コラム・スノーマン~これじゃ悟りは臨めますまい

忘れたくない、或いは一刻も早く忘れたい日々について

珍コンビ・取材に参る

2006-05-28 | コラム・エッセー

取材で岩見沢に行く事に。



「イラストと写真入りで食べ物屋紹介のページ作るから、明日行って来てよ。札駅に一人カメラマンよこすからさ、その人と一緒に取材してきて。」



電話口でそう話すのはいつもイラストの担当をしてくれるOさんだ。神経質そうなこのおじさんには、私は毎度有り難くボツを頂戴している。



「ん~~~…なんかさ。こういうんじゃないんだよね。ん~…ほら、あ~…わかるでしょ?」



…わかるかよ!! 私はいつもこの調子でOさんにさらりと谷底に突き落とされているのである。



取材当日、11時。



張り切って札幌駅に早く到着した私は、少しドキドキしていた。



「カメラマンさんと2人でかあ…」既に私の頭の中ではチェックのシャツを着た非常にさわやかなカメラマンがこれまたさわやかな笑顔で存在していた。



「鰻も食べれるし…ぐふふ」



“いい旅夢気分”気分の私は待ち合わせの喫茶店の前で一人ニヤついていた。



その時。



「いやあ~~~、遅れました!」



来た!!………ってオイ!!目の前に現れたのはなんと首からダラリとカメラをぶら下げたオッサン、Oさんだった。あたりを見回してもチェックのシャツはどこにもいない…。



「ボツ宣告魔のOさんと、何故…!」もしその瞬間爆破スイッチがあったのならば私はためらいもなく押していたと思う。



聞けばなにやら来るはずだったカメラマンは急きょ別の取材に同行してしまったのことだった。



Oさんとのいい旅夢気分にはほんとまいった。



Oさんは列車に乗り込むや否や地図を失くし、「あったあった」と言ったと思ったら今度は抱えていた資料をザアアーーーと床に落とし、更には切符まで失くす始末。頼むよ、とほほ…



岩見沢に着いたと思ったら今度は「僕は方向音痴でねえー…」とOさんはしきりに地図を回転させ、その結果二人で道に迷ってしまうという受難にまで遭ってしまった。



しかしOさんが歩いている途中でカメラを落としたせいでシャッターが切れなくなったのを見たとき、私はもうOさんのあまりのドジっぷりに悪いとは思いつつ爆笑してしまった。



会社で会っている限りでは、もっときちんとしている人だと思ったのに、と私は何だか親近感が沸き始めた。



Oさんと鰻を食べ、焼き鳥も食べ、取材中にも関わらず日本酒まで飲んでしまい、帰る頃には私はすっかりこの珍コンビでの小旅行が気に入ってしまった。



札幌へと向かう列車の中で、Oさんはポツリポツリと自分の事を話し始めた。会社に入ったばかりの頃の事、締め切りに追われ疲れていること、最近ジムに入会したが2回行った切りな事、そして趣味の釣りの事……



「いやー、取材と言えども、けっこうのんびりできたなあ~!」



夕陽で顔を赤くしたOさんはそう言って笑いながらのびをした。チェックのシャツこそ着てはいなかったが、さわやかな笑顔であった。



窓の向こうにはそろそろ駅前の高いビルが見えはじめていた。



帰ったら、私も早速原稿を書かなくては。



まあ、またこの横のおじさんに、サラリとボツを喰らうんでしょうけど。



お手柔らかにお願いいたしまするるる。



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サーキットにて

2006-05-23 | コラム・エッセー

日曜日。



彼氏の友人がレーサーとして出場するという事で、二人で帯広にバイクレースを観に行ってきた。



天気は極上の晴れ。足元には短い影が濃く、はっきりと映っている。



600ccクラス9時予選開始、11時決勝スタート。私達は10時過ぎに到着し、試合前のレーサー達を見てまわった。



若い人、ベテラン風の中年の人、何やら呑気に話す人、精神統一している人と様々だったが、私達が応援する高田さんは、予選も難なくクリアという事でいつもと変わらない緩やかな表情でストレッチをしていた。



高田さんにはそれまでも数回しか会った事はなかったが、冗談ばかりをいうのんびりとした人で、私は彼がレース用のバイクスーツを着ているのを見てもまだレーサーだという事が信じられなかった。





11時。



予選を通過した600ccクラス19台のマシンがいっせいにサーキットに入った。



「ドルルルル……!!」



バイクにまたがったレーサー達がまるで暴れ馬の上のサムライの様にも見える。



そしてスタート!



