ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

2023年8月にテーマ・タイトルを変更(旧は外国語関連)
2015年4月にテーマ・タイトルを変更(旧は健康関連)

貯蔵性高コレステロール仮説

2024年01月28日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-2-13追記, 1-30一部修正〕

 

 時候の御挨拶
 久しく休養していたところだが、たまには・・・

 

 本記事はカテゴリー「思いつき」の最初のものになるので、その趣旨をメモしておこう。新カテゴリーの趣旨は、内容が十分詰まっていなくて荒が見え隠れするけど、先に進みようもないので今後のために備忘録として置いておこうという感じのものである。

 

 現状緩やかな糖質制限みたいなことをやっている状況だけど、何年か前の同食導入時に血液検査の結果上で気になったのは、尿酸と肝機能の数値。
 その後の工夫の結果、いずれも対処法が分かったので、現状は対処をはせずに放置気味のところ(思いついた理屈に沿って対処してみたら数値が改善されたので、そのような理屈からすると、そもそも気になった検査数値は低リスク事象の可能性が大きいと推測されるため)。
 一応、体型的に痩せ型の部類だが(糖質制限時には痩せ過ぎ気味になりデブェット法が必要なタイプ)、なぜかコレステロール値はそれほど変動しなかった。 

 他方、糖質制限をするとLDL-C(低密度リポタンパク質コレステロール、low density lipoprotein-cholesterol)がかなり上昇する人にとっては、結構切実な問題なのかもしれない。書くのに手間がかなりかかってそうなブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事を読んでそのように感じたところ:

 

除脂肪体重ハイパーレスポンダーの糖質制限によるLDLコレステロール上昇と冠動脈疾患リスクの関連 -2023年12月11日
https://promea2014.com/blog/?p=24664
>以前の記事「糖質制限でLDLコレステロールが大きく上昇する人の特徴」で書いた、LDLコレステロール200mg/dL以上、HDLコレステロール80mg/dL以上、および中性脂肪70mg/dL以下である「除脂肪体重ハイパーレスポンダー」(LMHR:Lean Mass Hyper-responder)表現型についての研究が行われています。

今回はその途中経過です。非常に興味深いです。この動画は、12月7~9日にロサンゼルスで行われた「the World Congress on Insulin Resistance, Diabetes and Cardiovascular Disease conference 」での発表です。この発表は恐らく論文化され、「Metabolism」という雑誌に掲載されるでしょう。<

 

注1) "Lean body mass" を「徐脂肪体重」と訳すのは慣用的なのだろうが、"lean mass" は "低脂肪の、あるいは引き締まった、質量・塊" の趣旨のようだから、「低脂肪体、低体脂肪」の方が適当ではないか? そうすると "Lean Mass Hyper-responder" は「(糖質制限食におけるLDL-Cの)低体脂肪高応答者」という感じという気がするところ。

 

 ということで、この問題を少し真面目に考えてみていたところ。なかなか結論も出ないので何となくのまとめとして、次の三つの資料をベースにして考えた思いつきをメモしておこうかと・・・(上記記事で引用された動画の人は、高コレステロールの原因として "lipid enegy model" (脂質エネルギー・モデル)を採用しているようだけど、個人的にはしっくり来ないので、別概念を):

 
- a. 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)の科学文献サイトから:
長期絶食時の脂質代謝 -1985年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat1973/14/5/14_5_1155/_pdf (pdfファイル)
>V. 結 語
長期絶食時の脂質代謝を検討し, 以下の結果を得た.
1) 血清遊離脂酸, 血清コレステロール値は,絶食により増加した.
2) リポ蛋白分画では, LDLコレステロール,LDLトリグリセライドが上昇し, VLDLトリグリセライドは減少した. LDL増加の原因は, もっぱらLDL2(d:1.019~1.063)によるものとわかった.
3) 甲状腺ホルモンでは, T3の減少を認め, 生体の適応現象のあらわれと考えられた.
4) 以上により, LDLの上昇は, LDLレセプター減少による異化障害の結果である可能性が示唆された。<

 

