続・切腹ごっこ

~当ブログは更新を終了しました~

「少年切腹」

2008-10-05 | ◆小説・kiku様

 掌編小説ブログ「女切腹、心中情死、処刑。愛と死とエロスの妄想。」のkikuさんから掌編小説を戴いた。その話からイメージしたイラストを描いたので、いっしょに公開する。


少年切腹

無地屏風に囲まれて、古式にのっとった切腹場が用意されていた。
制服姿で入ってきたのはまだ少年に見えた。
「委員長として責任をとり、切腹させていただきます。」
席に着いて、彼は落ち着いた様子で挨拶した。
「俺が見届けてやる。立派にやれ。」
前に座る立会いの教官が厳しい顔つきで応じた。

少年は上着を脱ぎ傍らによせる。
ズボンの前を開けワイシャツを開くと、彼の肉体はもう青年のそれを感じさせた。
白いブリーフを突き上げて勃起しているのがわかる。
「見事だな。」
教官が苦笑する。少年が恥ずかしそうに屈んで隠そうとした。
「恥ずかしいことではない。死ぬのを前にして当然のことだ。」
「はい。」
「男として逝け。」
少年は顔を上げた。
「男として・・・。」
しばらく考えてから、彼は胸を張り膝を開いてもう隠そうとはしなかった。
下着にゆっくりと萌え水の染みが広がる。
濃い恥毛までが覗いたが、彼はかまわず押し下げた。
柔らかい下腹が露わになる。
見下ろして何度も大きく息を吸い腹を揉んだ。
短刀を取る。刃先は冷たく鋭い光を放った。
張り詰めた緊張が切腹場を包んだ。
「切腹・・・。」
彼は短刀の刃をしばらく見詰めて呟くように言った。
腰を上げ腹をせり出す。
「逝きます。」
しっかりとした声だった。
次の瞬間、一気に刃を突き立てた。
血が飛沫いて、すべての筋肉が強張り震えている。
「うぐぅぅぅ・・・。」
教官が立ち上がって後ろに立つ。
ゆっくりとした動作で刀を抜いた。
「介錯をしてやろう。」
「まだ・・・、まだ・・・。」
苦しそうな声で少年が叫ぶ。
「まだだぁ―・・・!!」
叫びながらズブズブッと切り割いた。
間断なく襲う激痛の中で、少年は不思議なエクスタシーに包まれていた。
『僕は今切腹している・・・。』
それが死の恍惚といわれるものだとは彼は知らない。
薄れていく意識が苦痛を遠ざけていく。
血で染まった股間に下着を撥ねて亀頭が顔を出す。
思わず屈んで手を添えた。
「きええぃーーー!」
鋭い気合いが響いて、介錯の太刀が少年の首を一気に切断した。
肩口から血を噴き上げ、頭を失った胴がゆっくりと倒れてゆく。
それを目で追いながら、教官はしばらく残心の姿勢をとり続けた。
静かになった切腹場に血が広がる。
前に転がった首が愉悦の笑みを浮かべているように見えた。

pixivのページへ

 当方特にメガネ萌えというわけではないので今までメガネは滅多に描かなかったが、今回「委員長⇒マジメ&知的⇒メガネ」という安直な発想のもと描いてみた。大きさとか位置とかが難しい。でも割と気に入った。
 頸の左右端から血飛沫が上がっているのは、後藤寿庵さんのイラストの真似。たぶん左右の椎骨動脈や内頸動脈から噴き上がっているんだろう。ワイシャツの着方は、最近よく描く第1・2ボタンを留めてその下を広げるパターン。広げたシャツを背中で束ねるか何かしないとこんな風にはならないだろうな。
 こんな感じに切腹する時にチ○ポ勃ってたらけっこう邪魔かも。
 勢いで描いたので粗いし、細かいとこは気にしてない。

★今回の掌編小説とイラストを見て、少年切腹大好物!
という人は↓↓をクリックして下さいな@
   
20代・14位□(7p) イラスト・77
位▼(180p)

短刀9寸(黒塗り)
岐阜県関市
このアイテムの詳細を見る
江戸の短刀拵コレクション
井出 正信
里文出版

「白虎隊自刃図絵」

2007-11-21 | ◆小説・kiku様
 相互リンクしてもらっているブログ「禁断のエロス、猟奇、切腹、愛と死の掌編世界。」のkikuさんから掌編小説が届いた。この小説は先日ここで公開した、白虎隊自刃図(とある方が描かれて僕宛てに送って下さったもの)からインスピレーションを得て書かれたものだという。
 今回は小説と絵をいっしょにお楽しみ下さい。




白虎隊自刃図絵

彼らは初めて参加した戦闘で、多くの者が死ぬのを見た。恐怖が誇りと自信を萎えさせた。無力感で打ちのめされた少年達を雨がまた疲れさせた。ぬかるみを歩く足音は重く、時々遠くで砲声が聞こえた。
「死ぬ時は手を貸してくれるか。」
源吉は歩きながら誰にともなく言った。周囲の者達は聞こえなかったように黙って歩いた。
「安心しろ、死ぬ時はみんな一緒だ。」
前を歩く駒四郎が振り返らずに言った。
白虎隊はもう飯盛山に入ろうとしていた。

飯盛山の中腹から立ち昇る煙が望めた。それは既に城が落ち、城下が燃えているように見えたという。
孤立した少年達には、会津の武士として死ぬ道しかもうないと思えた。話し合い自決しようと決まって、少年達は思い思いに散った。

「銃撃されて俺は怖かった。足がすくんで前に進めなかった。」
源吉は下を向いて言った。小さな声だった。
「俺も怖かった。自決すると決まって、俺はほっとしたよ。」
駒四郎と源吉は顔を見合して笑った。互いに隣で震えていた姿を思い出した。
周囲ではもう自決の声が上がり始めた。
駒四郎が脇差を抜いて諸肌脱ぐと、源吉もそれに倣った。まだ充分男にはならぬ柔らかく薄い胸だった。
左手で互いに肩を抱いた。
「これで俺たちも立派な会津の侍だな。」
刃先を上に向けて、互いに臍の上辺りにあてる。チクリとした痛みと共に刃のひやりとした感触があった。
「腰を引くな、一気に深く突く。いいな。」
膝を絡ませ、顔を上げて互いに頷く。
股間にむず痒い感覚が走る。尻の穴に力を入れた。男の徴(しるし)が帆を張った。
「お前のものが立っているぞ。」
駒四郎が笑った。
「お前こそ。」
源吉がむきになって言い返す。
「いくぞ!」
「おお!」
腕に力を込めると生温かい血が手に伝った。激痛が襲う。前の顔も歪んでいた。力を込めて胸を合わせていく。刃が上に走って胸の骨を断つ。心の臓を切り裂いて、二人の背に刃先が突き抜けた。

「俺は死にたくない。」
取り囲まれて、彼は泣きながら言った。
「会津には卑怯者はおらぬ。いてはならぬのだ。」
立ったまま両腕を取られて腹を露わにされた。
「立派に死なせてやる。」
「俺達も一緒に死ぬんだ。」
「俺は嫌だ、死にたくない。」
「見ろ、みんな立派に死のうとしている。」
口々に励ましながら、無理に脇差を握らせた。四人がかりで腹を切り割いた。臓腑が溢れた。押さえつけて首を切り落とした。

二人は皆と離れて木立の中に入った。座ると繁った草が視界を覆った。
「お前を好きだった。」
悌次郎は恥ずかしそうに言った。
「わかっていたさ。」
「お前の手で割いてくれるか。」
彼は自分の腹に手を導いた。
「俊・・・。」
互いに腹を探り合い、やがてしっかりと抱き合った。束の間の契りを交わして、二人は脇差を握り締めていた。