物凄いエンジン音がまるで青々とした空気を割るように響く。



高田さんは少し出遅れたが、2周目に入る前には既に1位になっていた。



270キロ位の速度だろうか?首を左から右へ振るのがやっとの速度で次々とマシンが目の前を横切っては豆粒となって去ってゆく…



なんて気持ちがいいのだろう!!



赤、黒、黄、鮮やかな色のバイク達の何かを打ち破ろうとするエンジン音が圧倒的なスピードで私の中に知らない内にかさばっていたモヤモヤを一瞬で吹き飛ばしていく。



「行けぇーーー!!」



いつの間にか大声を出していた私。





5周目、6周目……グングン2位との差をつけ、直線コースも真っ直ぐ走らず私達応援チームのスレスレまで寄ってくるという余裕まで見せてくれた高田さんは、黒と白の格子模様のフラッグが堂々と舞う中、そのままゴールを駆け抜けていった。



表彰式台の一番高い所で、高田さんはやっぱりまたいつもの緩やかな表情だった。



戦いを終えたレーサー達は皆互いに互いを讃えあい、その中で私は図々しくも自分まで何かをやり遂げたような満足感を味わっていた。



みんな本当に輝いていた。



しかしそれにしても高田さんは黒いシールドのヘルメットの下では一体どんな表情だったのだろうか。



レーシング場を後にする時、そんな想像もつかない事を想像して、私は何だか少し「フフ…」と可笑しくなった。



相変わらず潔いまでの青空が、私の胸に初夏の到来を期待させた。





さあ、私も走らなきゃ。



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大きな小旅行

2006-05-22 | コラム・エッセー

土曜、日曜と休みをとって旅行へ行ってきた。



行き先は十勝、札幌から車で約5時間。そう遠くはないけれど、日常からは遠く離れた。





揺れる木々



晴れ渡る空



風の音



緊張感を忘れ、安心感を思い出した。





そびえる山々



花の匂い



水の肌触り



頑張り過ぎていた事に気付き、もっと頑張れる事にも気付いた。





刻々と変わる夕陽の色



青光りする長い道



蛙の声



好きなものすら忘れ、好きなものを思い出した。



どうしようを忘れ、ありがとうを思い出した。







たった1泊2日の旅行が、長く長く感じた。



鮮やかで透明な旅だった。



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驚きの3分クッキング

2006-05-19 | コラム・エッセー

マンションというのは、とにかく人付き合いがない。



「あらやだっ ちょっと、醤油が切れちゃったじゃない!マモル、あんたちょっとお向かい行って借りてきて! あっそういえばあんた算数のテストがあったそうじゃないの!上の階の山本さん言ってたわよ!早く答案出しなさいっ!ジャージャー(チャーハンを炒める音)」



…なんてことはまずない。聞いたこともない。



我が家の下の階には一体どんな人が住んでいるのだろうか。ここに移り住んで10年経った今でも定かではない。上の階にはやたらボーダーの似合わない疲れ果てた風のおばさんと、その向かいには皮肉なことに女優並みに綺麗な奥さんが住んでいるのは知っているが。



我が家の向かいの部屋には三人家族が住んでいる。父・母・そして息子。



エレベーターでたまにここのおじさんと一緒になった時などは一気に気まずい空気が漂い、私もおじさんもハハ…と意味のない笑顔をうっすらと浮かべ、ドアが開くのを待ちわびるように階を表示するランプが下へ下へと点灯していくのをただひたすらみつめてしまう。





その家族の一人息子は、昔は度々ベランダの隙間から我が家を覗いていた。彼が5歳か6歳の頃だっただろうか。



「k君、危ないわよ!」と母親の大声が聞こえる。



鼻水を垂らし、だみ声のK君は正直たいして可愛くもない子供だったが、私はその子の母親をバリバリ意識して必要以上に大きな声で「可愛いねえ~!」などと言っていたものだ。



