夕焼け金魚 

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首つりのマネキンが

2017-05-21 | 創作
仕事を終えて帰ろうとしている時に「首つりだ」という声を聞いて、つい行ってしまった。
決してそんなの見に行こうなんて、思わない方が良いですから。
私も野次馬根性で見にいったのではなく、仕事がらみで行ったのですから。
首つりがあると言われたのが、私の持ち場の公園だったのです。
不動産屋が市役所の委任を受けて、公園の管理とかも受け持っているのです。
草むしりとかは、業者がしますが、公園の遊具が壊れているとか、危険だとかの情報を報告するのです。
首つりは関係ないのですが、持ち場と言うことで見に行きました。
私が行ったときはもう人がたくさん集まっていて、どうやらブランコの鉄棒に紐を結んでぶら下がっているようです。
風でゆっくりですが、人の形の物が揺れてるのですね。
ところが、普通の首つりだと、もっと人が離れてみているのに、それこそ足下まで行ってみているのです。
近くにパトカーがあるから、警官も来ていると思うのですが、規制線も張ってないのです。
私も近づいて、ぶら下がっている人の顔まで見えるところにまで近づいてみました。
なんと首つりした人が笑って見ているのです。
誰かがマネキンをブランコにぶら下げた、悪戯のようなのです。
「おまわりさん、気味が悪いから早く下ろしてくださいよ」と人混み中の一人が警官に言っていたのです。
「そう言われても、これは遺失物なのかどうか、分からないのに勝手に下ろせないでしょう」と警官が答えていたのです。
なるほど、死体なら検死して当然警察の方で、処理するのですがマネキンとなるとこれは単なる私有物ということになるのです。
所有者の人が考えにくいのですが、マネキンを一時ブランコにぶら下げて置いておいたとしたら、警察が勝手に触って壊したとでも言われると大変というのです。
「どなたか、これを見つけた方が遺失物として届けていただけたら処置します。それには、どなたかがこれを下ろしていただかないと」というのです。
警察というのも意外と面倒なものです。
そういう説明をされて、私がとは名乗り出る人はいないのです。
変なところに顔出しちゃったなと思いながらも「誰もいないのでしたら、私がしましょうか」と名乗り上げました。
「あなたなのですか」と警官は私がマネキンの持ち主と思ったのか、声を荒げるのです。
「違いますよ、この公園の管理を任されてるものです」と事情を説明しました。
「そうでしたか、お願いできるのでしたら下ろしていただきたいのですが、実はこのマネキンに変な落書きがありましてね」と言ってマネキンが来ている洋服のボタンを外して中を見せてくれたのです。
マネキンの身体には「これを下ろした奴の一番大切な人を殺す」と書いてあるのです。
「はあ、こんな落書き、気にするのですか」
「でも、一番大切な人殺すと書かれていたら気になりませんか」
「なりませんよ、こんなもの、落書きでしょう。本当に怖いものでしたら、このマネキンに私の名前が書かれていますよ。名前が書かれていて、おまえが下ろすとおまえの一番大切な人を殺すと書いてあったら、少しは怖いかも」
そう言ってみんなが「ああ」とか「きゃー」とか言う声を無視してマネキンを下ろしました。
マネキンを下に降ろして警官に聞いたのです。
「第一、一番大切な人って誰なんですか。私の大切な人はとっくに亡くなってしまっているのです」
「でも、今生きている人で一番の人が、殺されるかも」
「一番大切な人は、亡くなってもやっぱり一番ですから。大切な人は亡くなったら繰り下がって二番目とかになるのですか」と言ってみたのです。
「それはそうですけど」と口ごもっている警官に遺失物として届けますからマネキン抱えて、パトカーのボンネットで書類を書いたのでした。
ただ、正直言うと失敗したなと思ってます。
実はマネキンを降ろすとき、両手にかかった重さは空洞のお人形の重さでは無かったのです。
ズッシリと両手でしっかり抱えないと落とすかもと思うほどの重さ。ええ、女の人ほどの重さです。
それとぶら下がっているときは固い手足が、抱えたときだけぐったり私の肩にもたれ掛かっても来て、何より私の耳元で「きっと殺す」と話したのです。地面に下ろすと元のマネキンですが、私が抱えていたときだけは、マネキンではなく死体だったのです。
そうなると私の一番大切な人が、殺されるかも。
誰と言われても身内だとやっぱり困るのです。
そこで、こんな駄文でも書いている者としては、これを読んでくれる人が一番大切な人ということになります。
申し訳ありませんが、これを読んだら、もしかしたら今夜あたり髪の長い女の人が、お伺いするかも。
そのときはよろしくお願いします。
金魚の一番大切な人は、読者です。これ本当。

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