座して諸肌脱いだ少年が脇差を腹に突き立てている。激痛が悔しさを和らげた。泣きながら引き回す。
「うむううう・・、あうううううう。・・・。」
前に屈んで肩を震わせた。
「いいか。」
後ろに立つ武治が刀を振り上げた。しばらく震える首筋を見下ろして討てなかった。
「きぇぇい。」
悲鳴のような気合と共に振り下ろした。細い首は切り落とされて前に落ちた。頭部を失った身体は真っ赤な血を噴き上げながら横に倒れた。

勝三郎は深く腹を切り割いて臓腑が溢れた。茂太郎が介錯をしようとしたが、苦しみもがいて首が定まらない。
「おい、手を貸せ。」
近くで腹を切ろうとしている喜代美を呼んだ。
「足を押さえていろ、首を落とす。」
近くにいた二人も手を貸した。大柄な勝三郎を何人もで押さえつける。仰向けに寝かせて馬乗りになり、茂太郎は両膝で肩を押さえた。喉元に太刀をあてた。
「今、楽にしてやる。静かにしろ!」
見上げた勝三郎が、頷いて目を閉じた。身体の重みを太刀に預けて首を押し切った。首がごろりと落ちた。

新太郎は大きな樹の根元に座って前を寛げていた。周囲を見渡して、誰も自分を見ていないのを確かめた。
「義姉さん・・・。逝きます。」
小さな声で女の名を呼んだ。
腹を揉む。男の根が目覚めていた。袴の割れ目から手を入れて握り締める。目を瞑ってゆっくりしごいた。心地よい快感が込み上げた。
「義姉さん・・・。」
もう一度名を呼んで、股間を包むふんどしの中にしたたか吐いた。果てた余韻を確かめながら、悪戯をしたように周囲を窺った。
袖で刃を包んで握る。抱えるように腹に突き立てた。横に割いてから胸に刃先をあて、前に伏した。

肩に傷を負い、片手の利かぬ虎之助は手を借りていた。腰まで脱ぎ落として両膝立ちになった。
「いいか。」
向かい合わせに片膝立てた八十治が刃を胸にあてた。虎之助が手を添えて脇腹に導いた。
「腹を・・・、頼む。」
まだ肉の薄い少年の腹だった。
「苦しむとも、大きく切ってくれ。会津の武士として死にたい。」
「わかった。身体を離すな。」
虎之助が腹を前に押し出す。身体を寄せて八十治の腰紐を握った。八十治も膝立ちになって抱き寄せながら突き立てた。抉りながら斜めに割く。肉の喘ぎを感じながら、胸を合わせて刃に力を込めた。膝に生温かい血が降りそそいだ。
「うむううううう・・。」
「虎、苦しいか。」
「うぐううううう・・・・」
虎之助がしがみつくように八十治の腰を抱いた。腹は深く裂かれて、傷口からぬめぬめとはらわたが溢れた。苦しむ胸を貫いてやった。

腹を揉みながら、源七郎は前夜の事を思い出していた。
彼が出陣前に帰宅すると女が待っていた。
「あなたを男にするように、母者殿に頼まれました。」
女は彼を優しく導いて交わった。
「会津の武士として、立派に死んでくれよとのお言付けでございました。」
余韻の中で抱きながら女が言った。奥の部屋で、母は既に自害していた。
「母上・・・。」
彼は腹を切りながら女の肌を思い出していた。男が屹立していた。それはまさしく母に抱かれている夢だった。

「次の世でも逢おうな。」
「ああ、きっと逢おう。」
藤三郎が腹に刃を立てた。雄次も遅れじと突き立てる。見詰め合いながら引き回す。
にじり寄って互いの胸に刃をあてた。
「いこう!」
「うむ!」
相手の持つ刃に身体を投げ出すように刺し違えた。

貞吉は腹に突き立てようとして躊躇い傷を幾つも付けた。苦しむ声があちこちで上がり始めた。母の顔が浮かぶ。父の顔が浮かんだ。姉が笑っていた。遅れてはならぬと思った。自分だけが生き残る恐怖が頭をかすめる。死ななければならぬと思った。
喉元を突き上げた。口の中が込み上げる血の味であふれた。手を借りようと周囲を見る。すでにもう、それぞれが苦しみの声を上げていた。卑怯者にはなりたくないと思った。喉の刃に力を込めて突き入れた。気が遠くなった。

儀三郎は周囲を見渡した。まだ元服前の少年ばかりだった。刺し違えた者、切腹して介錯を受けた者、ほとんどの者がもう見事に死んでいた。流れる血は草が吸い土が吸った。
「会津の武士か・・・。俺はお前達と共に死ぬことを誇りに思う。」
苦しむ声が聞こえた。腹を切った和助だった。抱き起こすと彼が言った。
「儀三郎、あの握り飯は美味かったな。」
「ああ、美味かった。」
顔を合わせて笑った。昼に食べたことを言ったのか、遠い昔のことを言っているのかはわからなかった。胸を突いて止めを刺した。

座を占めて諸肌脱いだ。落ち着いた様子で袖を裂いて刃を巻き込む。
「人生 古より誰か死無からん 丹心を留取して 汗青を照らさん。」
腹を揉みながら文天祥の詩を口ずさむ。
伸び上がって腹に突き立てた。腰を揺らしながら横に割いた。
抜き出して教えられていたように胸元を貫きながら前に伏せった。しばらく痙攣を繰り返して動かなくなった。ゆっくりと血が広がり土に滲みた。

遠くで弾けるような銃声が聞こえた。風が通り過ぎて木洩れ日が差した。静寂に包まれて、もう何も動かなかった。


※これまで掲載していた頂いたイラストは、gooブログの要請によりこのページから削除させていただきました。

 飯盛山で自刃した白虎隊20名の最期は、唯一蘇生した飯沼貞吉の証言などが残っているが、同時に自刃した人数など諸説ある。「石田和助が一番最初に腹を切った」「永瀬雄次と林八十治が刺し違えた」など自刃の情景としてよく書かれる話があるが、今回kikuさんが書いたストーリーはそれとは関係なく独自のイメージをもとにしている。自分もいつか自由な想像(妄想)のもとに「白虎隊自刃・異聞」というような感じのイラストを描いてみたい。

★今回の小説を読んで、良かった!と思った人は↓↓をクリックしてやって下さいな
 
20代・15位△ イラスト・78位△

少年白虎隊 (人物文庫)
中条 厚
学陽書房
このアイテムの詳細を見る
★石田和助を主人公に、隊士たちの日常から自刃までを描く。
天保異聞 妖奇士 一 (完全限定生産) [DVD]
川元利浩,會川昇・BONES
アニプレックス

小説公開

2006-08-16 | ◆小説・kiku様
 5月5日の記事で書いていたkikuさんの短編小説が完成した。

 何回となく推敲を重ねられていたがようやく最終稿が書き上がった。数ヶ月前、このブログの記事のコメント欄に書かれていた最初のものとは別物といってもいいほどボリュームが増し、物語も深いものになった。
 自分は推敲を重ねている過程のものを先に読ませてもらい、その文章から想像するイメージを挿絵という形で描いた。全部で4枚の挿絵も最近完成した。関連した章の最後に掲載していく。コラボというのもおこがましいが、小説と合わせて見ていただければと思う。

 kikuさんは、このブログのトップページのブックマークから行ける「
切腹の情景」というブログの主だ。一時ブログの更新は休止していたが、現在は再開している。主に女性切腹を題材にした小説を公開されている。

 小説は、”◆小説・kikuryouran様”という新しいカテゴリーを作り、そこに八章に分けて公開する。内容は男性の切腹が好きな人なら喜んでもらえるものだと思う。

上から一章、二章、三章・・・の順です。
それではお楽しみ下さい。

◆小説・kikuryouran様

このBLがやばい!2009年腐女子版 (Next BOOKS)
NEXT編集部
宙出版
このアイテムの詳細を見る
日本人はなぜ切腹するのか
千葉 徳爾
東京堂出版

衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り

2005-12-07 | ◆小説・kiku様
色稚児

山間の風は秋の気配さえ感じさせていた。雲が流れて満ちた月が顔を出した。
すでに麓までも敵は押し寄せ、もうこの砦に残る者も少なかった。砦とは名ばかり、攻められればすぐにも落ちるほどのもの、周囲の繁みには敵の物見が潜んでいるかもしれなかった。
戦の続く戦国の世、源吾は金で雇われる渡り武士だった。勝ち方で手柄を立てれば褒美が望めても、負け方に雇われれば命の保証もなかった。
負けと決まれば命まで賭ける義理もない、俺一人が消えたとてもう気に止める者もあるまい。周囲を見渡しながら、彼はどう落ちるかと考えながら見張りに立っていた。
砦内から忍んで近付く影がある。小柄な身体は暗闇では女とも見える。名前は知らぬが色稚児のような。落ちる機会を逃したのか。

「これからいかがなりましょう。」
若者が小声で話しかけた。
「信長は根切りにせよと厳命しているそうな。捕らえられた者は老幼男女構わず殺されるとか。闘える者は討ち死に、なぶり殺しが嫌なら後は自害しかあるまい。すでに山裾は囲まれ、逃れる術は無いと聞く。」
源吾は顔も見ないで答えてやる。
「ここにいる者は皆死ぬのでございますな。」
「死ぬのは怖いか。」
「あなた様は死ぬのが怖くないのですか。」
「我等は戦(いくさ)が仕事、金で雇われてここにおる。死ぬのが怖いから相手を殺す。死なぬように立ち回る。怖くなければもう生きてはおるまい。怖い時には女を抱く。」
源吾の言い様は、つきはなすように冷たかった。
「ここに女はおりませぬ。私でよくばお放ちなさいますか。」
明日にも死ぬると聞きながら、肝の据わった物言いが若者を不敵に頼もしく感じさせた。
「そなたらの手を借りると法楽浄土を見るという、願ってもないことじゃが。」
品定めするように若者を見る。彼は色稚児の華やかさを感じさせた。若者が媚を含んだ笑(えみ)を送る。明日をも知れぬ昂ぶりに手を借りるのは覚えもあること、源吾はしばらく女を抱いていなかった。
「頼もうか。」
嬉しそうに頷いて、彼は身体を寄せてきた。

敵に背を向け、矢防ぎの盾に寄りかかって源吾は立った。半身は敵の目にさらされているが、味方からは見張りに立っているように見える。小柄な身体が膝元にうずくまり、源吾の袴の紐を解きふんどしを外した。股間が心地よい夜気に晒される。
「汚れていよう、すまぬ。稚児殿の手は初めてじゃ。」
陣中の事ゆえ幾日も湯を使ってはいなかった。垢と汚れで自分でも異臭を放っているのがわかる。
「お気遣いなさいますな。すべてお任せなされて。」
うずくまる体は植え込みに隠れているが、近くに来れば何をしているかは明らかになる。今襲われればひとたまりもあるまいが、しごかれながら逝くのもよかろうと、敵に背を向け股間を預けて空を見上げた。雲間を月が流れていく。数日後(あと)にはもう俺も生きていぬかもしれぬ。柄にもなく、死ぬる予感が頭をかすめた。
柔らかい手で探られ包まれて、男根(おとこね)はすぐに膨らみ始めた。さすがに上手いものだ。指先の動きを感じながらまだ余裕があった。指が内腿を這い尻を這い蟻渡りを探る。やがて立っているのが辛いほどに両脚が震えだす。よほどに慣れた指使いだった。熱いものがこみ上げて、一気に体温が上昇したように思った。
「いかにも極楽じゃな。このような・・・。」
「遠くからお慕い申しておりました。」
若者がつぶやくように言うと雁首に口を付けた。
「そのような・・。汚れておる、それほどにしてもろうては・・・。」
雁首を舌がなぞる。根元まで吸われてもう我慢が出来なかった。耳の奥で早鐘が鳴り、体中の血が逆巻いた。口中に果てては申し訳ない。離そうとしたが腰を抱えられ吸われて離れぬ。頭を抱き締め、全身を震わせて源吾は果てた。情を交わした女の数も少なく無いが、生涯でこれほどの快感は初めてだった。丁寧にふんどしを付け直し、袴を穿かせ結んでから彼は立ち上がった。口元は濡れていたが吐いた気配は無かった。
「ご無礼申しました。私もあなた様のお精を頂き嬉しゅうございました。」
「お飲み下されたのか、ありがとうござった。いかにも極楽。これほどの思いは初めてであった。」
愛しさを覚えて抱き寄せてやると、彼は女のようにしなだれかかった。

衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 二

2005-12-06 | ◆小説・kiku様
死ぬる覚悟

あの人が一人見張りに立ったのを確かめて近付いた。これまでも心にかかってはいたが、流れ稚児の身では声もかけられなかった。
膝元にひざまずいて、袴を脱がせふんどしを外した。むせるような異臭がした。萎えていた竿とふぐり袋を手で包み、指を内股に這わせ尻に這わした。引き締まった臀部を撫でて菊座を揉むと、すぐに竿は屹立し鼻先まで届いた。内襞(ひだ)が指先を締め付ける。この人は男と契ったことがあると指先が確信した。雁首を口に含み舌で恥垢を拭う。口いっぱいに男の味と匂いが広がり、全身の血が沸騰して頭が眩んだ。もう何も考えられなかった。突き立てた指が菊座を攻めながら、夢中で口を使った。頭を下腹に抱き締められた。引き締まった肉が震えて口の中で男根が膨れあがった。その時、男の命を注がれる予感がした。自分も昇り詰めようとしているのがわかった。巨大な潮が押し寄せてくる。男が全身を痙攣させて精を放った。押し寄せる巨大な波に飲み込まれて、自分も精を放っていた。このようなことはないことだった。

二人は放った余韻に浸りながら月を見上げていた。
「そなたに礼をせねばならぬ。」
源吾が銭を出そうと懐に手を入れる。
「明日にも死のうかという時に、気持ちを銭で購(あがな)われるお心算か。お止しなさいませ。」
笑いながら若者が止めた。
「覚悟はついたつもりでも、死ぬのは怖うございます。」
源吾は手を握ってやった。股間に手を伸ばすと濡れていた。
「そなたも果てたか。」
色稚児は、果てさせて果てぬものと聞いていた。抱き上げて草むらに寝かせた。恥かしそうにするのを目でなだめて、源吾はひざまずいて裾をはねた。夜目にも白い肌が浮き上がる。下布がべっとりと濡れていた。
「共に果ててくれたのか。嬉しい事じゃ。」
股間は精水と若者の汗の匂いがしていた。懐から手ぬぐいを出し拭ってやる。濃い繁みの中心に萎えた男の印がある。誘われるように口に含んだ。
「そのような・・・、そのようなもったいない。」
舌で拭うと果てたばかりの男根が少し硬度を増した。身をよじって逃げようとするのを抑えられ、若者は観念したように力を抜いた。
「先ほどの礼じゃ。そなたのように巧みではないが、わしとて男同士の交わりを知らぬではない。」
なされるままに目をつぶって、若者の口から喘ぎが漏れた。口の中の肉塊が源吾に懐かしい感触を思い出させた。人肌が恋しかったのかもしれぬ。死ぬる予感と放った余韻がそうさせたのかもしれなかった。

