ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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細胞の解糖系依存度仮説(清水氏24/3/18記事関連)

2024年03月20日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-3-25及び27一部修正追加〕

 

 個人的に謎が二つあって、暇な時にいろいろ考えていたところ:

Q1 ヒトの腸内で何故乳酸菌は通過菌なのか?
Q2 ヒトには細胞分裂抑制メカニズム(がん抑制遺伝子など)があるが、促進メカニズムはないのか?(特に解糖系が関与するもの)

 

 前者は、腸内細菌に関する本(ジャスティン・ソネンバーグ著「腸科学 -健康な人生を支える細菌の育て方-」(2016年))を読んでいて出てきたものである。乳酸菌は、定着できないので常在共生体にはなれないらしい(注1)。というか、体に害のものあるらしく、体内に侵入させてはいけないということで乳酸菌がやってくると腸管のバリア機能が強化されるらしい。結果として、乳酸菌は留まれず常に排泄され強化された腸管バリアが残るので、体に良いものと一般的に認識されているらしい(一種のホルミシス効果であった模様)。

 後者は、乳酸の話には直接関係しないけど、安保 徹氏の言説の一つに「がん細胞の先祖返り仮説」というのがある(詳しくは、その著書「免疫力で理想の生き方・死に方が実現する」(2013年)を参照)。簡単に説明すると、細胞(真核細胞)は解糖系生命体とミトコンドリア生命体(酸化的リン酸化生命体)との共生生態系から発展したものであり、低体温・低酸素・高血糖の環境に長く置かれると先祖返りしてがん細胞(解糖系が亢進し細胞分裂つし続ける解糖系生命体様のもの)になるというものである。この言説が正しいとすると、ミトコンドリアと解糖系が関与した細胞分裂促進メカニズムがあるはずなので、消極的に探していたところ(注2)。

 

注1)ここの内容は原本を要確認。腸内の常在共生体のうちラクトバチルス属(Lactobacillus 。「ラクトバシラス」とも呼ぶ)の細菌も「乳酸菌」と呼べるらしいので、この部分の趣旨がはっきりしなくなるところ(すまぬ・・・orz)。手元にない原本を再度確認する予定ということで・・・。とりあえずここでは「食事として新規に摂取する乳酸菌」という趣旨にしておこう。

注2)乳酸と解糖系との関係についておさらいしておこう。解糖系については、福岡大学のサイトの記事から:


解糖
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm
解糖(glycolysis)はほとんど全ての生物に共通に存在する糖の代謝経路で,反応は細胞質で行われる。解糖は Embden-Meyerhof 経路とも呼ばれ,本来、D-グルコースの嫌気的分解による乳酸やエタノール生成までの過程(発酵という)を意味したが、好気的条件下でもピルビン酸までは全く同じ経路をたどる事が分かった。・・・<

>嫌気的解糖と好気的解糖
 嫌気的条件では、乳酸やエタノールの生成が最終段階となり,1分子のグルコースから2分子のATPがつくられる。
    Glucose + 2 ADP + 2 Pi + 2 NAD+ → 2 Pyruvate + 2 ATP + 2 NADH2+ + 2 H2O
筋肉など大部分の組織はグリコーゲンを貯蔵しているので,解糖はグリコーゲンから始まる。・・・
 一方,好気的条件では乳酸生成の速度が著しく低下する。これは、(a) ピルビン酸→ 乳酸の経路から,(b) ピルビン酸 → アセチル-CoA → TCA回路 → 呼吸鎖の経路に切り替わるためである(パスツール効果)。(b)の経路を利用した場合,グルコース 1分子から最大38分子ものATPが得られる(グルコースの完全酸化を参照)。<


引用注)Pyruvate:ピルビン酸、NAD+:ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(電子伝達体の一種で、〔酸化型〕NAD+ ⇔ NADH2+(還元型NAD+)の間で反応の際の電子伝達を媒介する。NADH2+はより高いエネルギー順位で、通常はミトコンドリア内に輸送されて電子伝達系でATP産生に利用され元のNAD+に戻る)。


 進化的にみれば、解糖系の基本は乳酸(又はアルコール)の生成となっている。ヒトの場合は、酸欠だと生死にかかわるので普段は好気的であるため乳酸の生成まで行かずにピルビン酸に留まり、そこから別の代謝系(主にミトコンドリア系)に入ることが多い。筋肉において、ピルビン酸が乳酸まで変換される理由については、日本蛋白質構造データバンク(PDBJ)のサイトの記事から:


乳酸脱水素酵素
https://numon.pdbj.org/mom/102?l=ja
>通常のペースで運動をする時、私たちの細胞は酸素を豊富に取り込んで糖を素早く効率的に分解する。ところが、全力疾走など激しい運動をすると、酸素が十分に行き渡らなくなる。そういう時、私たちの細胞はエネルギー源として解糖系を使う。解糖系の過程の中で、グルコース(ぶどう糖)から得られた水素はNAD+へと渡されて、NADHができる。通常の酸素呼吸の場合、水素はその後酸素に受け渡されて水になる。一方酸素が使えない時は、NADHが溜まってNAD+が足らなくなり、ATPを作るために解糖系を使い続けることはできなくなる。そこで乳酸脱水素酵素の出番である。この酵素はピルビン酸とNADHをくっつけて、乳酸(lactic acid)とNAD+を作り出す。この働きによってNAD+をリサイクルし、再び解糖系で再利用することで、全力疾走に必要な追加エネルギーを素早く作り出すことができるようになる。ただ、乳酸が溜まり数分もすると止まって身体を回復させないといけなくなる。この場合一息つけば、乳酸はピルビン酸に戻され、通常の有酸素的なエネルギー生産過程に入って行くことができる。<


