取材で岩見沢に行く事に。
「イラストと写真入りで食べ物屋紹介のページ作るから、明日行って来てよ。札駅に一人カメラマンよこすからさ、その人と一緒に取材してきて。」
電話口でそう話すのはいつもイラストの担当をしてくれるOさんだ。神経質そうなこのおじさんには、私は毎度有り難くボツを頂戴している。
「ん~~~…なんかさ。こういうんじゃないんだよね。ん~…ほら、あ~…わかるでしょ?」
…わかるかよ!! 私はいつもこの調子でOさんにさらりと谷底に突き落とされているのである。
取材当日、11時。
張り切って札幌駅に早く到着した私は、少しドキドキしていた。
「カメラマンさんと2人でかあ…」既に私の頭の中ではチェックのシャツを着た非常にさわやかなカメラマンがこれまたさわやかな笑顔で存在していた。
「鰻も食べれるし…ぐふふ」
“いい旅夢気分”気分の私は待ち合わせの喫茶店の前で一人ニヤついていた。
その時。
「いやあ~~~、遅れました!」
来た!!………ってオイ!!目の前に現れたのはなんと首からダラリとカメラをぶら下げたオッサン、Oさんだった。あたりを見回してもチェックのシャツはどこにもいない…。
「ボツ宣告魔のOさんと、何故…!」もしその瞬間爆破スイッチがあったのならば私はためらいもなく押していたと思う。
聞けばなにやら来るはずだったカメラマンは急きょ別の取材に同行してしまったのことだった。
Oさんとのいい旅夢気分にはほんとまいった。
Oさんは列車に乗り込むや否や地図を失くし、「あったあった」と言ったと思ったら今度は抱えていた資料をザアアーーーと床に落とし、更には切符まで失くす始末。頼むよ、とほほ…
岩見沢に着いたと思ったら今度は「僕は方向音痴でねえー…」とOさんはしきりに地図を回転させ、その結果二人で道に迷ってしまうという受難にまで遭ってしまった。
しかしOさんが歩いている途中でカメラを落としたせいでシャッターが切れなくなったのを見たとき、私はもうOさんのあまりのドジっぷりに悪いとは思いつつ爆笑してしまった。
会社で会っている限りでは、もっときちんとしている人だと思ったのに、と私は何だか親近感が沸き始めた。
Oさんと鰻を食べ、焼き鳥も食べ、取材中にも関わらず日本酒まで飲んでしまい、帰る頃には私はすっかりこの珍コンビでの小旅行が気に入ってしまった。
札幌へと向かう列車の中で、Oさんはポツリポツリと自分の事を話し始めた。会社に入ったばかりの頃の事、締め切りに追われ疲れていること、最近ジムに入会したが2回行った切りな事、そして趣味の釣りの事……
「いやー、取材と言えども、けっこうのんびりできたなあ~!」
夕陽で顔を赤くしたOさんはそう言って笑いながらのびをした。チェックのシャツこそ着てはいなかったが、さわやかな笑顔であった。
窓の向こうにはそろそろ駅前の高いビルが見えはじめていた。
帰ったら、私も早速原稿を書かなくては。
まあ、またこの横のおじさんに、サラリとボツを喰らうんでしょうけど。
お手柔らかにお願いいたしまするるる。