月を見上げて、二人は並んで腰を下ろした。
「恥ずかしい姿をお目にかけ申しました。」
下を向いたまま、消え入りそうな声で礼を言う。
「そなたのような色者は、すでに落ちたと思うていたが。」
「数日、急な病に臥せっていて逃げ遅れました。惜しい命でもございませぬ。」
「わしもこのように因果な稼業、これまで随分人も殺した。すだれにされても文句は言えぬが、あまりに惨い死に方はしとうない。」
「私とて、根切りとなれば覚悟もいたしましょうが、嬲(なぶ)り殺しは嫌でございます。」
「助けてやりたいが逃れる道はすでに閉ざされておる。明日明後日(あさって)にも敵がなだれ込み、わしもそなたもなで斬りになろう。先ほどまでは惜しい命でもなかったが、何故かわしも死ぬのが怖くなった。」
各々が無惨にも殺される姿を思い描いて、二人は目を合わさなかった。しばらくの沈黙の後で源吾がポツリと言った。
「いっそ、二人だけで死ぬるか。」
若者が顔を上げて源吾を見る。
「どうせ助からぬ命なら・・・。」
逞しい胸に華奢ともみえる身体がしがみつく。月はもう山の端に落ちようとしていた。

衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 三

2005-12-05 | ◆小説・kiku様

 切腹宿願

山のあちこちに小さな宿坊修行場が点在している。いずれは四方から攻め登られて焼かれようが、二人だけの時を過ごせれば充りた。空が白み始める頃、二人は打ち捨てられた宿坊に入った。
「疲れたであろう。しばらく休もう。」
源吾が太刀を抱いて板の間隅に座り込むと目を瞑る。側に添うて若者が腰に手を回した。

どれほど眠ったものか、源吾が目覚めるともう日は高く、すでに若者はいなかった。昨夜の事を思い出す。『二人だけで死ぬるか』などと、女ならまだしも、初めての色稚児にどうしてあんな事を言ったものか。直前まで落ちる術を考えていながら、どうかしていると自分でも思う。しかしあの時、なぜか俺はあの若者が愛しくて、ああ言わずにはいられなかった。『遠くからお慕い申しておりました』と彼は言った。あの稚児は何者であったのか。どうしただろう、逃げたのか。
若者が入って来る。昨夜の稚児とわかるまでしばらくかかった。身なりも昨夜のそれとは違っていた。
「お目覚めでございますか。よう眠っておられましたので、戻って食べるものなどを少しばかり。」
昼間に見る彼は屈託もなく笑って普通の若者に見える。夜の顔を思い出そうとしたが今は素面、あの妖艶さは窺えなかった。年齢はと思う。昨夜は幼くも見えたが十六、七にもなっていようか。
「そなた、歳は?」
「もう十六になりました、稚児というにはもはや・・・。」
声までが違うように思えた。世慣れた様(さま)は、生きてきた世凌ぎをしのばせ、それ以上は訊けぬ雰囲気を感じさせた。習い性になっているのか、さすがに気が行き届いて世話をする。知らずに会えば夜の顔など思いも寄らぬ。言葉や物腰も、どこにもいる律儀な若者としか見えなかった。それでやっと気がついた。昼の顔では目立たぬがこの若者は見かけた顔、源吾はすれ違うばかりで気も止めなかった。

「裏に井戸が。汗をお流しなされては。」
周囲を木立に囲まれて木々の間から裾野が広がっている。まだ日差しは強かったが、木陰を流れる風は、もう夏も終わろうとする爽やかさを感じさせた。近くで戦があるとは思えぬのどかさだった。
汗と埃にまみれたものを脱ぎ捨て、源吾が水をかぶると側から若者が垢をこそぎ落とした。身体に残る傷痕を、一つ一つ確かめるように指でなぞり由来を訊く。笑って答えずに源吾は身体を預けて立っていた。厚い胸、引き締まった腹と尻、太い脚、すべての筋肉が鍛えられ張り締まって、恥部を隠そうともせず立つ姿は頼もしく見えた。
「様子はどうであった。」
「ふもとの砦がまた落ちたとか。皆酷い殺されようだそうでございます。明日にも四方から攻め寄せられるとの噂でございました。」
「もうひとたまりもあるまい。死人の山であろうな。」
他人事のように源吾はつぶやいた。
尻の谷間を洗われて男根が反応を示した。顔を見合わせて二人が目で笑う。
「昨夜は世話をかけた。そなたも脱ぐがいい、背を流してやろう。」
若者はしばらく躊躇い、何度も促されて裸になり背を向けて立った。細い腕と脚、なで肩で尻も小さい。荒事に向いていないのは一目でわかる。女かと思えるほどの白い肌、夜目には妖艶とも見えた身体が、明るい日の下では頼りなげに見えた。
「背を流してもらうなど・・・、初めてでございます。」
前を向かせると、恥ずかしそうに前を手で隠していた。
「恥ずかしがることもなかろう。互いに舐め合うた仲ではないか。」
笑いながら水を頭からかぶすと、彼も嬉しそうに笑った。初めて見る笑い顔は、明るく好もしかった。立たせて水をかけてやる。
「面白いものだ、この細い身体で道具はわしよりも立派なものを下げておる。」
見比べながら源吾が面白そうに笑った。若者のそれは、濃い繁みから堂々と垂れていた。ひ弱さと男の証しが不思議な均衡を感じさせた。源吾は隅々までも拭ってやった。若者の汗の匂いが鼻腔をくすぐる。彼は抗いもせず、黙って源吾から目を離さなかった。
「この身体が間もなく虚しゅうなるとはな。無惨な・・・。」
「死なねばならぬなら、腹切りとうございます。」
独語のように若者が言った。
「健気(けなげ)なことを・・・。苦しいであろうが。」
「せめて最期は男子(おのこ)として恥ずかしゅうなく果てたいもの。私には無理でございましょうか。」
顔に真剣な想いがこもっていた。
「私は幼い頃より、男らしくは生きられませなんだ。せめて最期はと・・・。」

源吾は不思議なものを見るように若者を見た。
「男子として恥ずかしゅうなく果てたいとか・・・。」
以前に自分も同じ言葉を言ったことがある。同じことを考え、果たせなかった。この時彼はこの若者に自分との運命を感じた。
「この腹を切ろうというのか・・・。」
若者の腹に指を這わす。筋肉を感じさせず脂肉もない薄い腹だった。指で押すとはらわたの弾力さえも感じられた。中央の窪みはきれいな形をしていた。すぐ下には濃い草むらと男の印がある。昨夜のことを思い出して手が伸びる。印を握って顔を上げた。
若者は源吾から目を離さずに立っていた。
「切れるか。」
「はい。」
それだけ言って若者は頷いた。源吾は彼の手を取って自分のものを握らせた。無言で細い身体を抱き寄せる。

そうだ同じだ、あの時あの人は同じように抱いてくれた。同じに訊かれて同じ答えをした。この若者はあの時の俺だ。俺を抱いた胸は逞しく、指の中で男根は膨れ上がり固くなった。汗の匂いと、はち切れるように盛り上がった肉の感触を思い出した。
「源吾、死を怖れてはならぬ。腹切り男子として果てよ。」
あの人は俺の前で腹を切った。震える肉と流れ出す血が美しかった。最期に俺と目を合わせて首を落とされた。血が噴き上げ、目の前にあの人の首が転がった。俺はその時恐怖に襲われた。周囲の人たちが次々と腹に刃を突き立てた。女さえもが見事に腹を切った。呻く声と血の匂い。死に遅れてはならぬ。見下ろす腹にあてた刃が震えた。男として果てねばならぬという思いと、死ぬる恐怖とが闘っていた。胸の中に抑えていた記憶が蘇った。

