Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#8「水面から駆け昇る鯉」

2012-10-31 | Liner Notes
 人は見える範囲で大まかな特徴を把握し、見えた物の位置関係を捕捉し、見た物を認知し、それが何であるかを認識すると思います。

 そしてその事実が何を意味するかを理解し、どのように影響を及ぼし、何をもたらすかを解釈していると思います。それも一瞬の間に。

 でも、言い換えると見える範囲を変えただけで、違う理解や解釈が生まれるかもしれません。

 「水面に映る空と鯉」も見える範囲を狭めて、ひっくり返して見ると、「水面から駆け昇る鯉」に見えたかもしれません。

初稿 2012/10/31
校正 2021/04/22
写真 水面から駆け昇る鯉
撮影 2010/08/08(岡山・後楽園)

#7「月と光の散逸」

2012-10-29 | Liner Notes
 ひと月のうちに満月が2回あるとき、そのふたつめの満月を「Blue Moon」と呼ぶそうです。

 約29日周期として繰り返される月の満ち欠けと約30日で巡る暦の月。月初めに満月を見ると、その月の終わりに再び巡ってくる満月。

 暦の上では予定調和の話であっても、別の解釈では大気中のガスや塵の影響によって、かなり稀に月が青く見えることがあることから、「予測することができず、めったに見ることができない」という意味から転じて、「Blue Moonを見ると願いがかない、幸せになれる」という言い伝えもあるそうです。

 2012年9月1日0時、暦の上での「Blue Moon」は晴れた夜空に散逸する満月の光。月が青く見える「Blue Moon」ではないかも知れないけど、様々な偶然の重なりに思いを馳せてみれば、「あぁ、綺麗だなぁ」と幸せな気分になります。

 次の「Blue Moon」は3年後の7月。その時また空を見上げてみたいと思います。

初稿 2012/10/29
校正 2021/04/23
写真 仰ぎ見るBlue Moon
撮影 2012/09/01(東京・西新宿)

#6「空と舟の均衡 」

2012-10-26 | Liner Notes
 最近あまり使わなくなりましたが、「弩級(どきゅう)」という言葉がありますが、イギリスのドレッドノートという戦艦の頭文字が由来です。

 弩級戦艦とは単一大口径の主砲群による射撃管制機能を持つ艦船であり、その目的は相手の手が届かないところから攻撃して撃沈すること。そのためにはいかに遠い距離から、いかに多くの弾を放ち、いかに命中させることが目標とされました。
     
 いかに大きい弾をいかに遠くへ放つ大砲をいかに増やし、かついかに正確にいち早く着弾させるという思想が、「大艦巨砲主義」と呼ばれ、その集大成が戦艦大和です。

 口径46cm、三基九門の三連装主砲が重量1.5t、長さ2mの徹甲弾を連続的に装填斉射、有効射程距離40kmの彼方へ着弾点の観測と距離補正を行いながら命中率を向上させることを可能としました。日清、日露の戦勝体験に基づく技術開発の延長線上では比類なき歴史上の最高傑作。

 造形美としてでなく技術史の観点から、空から飛来する航空機によって決して沈むはずがないと考えられた戦艦が沈んだ史実をどう捉えるか。意外と今の日本でも同じような話があるような気がします。

初稿 2012/10/26
校正 2021/04/24
写真 映画「男たちの大和」実寸大模型
撮影 2006/01/08(広島・尾道)

#5「空と大地の静寂」

2012-10-24 | Liner Notes
 対称な姿にちょっとした違いを見つけたときに綺麗だなぁと思うことがあります。

 富士山もそのひとつで、円錐形の成層火山という対称な山として捉えるか、小富士や宝永山が連なる非対称な峰として捉えるかによってその印象も変わると思います。

 知識として完成された美しさと時間をかけて形作られた存在感。

 そして、黄昏時に大地と空をたなびく雲が分かつ一瞬、本当に綺麗だなぁ。

初稿 2012/10/24
校正 2021/04/25
写真 第二東名高速から望む富士山
撮影 2012/08/20(静岡・沼津駿河湾)

#4「光と影の遠近感」

2012-10-22 | Liner Notes
 蓮華王院 三十三間堂は、平清盛が後白河上皇の為に創建した寺院です。

 「三十三」という数は、観音菩薩が三十三の姿に変えて人々を救うという法華宗の教えに依るものだそうです。

 堂の真中に座す千手観音はあらゆる術を尽くして、必ずや人々を救うという意志の顕れなのかもしれません。

 境内に降り注ぐ光とその約120m余りの本堂の軒先が落とす影が、非対称なフレームと視界としての遠近感として過去から現在までの連続性を示唆しているような気がします。

初稿 2012/10/22
校正 2021/04/26
写真 蓮華王院 三十三間堂, 1266
撮影 2012/08/20(京都・東山)