引用注)この記事では前の記事の「NADH2+」を「NADH」と表記している。

 

 で、清水氏のブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事を読むと、これらの疑問が2/3以上解けたような気がするところ:

糖質摂取により血糖値よりも乳酸が先に増加する -2024年3月18日
https://promea2014.com/blog/?p=25547

>いまだに乳酸は疲労物質だと思っている方もいるかもしれません。乳酸は疲労物質でも老廃物でもありません。エネルギー源です。例えば、乳酸の代謝を筋肉で見ると、速筋線維はミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが比較的多く、解糖系が進むと乳酸ができやすいのですが、遅筋線維および心筋はミトコンドリアが多いので、乳酸をたくさん使うことができます。速筋線維でできた乳酸が遅筋線維や心筋で使われ、このようなメカニズムを細胞間乳酸シャトルともいいます
 また、脳では、神経細胞は血流からのブドウ糖ではなく、隣接するアストロサイト(星状細胞)から乳酸を受け取って、その乳酸を主なエネルギー源としているという乳酸シャトル仮説が唱えられています。アストロサイトから神経細胞への乳酸シャトル仮説は、アストロサイトがブドウ糖を代謝して乳酸を生成し、その後細胞外に放出されて神経細胞に取り込まれ、神経細胞ではその乳酸はピルビン酸に変換され、TCA回路に入り、神経活動の亢進を維持するために必要なエネルギーを生成すると考えられています。
 もしかしたら、ブドウ糖そのものを解糖系で代謝して、その後TCA回路に入るのではなく、一旦乳酸に変えて、それをピルビン酸に戻して、TCA回路でATPを作ることをわざわざしている可能性があります。<

>上の図はaがOGTT後30分での、摂取したブドウ糖の行方です。bは120分間での行方です。黄色が血中の乳酸、青が肝臓のグリコーゲンおよびブドウ糖、赤が血中のブドウ糖、緑は糖新生です。75gのブドウ糖は30分間(腸の乳酸シャトル相)で、血中乳酸として9g、肝臓を迂回した血糖として3g、糖新生を介した乳酸由来の血糖として2g、肝臓のグリコーゲンおよび肝臓に保持されるブドウ糖として61gでした。血糖で全体で5gなので、1g/L=100mg/dLですね。
 その後120分での全身性乳酸シャトル相を含めた全体として、75gのブドウ糖負荷は、29gは血中乳酸として、24gは肝臓からのブドウ糖放出からのブドウ糖で、8gは糖新生からのブドウ糖で、14gは肝臓のグリコーゲン貯蔵庫として残っているか、不明です。しかし、いずれにしてもブドウ糖を経口摂取すると非常に多くの割合が血中の乳酸に変わっています。解糖系が非常に亢進しているのがわかります。
 乳酸シャトルは2相性であり、経口摂取してすぐの腸の解糖と、その後のブドウ糖が解糖系で全身で処理される全身相があると考えられます。
 そして、経口摂取から5分以内で乳酸と共にインスリンが上昇しているのは、インスリンが腸の解糖に関わっていることだと思われます。さらに、乳酸はもしかしたらもっと体内で重要な役割があり、シグナル伝達物質でもある可能性があります
 また肝臓のグリコーゲン合成は、ブドウ糖の摂取後2分ですでに起こるそうです。(ここ参照)経口摂取されたブドウ糖は、食後の初期段階では肝臓での取り込み率はかなり高く、肝臓のブドウ糖の代謝または貯蔵能力を超えた場合にブドウ糖が直接循環に移行すると考えられます。進化の過程では、糖質はほとんど無かったために、できる限り早く肝臓に貯蔵しようと進化したのかもしれません。
 いずれにしても、乳酸生成は普通に起きていることで、疲労物質でも老廃物でもありません。腸で一度乳酸に変えてから血中に入ることで体へのダメージを減らそうとしているのか、他の何か重要な目的があるのか、よくわかりません。また、全身性の乳酸シャトルにしても、血糖をそのまま取り込むよりも乳酸として取り込む方が何らかの利点があるのかもしれません。それとも少しでも早く血糖値を下げたいがためのメカニズムでしょうか?<

 

 上述の二つの謎については多分興味のない人が多いだろうから、それらの答えは別の機会にすることにしよう。ここでは、そこでの考え方を応用して

   Q3 何故乳酸シャトルがあるのか?