心地よい風が流れて、せせらぎの音が聞こえていた。遠くでのどかに山鳥が鳴いた。源吾のものを握って、腕の中に若者がいた。
「いかに苦痛激しくとも死ぬるは一度、ひと時のこと。腹切りて死ねば男として最期を飾れようが。」
「共に死んで下さいますのか。」
源吾は答えなかった。若者は源吾の肉棒を握り導き、刃のごとくゆっくりと自分の腹に這わした。源吾も彼のそれを握って下腹にあてる。互いに目を見て離さなかった。握り締める男根が硬度を増して腹を突く。交差させ互いに己の腹に這わした。差し違えているように覚えて、源吾は握る指に力を込めた。
源吾はその時この若者を愛しいと思った。悶え苦しむであろうが、せめて望みのままに死なせてやりたい。この若者と共に自分も腹切り果てたいと思った。魂が呼び合うとはこのようなものかとおぼろげに感じていた。
握り合い見詰め合って立ち尽くしていた。指の中で男根が膨れ上がり、互いの腹に命水が弾け散った。遠くで地鳴りのような戦(いくさ)の音が聞こえてきた。山に木霊する砲声も二人の耳にはもう入らなかった。貪り合うように口を吸いもつれ合った。


衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 四

2005-12-04 | ◆小説・kiku様

 稚児の覚悟

「様子を見てくる。必ず戻る、待っていよ。」
夕刻になって源吾が出て行った。彼は薄暗い宿坊に一人残された。

幼い頃より稚児を仕込まれ、色を生業(なりわい)にして世を渡った。慰めた男は数も知れぬ。放つが欲の男ばかりを見てきたゆえか、人の情など信じなかった。そんな自分があの人を見て心魅かれた。ただ一度竿を咥えて命を預けるなどと、不思議な縁(えにし)と思うしかない成り行きといえた。

慰めに口を使うは普段の手管、しかしあの人のものを含んだ時は何かが違った。心の中の糸が切れた気がする。血が逆巻き、気をやる自分にうろたえた。普段なら口で受けても吐き捨てるが、あの人のものは貴いもののように思えて身内に入れた。男の命を注がれた気がした。あの時、共に死ぬる予感があったのかもしれぬ。
堅気には侮られるが常の身で、あの人の言葉には蔑む気持ちは感じられなかった。横たえられ開かれて含まれた。戯れにはあったことでも、あれほどに心こもって扱われたことはなかった。身をまかせ心が溶けた。なぜか涙が溢れて止まらなかった。
『二人だけで死ぬるか』などと思いもかけぬ言葉が、なぜかあの時心に響いた。

戦が続く狂気の世、死は常に身近かにある。いつどのように果てようとも覚悟はあった心算でいた。世を捨てて、それゆえに逃げ遅れたといってもよかった。そんな自分がなぶり殺しにされる姿を想像した。根切り虐殺となれば容赦もない。名のある者は死に場を与えられても、力ない者は慰め物、嬲(なぶ)り殺しは幾つも見ていた。裸に剥かれ犯されて殺される。見目良い者は死骸になっても辱められた。色稚児とわかればなおのこと、女以上に辱められいたぶられる。死ぬる覚悟はあったが、いたぶられて殺されるのは嫌だ。死を前にして、たとえ味方とてもすでに狂気、突然に踏み込まれて蹂躙されるかもしれなかった。灯りが外に漏れるのが怖くて、暗闇の中で部屋の隅にうずくまっていた。もう生きる事は考えていなかった、ただ死に方だけを考えていた。

前の戦(いくさ)で敗れた武将が両軍の見守る中で切腹し、その傍らで若者が腹を切った。白き肌を諸肌脱ぎ、得意気に見渡して腹に刃をあてる。美しいと思った。羨ましかった。死ぬるならあのように死にたいと思った。突き立て悶える様は悩ましく、真っ赤な血が若者の膝を染めた。見事に腹切る姿を人々は声もなく見守った。自分の腹を裁ち切られているような気がした。自分が切腹する姿を想像して身体が震えた。彼に倣って自分の腹に指を這わした。気が昂ぶり男根が突き上げていた。彼は見事に腹切り果て、皆が感嘆の声を上げた。その瞬間、精を放った。彼の悶える声が耳に残った。

自分もあのように死にたい、あのように・・・。闇の中で思い出し、男の印が痛いほどに帆を張った。自分のような色稚児が切腹などと、望んでも出来ぬことと思っていた。しかしあの人の側でなら・・・。抱かれながらそう思った。自分でもあの人の側でならきっと立派に腹を切り死ねる。着物の下で腹を撫でてみる。血が騒いだ。互いに男根を腹に這わした感触が蘇る。あの時切腹すると心に誓った。

色稚児は、客を喜ばせるためにいくことはあっても、芯から気をやってはならぬと教えられた。昨日から自分はどうかしていると思う。自分が抑えられなくなっていた。前を開いて握り締める。肉塊は指の中で熱く猛っていた。目をつぶると、晴れやかな切腹座に自分が居た。腹切る刀が冷たく光る。怖かった、怖かったが雄々しき男根は自分が男であることを思い起こさせた。自分もあの若者のように腹を切って死ぬ。果たせばもう侮られまい。体中を血が駆け巡る。片手で腹を揉みながらゆっくりとしごき始める。頼もしい顔が浮かんだ。
「源吾さま・・・、参ります。」
切腹刀を突き立てた瞬間、快感が走った。手が激しく擦りしごいて、一気に噴き出した男の命が宙に散った。暗闇の中でいつまでも全身の筋肉が硬直し震え痙攣していた。

暮れた静けさの中でもう虫が鳴き始めた。男はなかなか戻ってこなかった。これほどに遅いのは、置き去りにされたのかもしれない。あの人一人なら落ちられたのかもしれぬ。『共に死んで下さいますのか』と訊いたが答えてはくれなかった。暗闇の中ではわずかな時が永遠とも思えて、男がもう戻って来ないのではないかという不安と闘っていた。


衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 五

2005-12-03 | ◆小説・kiku様

 腹切りの宿縁

源吾が戻ってきた時はもうとっぷりと暮れていた。若者は部屋の隅にうずくまって待っていた。飛びつくように抱きついた。
「遅うなった、すまぬ。灯りもつけなんだのか。」
「もうお戻りにはならぬかと思うておりました。」
彼は嬉しそうに笑いながらも目に涙を浮かべていた。
「戻らなかったらどうする心算であった。」
源吾は宥めるように抱いてやる。
「よほどに心細かったであろう、もうどこにも行かぬ。酒を少し手に入れた。」

灯りの下で、酒は心を和ませた。
「共に死のうとするに、迂闊にもそなたの名前を聞いていなかったな。」
「胡蝶丸と申します。あなたの名前は存じておりました。」
顔を上げて、若者が苦笑しながら答える。
「胡蝶丸、胡蝶丸・・・。よい名だ。」
口の中で何度も名前を繰り返して源吾も笑った。
「置き捨てにされたかと思いました。」
胡蝶丸が下を見たままに言った。
「私一人が足手まとい、あなた様一人ならどのようにも落ちられようと思えて。お許し下さい。」
「わしは夕刻、そなたを落とせる道を探しに山を下った心算であった。そのわしが命惜しさに逃げようとして、そなたの名前を聞き忘れたのに気がついた。」
源吾も下を向いて顔を見なかった。
「それゆえお戻りなされたのか。」
「ひと時とはいえ、わしはそなたを捨てようとした。すまぬ・・・。」
源吾は苦いものを呑み込むように酒をあおった。
「途中、囚われた若者が嬲(なぶ)られ殺されるのを見た。聞けば明朝、総攻めと決まったとか。残る者は一人も生かすなとの厳しい下知が下されていた。そなたが惨くも殺されるのを思い描いて、共に死ぬると約したことを思い出した。そなたをあのように死なせとうはないと思うた。」
「私ごときと死ぬためにお戻り下されたのか。私などはいつどのように果てようとも・・。お逃げなさればよろしかったろうに。」
手に持つ酒を呑んで一息ついた。
「待つ間(ま)に思うておりました、昨夜の事昼の事。あなたとは前世からのご縁、私はきっと、あなたに会うために生まれてきたと思いました。置き捨てられたとも思いました。悲しゅうございました。」
源吾には辛い言葉だった。
「もはや生きる望みは捨てました。死ぬるならせめて惨めには死にたくはないと思いました。お戻りにならぬならそれも前の世からの決め事、かなわぬまでも一人で腹を切ろうと思いました。私には主(あるじ)もなく義理もなく、あなた様への想いの証しに腹を切ろうと。」
涙が溢れた。胡蝶丸は下を見て顔を上げなかった。
「過ぐる日に、わしは落城の憂き目を見、主(あるじ)殿や側小姓、女までもが見事な最期を見ながら、命惜しさに城を落ちた。気の迷いとはいえ、またもそなたを捨てようとした。今度こそ侘び共々、わしも必ずそなたと共に腹を切る。」
顔を上げて源吾が言った。胡蝶も顔を上げて見詰め合う。
「わしもそなたとは前世からの因縁、宿縁としか思えぬ。逃げようとしたわしを許してくれるか。」
胡蝶丸がにじり寄り、源吾の膝に身体を投げた。
「このようにお戻り下された。もう離しませぬ。」
彼は泣きながら逞しい腰にしがみついた。
「惨めには死ぬまい、共に最期を飾り、腹切り死のうな。」
源吾は、柔らかい背を優しく撫でた。


衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 六

2005-12-02 | ◆小説・kiku様

 腹切る契り

「よいか胡蝶、これからそなたと交わるのは情を交わすのではない。腹切る契りを結ぶのだ。」
源吾が諭すように言った。
「はい。」
見上げて胡蝶丸が頷いた。彼には難しい事はわからなかったが、それが覚悟を確かめる儀式と思えた。
「今生最後、あなた様を見届けて死にとうございます。」
源吾のすべてを記憶に残して死にたいと胡蝶丸が望んだ。源吾は頷くと、横たわり目を閉じた。
身体の隅々までも指を這わし唇を這わした。男の全てが逞しかった。肉のすべてが厚く頼もしく、心強かった。縮れた草も菊の蕾もふぐり袋も確かめた。叢(くさむら)にそそり立つ中心に指を伸ばした。口に含むと懐かしい匂いがした。すべてがここから始まったと思った。口いっぱいに放たれた精水はこの人の命そのものだった。飲み下して身内に入れたあの時、命の記憶までもが注がれた気がした。あの時にすべてが定まったのだと思った。
引き締まった腹に唇を押し当てた。まもなくここは切り裂かれ血にまみれる。源吾の傍らで自分が腹を切る姿を思い描いた。この人は私と死ぬために戻ってきてくれた、私と切腹するために。苦しくても男として、自分も腹を切らねばならぬ。最後に優しく口をつけて別れを告げた。

源吾は身体を開いて愛撫を受けた。胡蝶丸の身体が上を這い、薄い胸も尻も無惨に切り裂かれる腹も、華奢で細い身体の全てが目の前を通り過ぎる。間もなくこの身体が腹を切る。胡蝶が悶え苦しむ姿を思い描いた。いかに望むとはいえ無惨とも思う。自分が死ぬる苦痛など何ほどのこともないように思えた。
男の印を含まれ、昨夜からの記憶を辿る。腹に唇をつけられて腹切る激痛を思った。源吾の記憶が蘇る。死ぬる覚悟を誓いながら熱棒に契り貫かれた。
「そなたは衆道者として腹切り果てねばならぬ。」
俺はあの時、確かに腹切り死ぬると誓った。この時やっと全てが見えた気がした。死ぬる予感が、衆道の契りを思い出させたに違いない。俺はきっと導かれてここにいる。この若者に腹切らせて、俺も衆道者として腹を切らねばならぬ。

「胡蝶、もうまかせよ。」
源吾が抱きしめて言った。胡蝶は身をゆだね、上から組み伏せられ開かれた。
「胡蝶よ、色稚児であったことを忘れよ。契りを受けよ。」
源吾はまっすぐに見た。胡蝶は頷いて目を閉じた。
しばらく源吾は動かなかった。
胡蝶が目を開ける。源吾が見下ろしていた。
「胡蝶よ、共に腹切り死のうぞ。」
握った手に力を込めた。
「はい。お連れ下さい。」
見上げて大きな手を握り返した。
「さあ、貫いてくだされ。」
促すようにもう一度頷いて、胡蝶は目を瞑って大きく脚を開いた。

心も身体もすべてを開きゆだねていた。グググッと深くも一気に貫かれ、狂うたように叫び声を上げた。男同士が交わるとはこういうことだったのかと初めてわかった気がした。押し広げられる痛みが快感だった。胡蝶はもっと深く強くと叫んでいた。柔らかい身体がいっぱいに折り曲げられ開かれていた。
「お願いです、そのまましばらく・・・。」
源吾が動きを止めて見下ろした。菊門を押し開いて、腹の中まで届いた男の先が内襞(ひだ)を探っているのがわかる。覆いかぶさる圧倒的な肉体に包み込まれ、呑み込まれてしまう様に思った。二つの身体が今一つに結ばれていると実感できた。自分の男根が二人の間にそそり立っている。胡蝶はそれに手を添えた。
「切腹を・・・、必ず・・・。」
胡蝶が見上げて言うと源吾が頷いた。指の中ではち切れそうに膨れる肉の刃を握り締める。

ゆっくりと抽出が始まった。名を呼ばれ、名を呼んだ。何度も呼ばれそれに応えた。ただ一途に貫かれている感動に魂が震え、果てる予感に身体が震えた。逆巻く海が目の前にあった。飲み込まれて頭の中が真っ白になる。胡蝶丸は甘美な苦痛と死を体感していた。すべての雑物が消え、腹切る誓いを確かめた。男として散るために、今魂が凝縮しようとしていた。生命のすべてが激しく燃焼し、死に向かって駆けた。

抱きしめられ、股間が密着し震えていた。今注がれると思った。固くも結ばれ、刺し貫く剣(つるぎ)が一気に膨張し、熱水が身体の中心に迸(ほとばし)った。狂うたように手がしごいた。胡蝶が咆哮を上げる。握る刃が命を噴き上げた。

すべてを解き放ちすべてをゆだねていた。恍惚と満ち足りた気分だった。大きな手が優しく肌を慰め抱いた。細い指は名残り惜しげに肉を這った。
「胡蝶よ、此の世などはひと時の夢。よいか、そなたはもう色稚児ではない、わしと契った武家念者ぞ。武家の衆道は死ぬる契り、ともに腹切りて死に、次の世までも永劫離れまい。」
固くも深く結ばれた余韻を確かめ、胡蝶丸は涙を止められなかった。もう自分は一人ではないと思った。源吾の腹を撫でさすり、腹切る決意を込めて自分の腹を撫でた。すでにもう未練とてなく、死ぬることなど怖くなかった。今このように死ねることが幸せとさえ思えた。今は疑いも迷いもなく、これが自分の運命と確信した。
窓から差す月の光の中で、静かに至福の時が流れていた。


衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 七

2005-12-01 | ◆小説・kiku様

 衆道者の切腹

月も傾きもうすぐ空が白み始める。
「後れてもならぬ。名残りは尽きぬ、逝くか。」
死ぬる支度とて何ほどのこともなく、新しい下帯だけを互いに締めた。
「そなたはこれを。」
源吾が自分の脇差を差し出した。
「わしはそなたの短刀を使わせてもらおう。」
鞘のままに各々膝前に置いて、二人は向かい合って胡座を組んだ。
源吾にはすべてが夢のように思えた。俺は今衆道に殉じ、この若者に腹切らせるために死ぬる。生きたいと思って生きてきたのではなかった。心の底で腹切り死にたいと望みながらも果たせず、その機を求めて彷徨っていた。そしてやっと辿り着いた。何もかもが今終わる。これでいい、これであの方との約束も果たせる。

