Simplex's Memo

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岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その6)

2005-02-13 10:08:01 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
前回に引き続いて平成15年の議論を見てみる。
今回は平成15年6月に開催された第3回定例会を取り上げてみる。
この時に出された質問は総合型社会実験の実施に関するものが多い。

参考:「岐阜市議会議事録」

※<答弁>は岐阜市当局、<市長答弁>は岐阜市長の答弁をそれぞれ示す。
<質問1>
総合型交通実験については、市の全体の総合交通計画があって、これを前提とした実験を行うというのが筋ではないか。また、その内容としては、路面電車の安全島を設置する、あるいは増便をする、軌道敷内の通行を規制する、バスレーンは256号線を中心とする4.7キロ、あるいは徹明町から新岐阜駅での一般車の通行禁止の実験、トラッジットモールの実験、レンタサイクルの実験などとなっている。交通体系の社会実験ということであるが、都市再生あるいは中心市街地の活性化のプランと一連の実験というふうにとらえて良いか。
今回の実験は大幅な交通規制が伴う実験であるが、公共交通の利便性が高まったとしても市民が簡単に車を捨てて公共交通に切りかえるとは思えない。この点をどのように考えているか。
まず、市の全体の総合交通計画があって、これを前提とした実験を行うというのが筋ではないかと考える。そういうものが前提になっていない今回の実験の結果から、将来の全体計画を導き出すということは非常に困難ではないかと思う。

<答弁1>
将来の総合交通体系は過度に依存した車中心の交通体系を見直し、路面電車、バス等の公共交通が使いやすく、自転車、歩行者が安全に通行することができ、これらに車を加えたそれぞれの交通手段が適切に組み合わされたベストミックスの交通体系への転換が必要ではないかと考えている。
今回の社会実験は、この考え方をさらに前進させていくため、路面電車の軌道敷内通行不可、安全島設置実験、長良橋通りにおけるバスレーン実験、トランジットモール実験、まちなか歩き実験、レンタサイクル実験の5つの実験を実施したいと考えている。
総合交通計画策定については、平成15年度は現況分析とともに、将来の交通需要の予測を行い、平成16年度の策定を目指したい。

<質問2>
総合型交通実験について、名古屋鉄道株式会社は平成16年に路面電車から撤退する意向を表明している。しかし、市長は将来の交通体系に対して路面電車を有効に活用したいと言っている。路面電車の将来への可能性には一定の興味は示すものの、一般的な議論に終始し交通施策として通用するかという疑問がある。
今回の実験については本市の包括的なビジョンの中の一部分の実験として論じられているが、単なる一般車両の締め出しになっているのではないか、実験を実施する区間周辺の駐車場問題をないがしろにした規制実験は地域の商店街を含めた活性化においてマイナスになるのではないかという疑問がある。
また、路面電車に依存する実験のためには、隣に隣接する平和通りのうち、一定区間を無料駐車区域にするぐらいの大胆な発想が必要ではないか。
さらに路面電車の存続については尻毛の鉄道橋に代表される軌道敷など、維持管理費を含めた総合的な判断が必要なのではないか。
最後に実験の説明会の状況で合意形成が得られにくい場合、再度この実験を検討する考えがあるのか、過去に実施した様々な交通実験についての所感はどうか。

<市長答弁>
将来の総合交通体系は少子・高齢社会の進展、大気汚染等環境意識の高まりなど社会情勢の変化に対応するため、これまでの車中心の交通体系を見直し、今後は歩行者や自転車が安全に通行でき、また、路面電車あるいはバスなどの公共交通が使いやすく、車を加えたそれぞれの交通手段が適切に組み合わされた交通体系に転換することが必要ではないかと考えている。
交通政策をこのように転換することで自動車を運転することができなくなる高齢者も路面電車、バスなどの公共交通によって移動手段が確保され、また、歩行者や自転車が町中で主役になることによって市民の健康が保たれ、また、商店街がにぎわうなど、人と環境に優しく、活力ある岐阜市のまちづくりを支えていくことになると考えている。
このような考え方に基づく交通政策を前進させていくために、市民の理解と協力が得られるよう市民の皆様方に交通政策を広く知ってもらうため、政策転換によるさまざまな社会的影響を探るために多様な社会実験が必要ではないかと考え、路面電車の軌道敷内通行不可あるいは安全島の設置実験、長良橋通りにおけるバスレーンの実験などを実施したいと考えている。

実験の目的は、行政が市民とともに交通のあり方について検討するため、将来の交通体系を実験的につくり出して施策の効果と影響を把握するとともに、市民の皆様方が実際に体験して一緒に考え、行政が市民の皆様方とともに協働し市民の合意形成のもと計画の策定を進めるために行うものである。また、交通に関係する国土交通省、県、県警や交通事業者、さらには、NPOなどの市民、それぞれが役割分担をして皆が参画するものとして実施したいと考えている。

社会実験における一般車両の規制については、規制目的ではなく、バス、路面電車の公共交通のサービスレベルの向上を図った場合、自動車の走行車線が減少し、これまでは最短経路で目的地に行くことが可能であったものが迂回が必要になったり、あるいは走行速度が遅くなったりなどの影響が予想される。しかし、高齢者の移動手段の確保、環境問題、市民の健康保持や増進の観点からも今日の交通状況を変えていくことが必要であると考えている。