という問を考えてみると、次のような感じだろうか(思いつきレベルであるものの「細胞の解糖系依存度仮説」とでも呼んでおこう。本当はもう少し多角的に検討しないといけないのだが、Q1-3の疑問が解消したような気がするのでメモしておこうかと思い・・・):

 

Q3 何故乳酸シャトル(乳酸の不使用・排泄と取込み・利用)があるのか?

A3)乳酸シャトルが生じるのは、次のような背景があるからであろう(手短にするため箇条書きにて):

・ヒト細胞からの乳酸の排泄は、解糖系の高依存度(ATP迅速供給と細胞分裂が可能。注3)の裏返しなのだろう(乳酸の輸送は膜上のモノカルボン酸輸送体(MCT)により制御される模様)。
・解糖系に関し、筋肉速筋(構造的に細胞分裂は不可)は高依存度(高水準の供給迅速性が必要なため)を、脳神経細胞(海馬では分裂し増殖あり)は低依存度(アストロサイトの解糖系で肩代わり。神経細胞にはミトコンドリア数も多い。注4)を選好するのだろう。

 

注3)解糖系のATP供給速度は、ミトコンドリア系(酸化的リン酸化系)のものより約100倍速いと言われている(細胞内のATP供給系にはもう一つ「クレアチンリン酸系(ATP-CP系)」というのがあり供給速度が最も早い模様)。
 また、寿命の短い細胞は、細胞分裂し易くなっており細胞内のミトコンドリア数が少ない(解糖系の依存度を高め易い)一方、寿命の長い細胞(特に筋肉・神経細胞などの分裂しない細胞)ではミトコンドリア数が多くなっている(解糖系の依存度を高めにくい)という特徴がある。

注4)がん細胞をみてもわかるように、細胞分裂と解糖系は相性が良い(両者の機能は真核細胞の宿主たる古細菌システムを転用したもので、もともと寄生菌(ミトコンドリア)の関与が最小限)。ヒトだと細胞分裂抑制遺伝子(がん抑制遺伝子)があるけど、例えばその一つであるp53遺伝子をみると、解糖系の抑制作用を持った仕組みとなっている。

 どうも細胞分裂の際はエネルギー供給として解糖系が必須な模様で、低依存度であれば誤って増殖もしないのだろう。血管内皮細胞(endothelial cells, ECs)の場合について:

Role of PFKFB3-driven glycolysis in vessel sprouting -2013
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23911327/
>Here, we show that ECs relied on glycolysis rather than on oxidative phosphorylation for ATP production and that loss of the glycolytic activator PFKFB3 in ECs impaired vessel formation. ... <


・そうすると分裂しようとする体細胞は、高依存度と推定される(特に、寿命の短い腸管粘膜上皮細胞。同細胞はミトコンドリア数も少ない。注5)。寿命の短い組織は別として、排泄される乳酸は付近の組織で利用することが多いのだろう。なので、体細胞では普段は乳酸取込み・利用モードにあり(細胞分裂する細胞の周辺の細胞は乳酸を取り込む結果、解糖系が低下し分裂し難くなる)、分裂が迫るとモードが変化すると推定される。

注5)小腸の粘膜上皮細胞のエネルギー源は、普通の細胞と異なっていて、アミノ酸の割合が最も高く、ぶどう糖の割合は低い(うろ覚えだと、グルタミン・グルタミン酸が4割、ぶどう糖は1-2割程度など。グルタミン・グルタミン酸はαケトグルタール酸になりミトコンドリア系で(TCA回路に入り)ATP生成に利用される)。なので、食餌の際に解糖系を高効率で回そうとして乳酸が出てくるのかもしれない。他方、エネルギー源(代謝燃料)であるアミノ酸(グルタミン・グルタミン酸のほかアスパラギン酸も)も全部は酸化分解されずに一部(2割ほど)は乳酸に変性するようであり、これが血液中に出てきている可能性もあるかもしれない。サイト「脂質と血栓の医学」の記事から:

グルタミンとグルタミン酸
***http://hobab.fc2web.com/sub4-Glu_Gln.htm

>5.小腸のグルタミンとグルタミン酸
 小腸では、グルタミンや、グルタミン酸は、代謝燃料(metabolic fuels)として、重要な役割を果たしている
 食事中(食餌中)のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸は、小腸で吸収され、小腸粘膜で、代謝されるが、殆んど、(門脈)血中に入ること(腸以外の組織で利用されること)はない。・・・

 小腸で、腸管内(食餌由来)のグルタミンの炭素は、56%が二酸化炭素に、16%が乳酸に、4%がアラニンに、2.4%がグルコースに代謝されるグルタミン酸の炭素は、64%が二酸化炭素に、16%が乳酸に、3.3%がアラニンに、代謝される。アスパラギン酸の炭素は、51%が二酸化炭素に、20%が乳酸に、8%がアラニンに、10%がグルコースに代謝される

 小腸で産生される二酸化炭素は、38%が、動脈血中から取り込まれたグルタミンに由来し、39%が、腸管内(食餌由来)のグルタミンとグルタミン酸とアスパラギン酸に由来し、6%が、腸管内(食餌由来)のグルコースに由来する。このように、小腸粘膜では、グルコースよりも、アミノ酸の方が、代謝燃料になる。<(A3了

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