死を前にして胡蝶丸はすでに色稚児とは見えぬ。
「胡蝶よ、そなたはもうわしと同心。これは情死ではない、男として衆道契りに殉じて死ぬる。最期は刺し違えて共に逝こうぞ。」
「私は契りに殉じて切腹致します。」
しっかりした声で前を見て礼をした。か細く見えた身体も、頼もしくも凛々しく見えた。

胸元から腹を撫ぜ下ろすと、胡蝶丸は不思議にも懐かしい思いに捉われた。切腹する、今自分は腹を切る、そう言い聞かせて下腹を揉んだ。自分は今男子として死ぬる。色稚児と蔑すんだ者たちの顔が浮かんだ。かって見た腹切る若者を思った。あのように今死ねる。男の証しがすでに誇らしげに立ち上がっていた。鞘を払い刀身を懐紙で巻いた。息苦しい緊張にすべての筋肉が硬直し震えていた。息が出来なかった。大きく息を吸う。肌が紅潮していくのがわかる。張りつめた静寂の時が流れていた。

ぎこちない手の動きが、激痛への怖れと闘っているのをうかがわせた。細腰伸ばして腹を撫ぜ揉む姿はさすがに哀れとも見える。源吾は黙ってそれを見ていた。遠い記憶が浮かぶ。そうだ、やはりこれはあの時の俺だ。源吾は心の中で叫んでいた。あの時俺は恐ろしさにかられて逃げた。恐怖が蘇る。彼は自分を励ますようにふぐり袋を握り締めた。

胡蝶丸が意を決して突き立てる。虚しく肌を傷つけて刃先は跳ね返された。前に屈んで幾度か突き立てようと試みるが非力は覆えず、腕が震えてためらいの傷をつけるばかり。
「恥ずかしゅうございます、私にはやはり・・・。」
悔しさに涙がこぼれた。
「切れませぬ・・・。このような軟弱者、いっそ楽に殺して下され。」
膝を崩して嗚咽をもらした。

源吾が前の短刀を取る。布で巻き込み握り締めた。両膝立ちに伸び上がる。もう迷いはなかった。すべての筋肉に力を込めた。下腹を撫で揉む。一瞬懐かしい顔を見た。自分の前で見事に腹を切っていった人々が誘っていた。
「源吾、男子(おのこ)として果てよ。」
声が聞こえた気がした。
「見よ胡蝶。」
源吾が叫んだ。呼ばれて顔を上げる胡蝶丸。その刹那、源吾は両手で振りかぶった短刀を腹にたたきつけた。白い股間が一気に赤く染まっていった。
「後れるでない、造作もないこと。そなたの想いも見せてもらおう。」
苦痛に顔を歪めながら、前を睨んで声を震わせる。
「うむぅぅ・・・、さあ・・胡蝶・・・男子であろうが・・・。」
「源吾様・・・。」
伸び上がり、腹に突き立つ短刀を握ったまま源吾は目を離さなかった。しばらく二人は見詰め合った。
「契ったであろう、死に遅れては・・ならぬ・・・。」
逞しくも厚い胸板が震えて汗を噴く。
「契った・・・。死に遅れる・・・。」
胡蝶丸の心の中で何かが弾けた。不思議な光景が浮かぶ。周囲の人々が次々と腹を切っていた。男も女も腹切り悶えていた。源吾の中の記憶だと胡蝶丸は直感した。源吾が目で頷いた。
「そうだ、そなたはわしだ。あの時のわしだ。切れ、切るのだ。死に遅れてはならぬ。」
すべては錯乱の中の夢であったのかも知れない。

胡蝶丸は見詰め合ったまま膝立ちになる。操られているように両手で握り締めた刃を腹にたたきつけた。刃先は肌を突き破り臓腑までも貫いた。激痛が走った。
「あううううう・・・。」
唇を噛み締めて叫びをこらえる。腹に突き立つ刃を握って、膝立ちに若者の肉のすべてが震え痙攣していた。血がゆっくりと滴り始める。
「それで・・・よい・・。ようした・・・。」
二人はすべてを共有しているのを感じていた。心が通い合い一つになった。源吾が満足そうに顔をほころばせる。
「共に逝こうぞ。」
源吾の膝間はすでに血の池、腰を頼んで右に割いた。傷口が開いて、臓物さえもが溢れ垂れた。
「うむうううう、むうううう。さあ、わしに倣うて・・・。」
励まされて、胡蝶丸も腰悶えさせながら引き回す。
「あううう、うううう。」
身を捩じらせ、喘ぎ呻いた。
「胡蝶・・・。見事ぞ、見事な切腹ぞ。」
源吾がにじり寄り、胡蝶の腹に刺さった脇差を引き抜いた。胡蝶丸も源吾の腹から短刀を抜き出す。互いの胸に刃先を当てた。これが最期としばらく見詰め合う。
「逝こうぞ。来(こ)よ。」
胡蝶丸が見上げながら身を投げる。源吾が胸板突き上げると、骨を断ち肉を裂く手応えを感じて刃先は背までも貫いた。胡蝶丸の目が満足そうに腕の中で見上げていた。
「これで・・・、これでもう・・・。」
男として散る甘美な死が胡蝶丸に訪れようとしていた。突き上げる快感が全身を貫いた。何度も精を放つ。抱きしめられて、彼はゆっくりと闇に包まれていった。

刺し違えるはずの短刀が、胸肌を裂いただけで胡蝶の手からこぼれて転がった。胸に脇差を突き立てられたままの胡蝶を横たえる。血達磨になりながら源吾は死に切れぬまま残された。
「やはりわしは、楽には死ねぬか。胡蝶の顔を見ながら逝くのが幸せかもしれぬ。」
転がった短刀には手が届かず、脇差は胡蝶を貫いて抜きもならず。流れ出す血が力を奪っていく。やっとすべてが終わったと思った。激痛に襲われながら安堵で満ち足りた気分だった。意識が朦朧としていく。寄り添うて死が訪れるのを待つ。眠るごとくの顔を見ながら美しいと思った。見ているだけで心が安らぐ。
「待っていよ、わしもすぐ行く。もう離さぬ。そなたはわしをここまで導いてくれた。」
源吾は愛おしそうに髪を撫でた。二人の魂が溶け合う気がした。苦しみはもうなかった。安らかな静寂の中で気が失せていく。いつか外が白み始めた。


衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 八

2005-11-30 | ◆小説・kiku様

 衆道者の最期

騒がしい足音で源吾は気が醒めた。まだ自分は生きているのか。身体はもう動かなかった。周囲を目で探る。雑兵と目が合った。
「見ろ、まだ息がある。」
足で蹴られて仰向けにされた。
「腹を切ったようだがふんどしが緩んでおるわ。」
あざ笑うように、槍の穂先で血に染まった下帯を跳ね除けられた。源吾は虚ろに見上げているしかなかった。
「若い方は見事に果てているとゆうに、こ奴はマラを立てて死に切れぬような。」
見下ろす雑兵たちがどっと笑った。血まみれの男根が天を衝いて猛っていた。
「尻を突いて果てさせてやれ。」
また笑い声が響いた。源吾は四肢を開いて見下ろされていた。
そうじゃ、胡蝶は見事に果てたであろうが。わしの身体はどうしようとも構わぬ、胡蝶には触れるな。男たちに言おうとしたが声にならなかった。

「笑い声が聞こえたが・・・。このようなところで何をしている。先に進まねば斬り捨てる。」
武士が入って来て一喝すると、男たちが慌てて出て行った。一人残った武士が周囲を見渡す。胡蝶を見、源吾を見てさすがに様子がわかる。
「衆道念者でござるか。」
優しい眼差しで武士が言った。源吾が目で頷いて笑う。
「羨ましいご最期じゃな。」
しばらく見詰め合って心が通うた。
「介錯仕ろう。」
見下ろして、武士が槍先を源吾の喉元にあてた。
『かたじけない・・・。』
声にならぬが、見上げて礼を送り目を閉じた。