実験区域内の駐車場問題と地域の商店街等への社会実験中の影響については、一般車両の進入を規制することにより、沿線の物流、買い物、商談など、自動車を活用した商業活動への影響が考えられるので、中心市街地の駐車場の有効活用を優先して、商業活動に伴う自動車については駐車場への適切な誘導を図っていこうと考えている。トランジットモール実験については商店街の協力なくしてできるとは考えていないので、今後とも協議を続け、商店街の理解を得たいと考えている。

平和通りの無料駐車場設置については、道路交通状況あるいは沿道の土地利用、道路交通法などの法令によりなかなか難しいと理解している。中心市街地の駐車場の有効活用を図りたいと考えている。
沿線商店街の皆様を初めとする市民には社会実験の必要性について理解を求めていく。

路面電車存続に向けた総合的な判断については、路面電車が市外から通勤、通学などの主な交通手段として利用されている。また、高齢者に優しく、環境においても優れた乗り物として国内外で評価が高まっており、新たに路面電車の導入を検討している都市もあると聞いている。
私としては、今後の社会状況の変化に対応できる乗り物として、さらには、スローツーリズムを支える観光資源としての活用や将来の岐阜のまちづくりを支える公共交通として活用したいと考えている。
そのためには交通社会実験により市民が路面電車を評価し、路面電車の走行、利用環境の整備に向けた市民の合意形成が前提であると考えている。
(路面電車の経営については)名古屋鉄道が経営を継続することが最も望ましいと考えているが、経営撤退の意向が示されている状況においてはどのような選択肢があり得るのか、沿線市町とも協議をしながら検討を進めていく必要があると考えている。

実験に対しかなりの住民の反対があった場合、実験を中止をすることがあり得るのかという質問については、現在路面電車は利用者が減少しているとはいえ、年間638万人もの人たちが通勤、通学に利用している。
特に北方町における高校への通学や、逆に揖斐方面から岐阜市内に通う学生にとりましては大変重要な公共交通機関である。また、岐阜市北西部及び北方町などの揖斐線沿線の自治体からは約6万7千名に上る存続に向けた署名が届いており、大変重みのあるものと感じている。
今日、少子・高齢化は他の国に例を見ない早さで進展し、今後増え続けていく高齢者の移動手段の確保は行政の重要課題であると考えている。また、環境面で申し上げれば21世紀は環境の時代と言われており、自動車を中心とする排気ガスによる大気汚染、環境問題の対応も行政として積極的に取り組むべき問題であると認識をしている。
私としては、社会状況への対応を考えると、路面電車は市民にとって必要な交通機関であろうと考えている。そのために軌道敷内の通行不可あるいは安全島設置など、他都市にある路面電車と同等のサービスレベルにしたとき、路面電車の見方あるいは評価がどのようなものになるかを見るために社会実験を実施するものである。

<第3回定例会のまとめ>
総合型社会交通実験について市議会からは実施に関する疑問点が出され、市がこれに答える形で進んでいる。総合型社会交通実験については「市の全体の総合交通計画があって、これを前提とした実験を行うというのが筋ではないかと考える。そういうものが前提になっていない今回の実験の結果から、将来の全体計画を導き出すということは非常に困難ではないか」という発言に象徴されるように、路面電車やバスを公共交通体系にどう位置づけるか明確にされていない中で実施されている(もっとも、役所の計画というのは象徴的な表現が多いうえ、フォローアップもされていないことが多いため仮にあったとしても計画が意図に反することは多い)。むしろ逆に結果から計画を導き出そうとしている。そうであるなら2ヶ月という期間ではなく、もっと長期間で実施する必要はなかったのだろうか。
そのような前提条件が整備されていない中での交通実験にどれだけの意義があったのかと思うと首を傾げざるを得ない。

また、路面電車についても名鉄が路面電車からの撤退を表明しているにも関わらず、「名古屋鉄道が経営を継続することが最も望ましい」という発言からも岐阜市が積極的に今後の経営主体になることを回避しようとする姿勢が伺える。市の答弁を見ても「観光資源としての活用や将来の岐阜のまちづくりを支える公共交通として活用したい」という抽象的な発言は聞かれても名鉄撤退後の経営主体をどうするかといった具体的な議論は聞かれない。

そんな中で実施される交通実験にどんな意義があったのだろうと思う。
これは想像の域を出ないが、安全島の設置、軌道内の一般車両通行制限などの社会実験の結果、利用客の減少に歯止めがかかる、ないしは微増という結果が出れば、それをテコに名鉄の翻意を求めていく、逆に結果が出なければそれを口実として廃止に同意し、代替バスも名鉄に出させるという考えが市当局にあったのではないか。

そもそも、社会実験を実施する以前に路面電車の利用客減少という事実で岐阜市民の路面電車に対する評価は確定している。本数が少ない上に乗降に不安があって利用しにくい路面電車をわざわざ利用する人は多くないだろう。

岐阜市当局の言葉に実が伴い、交通体系に路面電車の位置づけができていれば、そうした事態を迎える前に名鉄と協力して問題の多い市街地の利用環境の改善に努めていた筈である。
少なくとも路面電車に理解があるという豊橋市や岡山市の事例を見ると鉄道事業者だけに負担を追わせることなく、まち作りの一環として行政も補助金を支出するなど協力している。

これに対して岐阜市の答弁を見ていると言葉遊びに終始して、鉄道事業者に任せきり。
自らは何も手を打とうとしなかった。長年にわたるその蓄積が、今回の騒動に結びついたように思える。
市当局にしてみれば議会の「路面電車撤廃に関する決議」があったから積極的に動けなかったという言い訳はあるかもしれないが、それも議会が見直せば済む話であり、免罪符にはなり得ない。

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