ビデオ屋さんで借りました。

昨日は遅かったので観る時間がなかったから土曜日まで返せばいいのでそれまでに観てみますね~。

そしたらまた感想ブログに書いておきます。

ん~しんしゃんのお勧めみんな観たことないぞ。

題名からの想像だとなんか私の好きそうな映画じゃなさそうだなぁ???

題名からだったら「友よ風に抱かれて」くらいかも?

でも借りてみないと分からないですよね~。

解説読んでから何か1、2つは借りて観ますね~。

ありがと~ぅ
私のお勧め (ぶぶ)
2005-03-24 16:47:52
あっ忘れた。

私のお勧めはロビンウィリアムズの

『パッチアダムス』『いまを生きる』かなぁ???

観てるかな?
ぶぶ様 (しん)
2005-03-29 04:42:38
ちなみに「友よ風に抱かれて」は後年タランティーノが「レザボア・ドッグス」で丸パクリした映画で、レザボアよりずっと面白いです。



「いまを生きる」は泣いたさ。俺も机の上に立ちたくなったさ

「パッチ」は観てない
読み応え十分の映画評 (マダム・クニコ)
2005-04-13 14:26:03
とても参考になりました。

制作しておられるだけあって、細かい指摘がすばらしいですね。

これからもちょくちょくお邪魔します。
ご指摘ありがとうございます。 (マダム・クニコ)
2005-04-14 04:27:04
大恥かくところでした。

ドイツ=ナチスという刷り込み、こわいですね~。

むごたらしい戦闘シーンの多用から、反戦ものかな~、と。

これからも映画評楽しみにしています。
TBありがとうございます (にゃ~)
2005-08-15 19:03:28
久々に感動出来て泣ける映画に出会えて幸せでした☆

DVDが発売されたとこなので映画館では気づかなかった細かいところまで見返してみたいとおもいます。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映評 2003~2005」カテゴリの最新記事