源吾の脳裏を一瞬の内に夢が駆け抜けた。微笑む胡蝶が現れる。衆道契りを交わした武士が現れ胡蝶丸と重なった。周囲に幾つもの懐かしい顔が笑っていた。
「源吾、ようした。待っていたぞ。」
逞しい体に抱きしめられ貫かれた。快感が全身を走り抜けた。

鈍い音を立てて槍が喉元を貫いた。その瞬間、源吾は目を一杯に開いて武士を見上げた。仰け反りながら口から血が溢れ出す。何かを伝えようと唇を震わせたように見えた。股間にそそり立つ男根が、命水を噴き上げて宙に放った。拡げた四肢を痙攣させながら放ち続け、やがて満足そうに目を瞑った。
「仔細は知らぬが衆道者(もの)には幸せな最期、さぞや縁(えにし)の深い二人であろう。両人ともに、満足そうな顔で果てておられる。蓮の台(うてな)で仲睦まじゅうお暮らしなされよ。」
心の込もった合掌をして武士は部屋を出ていった。
外では、侍達が待っていた。
「何をしておられた。手柄に遅れましょうぞ。」
「よいわ、すでに勝ちは決まった。根切りの手伝いなどはしとうない。ここには誰も立ち入らせてはならぬ。火をかけよ。」
「何を見られた。」
「衆道者が腹を切っておった。」
足軽が周囲から火を放つ。燃え落ちるまで、くだんの武士は動かなかった。
見上げるともう日は高く、最後の砦も落ちようとしていた。

 


          完


あとがき

2005-11-29 | ◆小説・kiku様

 あとがき


稚児というのは平安の頃からあったものです。寺院や武家の女性の入れぬ場所で、男の子が幼い頃から修行を兼ねて日常の奉仕をしました。寺でも有髪のまま、男ばかりの世界で華やかさを競ったといわれます。稚児の上限は十七~十八歳ぐらいまでといわれて、必ずしも男色の奉仕者であったわけでもないのです。
いわゆる小姓というのは、常に武将の身辺の用事を務め、警護の役目もありました。その中でも特別に寵愛を得た者は夜伽の相手もしました。主人の性欲の処理、セックスのお相手をしたわけです。これが「稚児小姓」です。この頃、男色は恥ずべき行為ではなく、歴史文献に残る男色恋愛も少なくはありません。色稚児が職業的に成立していたかは筆者の想像ですが、江戸の頃には男色を専門にした男娼がいたのは事実ですから、戦国の頃になかったとも言えないように思います。

信長の行った根切り(皆殺し)は凄まじかったようで、幼児さえも助ける事を許さなかったといいます。捕らえられた者は戦闘員か否かを問わず、男女構わず殺したといわれています。歴史に残る比叡山掃討はあまりに有名です。
戦場での略奪陵辱は茶飯のこと、生きて捕らえられれば辱めを受けて殺される。雇われ雑兵には軍律などは期待できなかった。根切りとなればその恐怖は想像を絶するものだったでしょう。陵辱を怖れ、自害した者も多かったといいます。胡蝶丸は死を覚悟して、その恐怖を紛らすように自慰をする。死を前にした昂揚が命の燃焼を誘うのは本能かもしれません。男であることの主張であるのかもしれない。死なねばならぬなら男子(おのこ)として死にたいと男性のシンボルを握りしごき精を散らす。蔑まれて生きてきた彼にとっては、腹を切って死ぬのはせめても男としての魂の救いであったのかもしれません。

胡蝶丸は自分の出自を語りません。彼が切腹して果てたいと思ったのは、彼の血に武家の血が流れていると想像させます。源吾に腹切ると誓わせた武士の生まれ変わりだったのかもしれません。あるいはかの武士の魂が乗り移ったのかもしれない。いずれにしても、彼が源吾に運命的直感を感じるのは、潜在意識に刷り込まれた前世からの因縁であったと思わせます。

胡蝶丸は元々同性愛者ではありません。色稚児は生きる手立て、女の相手もしたかもしれない。衆道契りを結んだ経験から、源吾は男色に偏見がなかったと思えますが、彼も男色者ではありません。死の予感と男同士の交わりから、抑えていた過去の記憶がよみがえり始めます。胡蝶丸がその記憶をより鮮明に浮かび上がらせる。過去の記憶と胡蝶丸の存在が絡み合い、導かれるように源吾は腹切る覚悟を求められます。

衆道というのは、武家の間で行われた男性同性愛の事といわれますが、恋愛感情だけではなかったようで、戦場で生死を共にする契りであったともいわれています。互いに男として生命の飛沫を迸らせて契り誓うのです。互いの血を吸って交わす、義兄弟の誓いがイメージとして近いかもしれません。片方が女性的に受け入れる男性同性愛のセックスとは、趣を異にする交わりであったのではないかと思われます。

源吾は勇敢な戦闘者です。体中の傷がその勇敢さを示しています。しかし彼には、自分が腹も切れぬ卑怯者との負い目がありました。忘れようとして心の底に沈めていた記憶があります。胡蝶丸の手で男根(おとこね)をしごかれ、男同士の交わりから腹切る契りを思い出します。胡蝶丸のものを含んだ時には、彼もすでに運命的な出会いを感じていたのかもしれません。戦場でなで斬りに殺される予感から、彼の腹切り死にたいという願望がよみがえり始めます。しかし、源吾はすぐには気付きません。胡蝶丸を誘いながらまだ生きる道を探そうとします。若者が嬲(なぶ)られ辱められて殺されるのを見て、胡蝶丸に男として誇りを失わずに死なせてやりたいと思います。その時彼の脳裏に過去の自分と胡蝶丸が重なります。彼に腹を遂げさせることは自分自身の負い目を消すようにも思えます。

源吾は胡蝶丸に衆道契りを求めます。それは彼を自分と同化させる儀式と思えるのです。胡蝶丸もそれを感じとり受け入れます。彼は性の奉仕者としてでなく、一人の男として源吾に契り応えたといえます。男女の性交は、互いの情愛を交わし確かめる行為といえますが、彼らのそれは互いの覚悟を確かめ魂を同化させる儀式だったといえます。その時二人の魂は重なったでしょう。互いの生を共有していると実感できたのです。

腹を切るには相当の気力と体力を要するといいます。意思はあっても、色稚児であった胡蝶丸には切腹は難しかったでありましょう。源吾に励まされ、彼の中に潜む血の記憶が彼に切腹を遂げさせます。彼らはこの時、別の肉体を持ちながら既に魂は一つに溶け合っていました。周囲を囲む魂に見守られて、本懐通り男子(おのこ)として胡蝶丸は死を迎えます。源吾は彼の最期を見届け、宿年のわだかまりが解けた思いの中で死を迎えようとします。

源吾の最期を見届けた武士は、衆道の情愛を知るとみえます。彼の「羨ましい」という言葉に、契りを交わしながらも想いを遂げられなかった過去を感じさせます。源吾と契りを交わした武士が乗り移っていたのかもしれません。源吾の命が消える瞬間、すべての魂が重なり溶け合います。

彼らにとって切腹腹切りは、男としての誇りを保ったまま死に臨む唯一の方法と思えるのです。腹に刃を突き立てる時、既に此の世のすべてのしがらみ屈辱は消えて、男として死に立ち向かうピュアな精神だけが彼らを支配するのです。自らの肉体に加える苦痛こそは、ただ無垢な魂を昇華させるための闘いであったように思えます。

筆拙く、このような言い訳を付け足す事をお許しいただければ幸甚に存じます。
最後にこのような拙作に連載挿絵の労をお取りいただいた「切腹ごっこ」様に、感謝の言葉を述べさせて頂きます。ありがとうございました。


       kiku 拝