彼に関しては、そんな記憶しかない。



ところが。



今日の朝出掛ける時、向かいのドアからちょうどK君が出てきた。それまでも時々母から



「お母さん、今日K君見たよ!大きくなってたわ~」



とK情報は私の耳に入っていたのだが、実際に彼を見て私は滅法驚いた。なんとK君は突然高校生になっていたのだ。



“突然”という表現もおかしいのだが、私にはそんな風にしか思えなかった。まるで3分クッキングの様な、ゆるゆるのホワイトソースがいきなりグラタンになって「はい、こちらが焼き上がりです」とあっさり言われたような感覚とでも言おうか。



まあ、K君がこうしてグラタンになって登場するには実際には3分どころか10年もかかった訳だが…。



ツンツルテンの制服に身を包んだそのグラタンは、なんと立派なアキバ系に成長していた。



「おおおお~~…!!」



うっすらと黄ばんだブ厚い眼鏡といい、その太り具合といい、彼はこの10年間の間でそのドアの向こう、オーブンで加熱されるが如くじっくりとオタクになっていったのかと思うと、私は何だかほほえましいような不思議な喜びで胸がいっぱいになった。



その朝、エレベーターで1階まで二人で下りる時、私はいつものように扉の上のランプを見てはいなかった。



短い間ではあったが、K君の後ろに立ち、「感動的な再会をありがとう!!」としっかりと背中にテレパシーを送り続けた。



途中K君がいきなり鼻の穴をほじったのはきっと、私の熱烈なテレパシーがムズ痒かったに違いない。





ドアが開くと、K君は遅刻寸前だったのか猛ダッシュで走っていった。



私はしばらくその後ろ姿を見守っていた。





こんな驚きの3分クッキングが見られるのなら、マンション生活も悪くはない。そう思った朝だった。



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恋心

2006-05-13 | コラム・エッセー

恋をしてしまった。





手も触れたことのない彼に。





こうして心が動いてしまった今、これはもう浮気とは呼べない域に入ってしまった。





そう、これまでの恋は全てニセモノ…



これが私が求めていた、真実の!嗚呼、真実の恋……!!



船越英一郎様………!!!





…最近船越英一郎が気になって仕方がない。高校生の時から、“男はワイルド”を格言としてきた私。



『ビバ 筋肉! アモーレ アゴヒゲ!! トレビアン スネ毛!!!』



トキメキの胸キュンキーワードはズバリ“ムサ苦しい”。芸能人にしろ一般男性にしろ、人間の原種とも思える男性にことごとく目をハートにしてきた。 



数年前に、姉に冷たく「もうゴリラと付き合った方が幸せになれるんじゃない」と言い放たれた事を覚えている。





だのにだのにそれだのに!!



私は今、テレビに船越英一郎が映る度に17,8の乙女の様にはしゃいでいる。その内、花びらを一枚一枚モギ取りながら、「結ばれる、結ばれない…」と頬を赤く染めて呟いてしまうかもしれない。



船越様のあの枯れ始めた感じ、迷い犬のような八の字の眉毛、そして優しい眼差しが私を魅了して止まないのだ。



先週テレビでサラリとVネックをお召しになっている船越様をお見かけした時は、私はもう自分の意識とは別に神がかりとも思える速さでビデオの録画ボタンを押していた。



ソファーの角に右足の薬指アンド小指をぶつけた事にすら気づかなかった。



何故!?



高校時代、男性の英語教諭が素肌にVネックの姿で高らかに「エビバデ、グンモーニン!!」等と言った日には、あまりの不快さにその授業中一度たりとも顔を上げなかった程、男性の「Vネック・オン・素肌」という爽やかさに生理的嫌悪感を抱いていた私がとった行動とは思えない。



けれどその時見た船越様のVネックは、何故か私の心を鷲掴みにしたのだった。これぞ恋のマジック。(本当はその時船越様の頬の毛穴が大きく開いていた事に気付きかけたのだが、私はすぐさま見なかったフリをした。)





姉はこんな私の“フナコシズム”を理解できないと言う。その度に私の中に「どうして解らないのか」と力説したい気持ちと「解ってたまるか」という相反する気持ちが湧き上がる。



船越様を前にニタニタしている私に、またしても姉が冷たく言い放った。



「船越好きのアンタの方がサスペンスだよ」と…。



誰が何と言おうとも、この先も私は崖に立つ船越様をお見守りしたいと思っている。





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