- b. 米政府系の医療文献サイト「PubMed」から:
Causes and Consequences of Hypertriglyceridemia -2020 May
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32477261/ 

 

- c. ブログ「ドクターシミズのひとりごと」 から:
糖質制限とBMIと飽和脂肪酸摂取量とLDLコレステロール -2024年1月24日
https://promea2014.com/blog/?p=25023
>上の図〔省略〕は平均ベースラインBMIとLDLコレステロール変化の関係です。Aは対象となるすべての試験を含む低炭水化物食で、Bは参加者がスタチン治療を受けた試験を除く低炭水化物食、Cは328人の個人データで、Dは312人の個人データの高炭水化物食のものです。糖質制限のAおよびBでは、BMIが25未満の場合、LDLコレステロールは大きく増加し、平均BMI25~35では変化なし、35以上では減少しました。個人データではBMIが30弱くらいよりも低いとLDLコレステロールが大きく増加しています。高炭水化物食は変化なしです
 上の図〔省略〕は個人データを使用して、A:低炭水化物食、B:高炭水化物食でのLDLコレステロール変化を示しています。縦軸LDLコレステロール変化、横軸ベースラインBMI、Z軸飽和脂肪酸です。
 LDLコレステロール変化に対してBMIが飽和脂肪よりも大きな影響を及ぼしました。飽和脂肪酸の摂取量が7%から21%に増加するとLDLコレステロールは糖質制限では14mg/dL増加、高炭水化物食では9mg/dLの増加でした。しかし糖質制限のLDLコレステロール変化はBMI35からBMI20になると38mg/dL増加します。<

 


 さて、狩猟採集食の際に、痩せ型の人では低い中性脂肪でありながら高コレステロールとなることがあるが、何故か? 結論から先に書いておくと、次の仮説が成立しそう:

 

貯蔵性高コレステロール仮説
 狩猟採集食の際に痩せ型の人に多く見られる、低い中性脂肪で起こる高コレステロールは、低体脂肪の故に起こり得る健全な代謝の例でであり、特段のリスクを有しないと考えられる(解説文を手短にするため、下記の模式図を参照)

      図:とある体質の人の中性脂肪(TG)とLDL-Cとの関係模式図
 血清中性脂肪が全身の脂質代謝を制御し、体脂肪を規定しBMIへ影響するとの考え方を前提としたもの。なお、A(若しくはβ)、B、C及びαの各点の配置は例であり、体質によって位置関係が決まると考えられる。LDL-C は low density lipoprotein-cholesterol、sdLDLは small dense low density lipoprotein。

 

 初期人類から進化学的にみれば、狩猟採集食(低糖質のもの)が標準だった時代が長かったと思われ、遺伝子的に考えてもその際に代謝が最も低くなるようなっているものと推測される(具体的には、甲状腺ホルモンの遊離T3量やインスリン分泌量が低水準となる)。代謝が低い故に、体内でのコレステロール生成も高まらない状態にあるのだろう(脂質の燃料利用を優先し、原材料利用を抑える感じともみられる)。
 狩猟採集食をしている限り、血糖値の変動は少なく、血管系などの酸化的損傷も低く抑えることができるので、代謝を高める必要性も少ない。
 低体脂肪の人の場合には、普通体脂肪の人に比べ脂質の備蓄が少なく脂質を温存する必要性が高いので、甲状腺ホルモン(遊離T3)の水準が極力絞られるのであろう(絞らないと筋肉を溶かしてしまうおそれが高まる。遊離T3が減少すると、肝臓ではコレステロール生成能とLDL受容体の数がそれぞれ減少する)。他方、高体脂肪の人は、脂肪は有り余っている上に脂肪組織主導での慢性炎症もあり、ある程度以下に代謝を落とすことはできないのであろう。
 ヒトのリポタンパク質たるLDLの遺伝子表現型には、phenotype A(大型でふわふわLDLが多いタイプ)と phenotype B (小型で稠密なLDLが多いタイプ)があるらしい(注2)。いずれのタイプにせよ、狩猟採集食の場合には、農耕食に比してsdLDLの割合は低いであろう。狩猟採集食では血管系などの酸化的損傷も少ないことと併せて考えれば、コレステロール(三大栄養素の代謝物から肝臓で合成可能だが、安定物質であり動物細胞では異化(消化・分解)できないもの)を肝臓に逆転送させて機能チェックしたり排泄する頻度を低下させても問題が生じないのであろう。

