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映像作品とクラシック音楽 第28回『プラトーン』

2021-08-06 18:30:00 | 映像作品とクラシック音楽
クラシック音楽が印象的な映像作品について語り倒すシリーズ。今回はバーバーの「弦楽のためのアダージョ」が印象的な1986年のオリバー・ストーン監督作品『プラトーン』について書いてみます。

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『プラトーン』はオリバー・ストーンが自身のベトナム戦争従軍体験をもとにベトナムの戦場の過酷さをリアルタッチで描いた作品です。国のために命をかけて戦った兵た…みたいな愛国的な描き方ではなく(『プラトーン』のヒットに乗っかって作られた『ハンバーガーヒル』はそんな映画でした)、戦場の過酷さの中で善と悪の境界線が崩れていく心理を追う深みのあるドラマです。アメリカ軍による住民の殺戮や強姦、村を焼くといった残虐な行為、麻薬に溺れる兵たち、仲間を撃ち殺すなど、きれいごとなど何もない戦場をこれでもかと描きました。
もしかするとアメリカのネトウヨみたいのに「アメリカ軍はあんなことをしなかった」とか言われたかもしれませんが、映画は大ヒットし、アカデミー賞でも作品賞監督賞など多数を受賞しました。
戦闘シーンの描写としては『プライベートライアン』以降の戦争映画に慣れた今になって見直すと迫力不足を感じますが、心理描写の秀逸さは今なお胸に迫ります。
後にハリウッドのお騒がせゲス男になるチャーリー・シーンですがこの時は純真な青年を演じております。そういえばお父さんのマーティン・シーンは『地獄の黙示録』の主役でしたね。
善悪に割かれた魂の悪の側のようなバーンズ軍曹を演じたトム・べレンジャーは、軍人や元軍人役がとても似合う役者で、『山猫は眠らない』とか『暴力教室』とか実はかなり好きな俳優です。
善の魂側のようなエリアスを演じたウィレム・デフォーもまた本作でブレイクしました(この後スコセッシの映画でキリスト役やりましたよね)。ポスターにもなった天を仰ぐシーンが印象深いです。

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映画ではサミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が作品の要所要所で奏でられます。
オープニングとエンドクレジットはもちろん、ウィレム・デフォーの天を仰いで命尽きるシーンや、殺戮シーンの後の場面転換や、死体袋をゴミのように放り投げるところなど、全体的に死や犠牲のイメージに重ねられます。この映画でバーバーのアダージョという曲を知った人も多いかもしれません。私もその一人です。またバーバーのアダージョを聞けば『プラトーン』を思い出す人もまた多いでしょう。

バーバーはアメリカの作曲家です。本作はいわばアメリカの内省の映画です。外国の戦争や暴政を善人面してけしからんと語るのではなく、自国の暗い歴史、しかもつい20年くらい前の歴史を、自省の念を持って見つめ直す映画です(悲しいかな、こういうの日本では作られなくなりました)。
そこにはアメリカ人による曲が必要と考えたのかもしれません。
またバーバーのアダージョはジョン・F・ケネディの葬儀でも演奏されたとのこと。オリバー・ストーンの『JFK』によればケネディはベトナム戦争を終わらせようとしたために軍に暗殺されたとのことで、その辺と関連付けたかったのかもしれません。もしかするとしなくて済んだかもしれない戦争により失われた敵味方双方の命への追悼の曲です。
(ケネディのその説については私自身は懐疑的ですが、オリバー・ストーンは信じているということです。ついでに映画『JFK』は説の信憑性はさておいて映画としては最高に面白くて大好きです)


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映画で使われたバーバーのアダージョは、作曲担当のジョルジュ・ドルリューの指揮による映画のための新録です。
ドルリューはフランスの作曲家で、オリバー・ストーンの『プラトーン』の前作にあたる『サルバドル』でも作曲を担当しました。そしてドルリューといえばフランソワ・トリュフォーの映画で有名です。トリュフォーの初期作品『ピアニストを撃て』から遺作の『日曜日が待ち遠しい』まで、全部ではないですがかなり多くを手掛けています。
アメリカ映画でもジョージ・ロイ・ヒルの『リトル・ロマンス』でアカデミー賞を取っており、『プラトーン』の時はすでにかなりの巨匠だったわけです(ロイ・ヒルの映画の音楽はいつも素晴らしいなぁ)。
そんなドルリューに「テーマ曲は新曲なんかいらんからバーバーのアダージョでヨロシク!」とはいくらストーン監督でも言えないんじゃないでしょうか?
だから多分バーバーのアダージョでいこうというのはドルリューのアイデアだったのではないかと思います。事情は知りませんが。
ストーンはジョン・ウィリアムズと組んだ『7月4日に生まれて』や『JFK』でもやはり弦楽によるアダージョ風の曲を書かせており、そういう曲が好きなんだろうと思います。だから『プラトーン』の時もこんな曲でとイメージとして提示したバーバーのアダージョを、ドルリューがだったらそのまんまいきましょうってなったのかもしれないですね。


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バーバーのアダージョを聴こうと最近CDを買いました。やっぱアメリカの指揮者でアメリカのオケで聴こうと、バーンスタイン指揮ロサンゼルスフィルのを買いました。いつもウキウキなイメージのバーンスタインもこんなにしっとりと悲しそうに奏でるのですね。感情の振り幅の大きい方なのでしょう。1983年録音ということで、もしかするとストーンもこれを聴きながら脚本を書いてたのかもしれないですね、と妄想しつつ筆をおきます

それではまた素晴らしい映画とクラシック音楽でお会いしましょう!!

#プラトーン
#オリバーストーン
#バーバー
#バーバーのアダージョ
#弦楽のためのアダージョ

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