■『蔦重の教え』車 浮代著 飛鳥新社 2014年刊
今年の初め、新聞の広告欄に『蔦重の教え』なる本を見つけました。気になったので内容をチェックしようと近所の書店へ行きましたが、最近の本屋さんは地域密着の品揃えをしていて、哀しいかな、うちの近辺は漫画や雑誌ライトノベル主流だからか、新刊にも関わらず在庫している書店がありませんでした。そのうち図書館で借りようと思っていましたが、たまたま駅ビルの有名書店で見つけたので入手しました。
よくあるタイムスリップものでしたが、なかなか面白く一気に読めました。タイトルにあるように、この本は時代小説の形式をとった「自己啓発書」でもあります。そのため、蔦重とその周辺に知識のある歴史通の読者にとっては、少々説教臭く感じるかもしれません。しかし、筆致が明るく結末も希望に満ちているので、読後の気分はすっきりです。写楽の正体も、独自の設定にしてありました。
著者の車浮代さんは、特に江戸時代の料理に詳しい方らしく、主人公が江戸時代の調味料と食材を使って料理するなど、食の歴史も知ることができて興味深かったです。
■『コレクション』山本昌代著 集英社 1996年刊
蔦重について探していた時は、見つけられませんでした。著者は、映画化もされた『居酒屋ゆうれい』の原作者ですが、私はこの本を見つけるまで知りませんでした。
この本は、国籍も時代も職業も違う、全く繋がりない4人の実在した人物について個々に書かれた4つの物語を1冊にしたもので、「蔦重」の項は、ランピオンという人物の項とチェーホフの間に挟まれていました。
いきなり「写楽はどこの誰かという論争は…」から始まったので、また写楽絡みのお話か?と思いましたが、結局「お話」ではなくて「紹介・解説書」のようなものでした。書店の専門書コーナーや図書館にある蔦重や戯作・浮世絵関係の書籍をまとめたようなものなので、伝記とまではいえませんが、蔦重とその仲間たちについて手っ取り早く知ることができます。もっと早く出会いたかった、と悔やんでも遅し。
■『源内先生舟出祝』山本昌代著 河出書房新社 1987年刊
同著者の小説で、戯作風のタイトルに惹かれて読んでみました。
ちょうど、平賀源内について自分の見解が変わってきている時で、小説ではあるけども少しでも源内がどんな人物であったか知りたい気持ちもありました。「舟出祝」とあったので、若い源内が一花咲かせに江戸へ行って活躍する物語かと思いきや、真逆のストーリーでした。
時代の寵児として持て囃された時代が過ぎ、忘れ去られた存在になった源内先生。落ちぶれて偏屈な性格になっているのに、本人に自覚なし。かつての友人や弟子たちさえも、疎遠になってしまっています。そんな源内先生が、愛した男の存在。平賀源内が女嫌いだったのは事実で、独身でもあったから男色だったという推測もされてますが、歴史的には余り知られていないことです。著者は源内の暗部を掘り起こして、彼の狂気への心理を描いてみせました。
私の知る範囲では、源内は某屋敷の設計図を大工に盗まれたと勘違いして刀で斬ってしまった、ということでしたが、本書ではかなり違っていましたし、源内先生が人を斬る理由とその描写の仕方が、やばいと思いました。「危ない」という意味でのやばいです。本が執筆された80年代ではどうだったかわかりませんが、今の世の中こういう人が多いので、気持ち悪く感じました。しかも描写には、美学みたいなものすら感じられ、背筋がひんやりしました。最終的には、事件現場が幽霊屋敷だったこともあり、ホラー小説を読んだ気分になりました。
私が今まで読んだ数少ない時代小説の中で一番、歴史上の人物を納得できる形で上手に取り扱っている小説です。
今年の初め、新聞の広告欄に『蔦重の教え』なる本を見つけました。気になったので内容をチェックしようと近所の書店へ行きましたが、最近の本屋さんは地域密着の品揃えをしていて、哀しいかな、うちの近辺は漫画や雑誌ライトノベル主流だからか、新刊にも関わらず在庫している書店がありませんでした。そのうち図書館で借りようと思っていましたが、たまたま駅ビルの有名書店で見つけたので入手しました。
よくあるタイムスリップものでしたが、なかなか面白く一気に読めました。タイトルにあるように、この本は時代小説の形式をとった「自己啓発書」でもあります。そのため、蔦重とその周辺に知識のある歴史通の読者にとっては、少々説教臭く感じるかもしれません。しかし、筆致が明るく結末も希望に満ちているので、読後の気分はすっきりです。写楽の正体も、独自の設定にしてありました。
著者の車浮代さんは、特に江戸時代の料理に詳しい方らしく、主人公が江戸時代の調味料と食材を使って料理するなど、食の歴史も知ることができて興味深かったです。
■『コレクション』山本昌代著 集英社 1996年刊
蔦重について探していた時は、見つけられませんでした。著者は、映画化もされた『居酒屋ゆうれい』の原作者ですが、私はこの本を見つけるまで知りませんでした。
この本は、国籍も時代も職業も違う、全く繋がりない4人の実在した人物について個々に書かれた4つの物語を1冊にしたもので、「蔦重」の項は、ランピオンという人物の項とチェーホフの間に挟まれていました。
いきなり「写楽はどこの誰かという論争は…」から始まったので、また写楽絡みのお話か?と思いましたが、結局「お話」ではなくて「紹介・解説書」のようなものでした。書店の専門書コーナーや図書館にある蔦重や戯作・浮世絵関係の書籍をまとめたようなものなので、伝記とまではいえませんが、蔦重とその仲間たちについて手っ取り早く知ることができます。もっと早く出会いたかった、と悔やんでも遅し。
■『源内先生舟出祝』山本昌代著 河出書房新社 1987年刊
同著者の小説で、戯作風のタイトルに惹かれて読んでみました。
ちょうど、平賀源内について自分の見解が変わってきている時で、小説ではあるけども少しでも源内がどんな人物であったか知りたい気持ちもありました。「舟出祝」とあったので、若い源内が一花咲かせに江戸へ行って活躍する物語かと思いきや、真逆のストーリーでした。
時代の寵児として持て囃された時代が過ぎ、忘れ去られた存在になった源内先生。落ちぶれて偏屈な性格になっているのに、本人に自覚なし。かつての友人や弟子たちさえも、疎遠になってしまっています。そんな源内先生が、愛した男の存在。平賀源内が女嫌いだったのは事実で、独身でもあったから男色だったという推測もされてますが、歴史的には余り知られていないことです。著者は源内の暗部を掘り起こして、彼の狂気への心理を描いてみせました。
私の知る範囲では、源内は某屋敷の設計図を大工に盗まれたと勘違いして刀で斬ってしまった、ということでしたが、本書ではかなり違っていましたし、源内先生が人を斬る理由とその描写の仕方が、やばいと思いました。「危ない」という意味でのやばいです。本が執筆された80年代ではどうだったかわかりませんが、今の世の中こういう人が多いので、気持ち悪く感じました。しかも描写には、美学みたいなものすら感じられ、背筋がひんやりしました。最終的には、事件現場が幽霊屋敷だったこともあり、ホラー小説を読んだ気分になりました。
私が今まで読んだ数少ない時代小説の中で一番、歴史上の人物を納得できる形で上手に取り扱っている小説です。