 

注2)冒頭紹介のブログにおいて、この点に関する少し古い次の記事があるけど、phenotype(遺伝表現型。なので人の属性)をリポタンパク質LDLの属性と勘違いしている部分があるように見受けられ、少し残念なところ:

   糖質制限とLDLコレステロール上昇 -2017年2月16日
   https://promea2014.com/blog/?p=1101

 

 以上のことからすると、狩猟採集食では脂質の割合も高いので、(絶食したまま2-3日程度普段よりかなり激しい身体活動をすることを射程に入れて)食餌中のコレステロール(組織修復用の原材料)を血液中の輸送中在庫として保管しつつ保管量を増やしておくことは、理にかなった適応と思われる。 

 


 仮に上記の仮説が成り立ちそうということであれば、更にはこれを発展させた次の仮説も考えられる:

 

コレステロールの貯蔵器仮説
 狩猟採集食時には血液中の輸送中在庫が(特に低体脂肪の人で)、糖質食時には血管の粥腫(アテローム)がコレステロールの貯蔵器になっていると考えられる(注3、注4)。

 

注3)血管系(血清中、内皮下組織)を貯蔵器にしていたのではという説。前半は、貯蔵性高コレステロール仮説と同趣旨。後半については、進化的にみれば、温帯に住む人類(熱帯・寒帯に住む人達は別扱いの前提)にとっては狩猟採集食が9-10か月間、秋には糖質食(越冬準備食)を2-3か月間ということが多かったのではないか。そうすると、例え粥腫ができても毎年春先には解消していたものと考え得る。

注4)「粥腫」の定義がはっきりしていないようなので更に補足しておくと、脂肪線条(fatty streak)が形成されたがプラーク形成には至らない段階は、可逆的な貯蔵器として機能し得ると思われる。そのように考えると、中性脂肪の増加に伴いsdLDLが増加することは何かに合目的な振舞いのはずだが、それはsdLDLの役割を次のように理解すればよいのかもしれない:

sdLDLの役割は、血管内膜下に侵入し易くなるよう小型に変化して

a- 血管の修復材料としてのコレステロールの供給
b- 脂溶性の毒素を中和(一種の免疫作用)
c- 抗酸化剤としてのコレステロールの供給
d- できた酸化LDLを免疫応答制御因子として免疫細胞が活用

 多少補足してみると、aとcについては、中性脂肪が増加するのは糖質食ということだろうから、血糖変動が増大し酸化ストレスが高まり、その結果酸化損傷も増加するという状況に対処するためのものとみることもできる。bについては、LDLは脂溶性のものを(輸送のため)内部に取り込む性質があるようで、物質を周囲から隔離する機能があるとみることもできる。
dについては、血管系においては腫脹して血栓化するのを回避するため一般組織と異なる炎症パターンになっているとも考え得る。酸化LDLには免疫応答抑制機能があるようで(注5の資料参照)、増え過ぎると単球/マクロファージが貪食・貯蔵して免疫応答の水準を調整していると考えることもできる(酸化LDLを貪食して泡沫化細胞になっても、HDLにコレステロールを引き抜かれて量が減ると、血管外に遊走しリンパ節に戻るものもあるとされている)。

注5)Lipoproteins attenuate TLR2 and TLR4 activation by bacteria and bacterial ligands with differences in affinity and kinetics  -2016
   https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27793087/

 

 これらの仮説に関し、更に論考を進める必要がありそうだが、今回はこの辺で・・・

コメント    この記事についてブログを書く
« 脂肪酸の輸送・貯蔵方法(清... | トップ | 基礎免疫力仮説と糖質制限・... »

思いつき」カテゴリの最新記事