エジプトなどの中東地域の観光地で、かなりしつこい売り子に遭遇することがあります。
彼らは日本語を話しませんが、英語は話すので「I don’t need.」とか「I don’t want any of these.」など、思いつく限りの英語で断るのですが、彼らはひるみません。
また、旅行書には「要らない」はアラビア語で「マ、ビッディ」と書いてあるので、使ってみるのですが、これも通用しません。
そんな時に「ボクラ」というと、売り子たちはまるで憑き物が落ちたように、納得した様子で去っていくのだそうです。
「ボクラ」とは「明日」というアラビア語です。
「またね」ぐらいの意味なのかと思うのですが、効果が絶大ですのでもっと深い意味を持っているのだと思います。
アラブの人々の性格を表現する言葉で「IBM」というものがあります。
IBMと言ってもアメリカの有名なコンピューター会社のことではありません。
Iは「インシャッラー」という「(アラーの)神が望むならば」という意味のアラビア語で、約束の後に必ず付けるのだそうです。もし、約束が果たされなかったとしても、それは神が望まなかったからということになります。
但し、「(アラーの)神が望むならば」ということですので、ムスリム以外の人々は使わないのが無難な言葉なのでしょう。
Bは冒頭で書いた「ボクラ」という「明日」という意味のアラビア語です。
Mは「マーレイシュ」というアラビア語で、本来の意味は「気にしないでください」ぐらいなのだそうでが、「ごめんなさい」とか「仕方ないね」という状況で使われるようです。タイ語の「マイ・ペンライ」に良く似た言葉かも知れません。
IBMでアラブ地域での仕事の進め方を例示するとこうなるそうです。
上司:いつ出来る?
部下:ボクラ、インシャッラー(明日、(アラー)の神が望むなら→明日やります。)
上司: インシャッラー((アラー)の神が望むなら→了解。)
(翌日)
上司:出来ていないじゃないか。
部下:マーレイシュ(→ごめんなさい。)
上司:マーレイシュ(→仕方ないね。)
こんな感じだそうです。
ちょっとオーバーだろうと思うのですが、アラブ地域で仕事をすると胃が痛くなると良く聞きますので、当たらずとも遠からずというところでしょうか。
もっとも、アラブ地域でも欧米人や日本人に感覚が近い人も居て、約束をきっちり守る人も多いのだと思います。
「ボクラ、インシャッラー(明日、(アラーの)神が望むなら)」と言う表現は、日本人の私には何とも無責任な言葉に聞こえるのですが、彼らにとっては無責任な言葉では無いのでしょう。
観光地で売り子に「ボクラ」と言ったとき、売り子は「ボクラ、インシャッラー」と言われたと思うのでしょうか。「明日、運がよければ売れるんじゃないかな」ぐらいの言葉なのだと思います。
「要らない」と直接的に言うより「明日、運がよければ売れるんじゃないかな」と遠まわしに断る。そんな奥ゆかしさを好む民族なのかも知れませんし、明日と(アラーの)神を信じて希望を失わない人々なのかも知れません。
昨年末、シリアの停戦が成立しました。今まで何度も停戦し、その都度破られて来た停戦です。
シリアの人々は「停戦? ボクラ、インシャッラー(運がよければ、明日も続くさ)」と思っているのでしょうか。
その言葉の中には少しですが、希望が残っているのだと思います。
中東の紛争地域から難民として逃げ出す人は「ボクラ、インシャッラー」とさえ言えず、希望を失って新たな地に移って行くのではないでしょうか。
中東の紛争地域で、紛争が終わり、大人たちが「ボクラ、インシャッラー」と笑顔で言えるようになったら、
子供たちにも笑顔が戻る、
そんな気がします。
このブログの画像はisis_chanプロジェクトに参加されているイラストレーターの方々からお借りしています。isis_chanプロジェクトの目的は、ISが発信する残酷な画像のインターネットでのヒット率を低下させることだそうです。isis_chanプロジェクトにはガイドラインがあり、ムスリムと彼らの信仰の尊重、暴力的・性的表現・政治的主張の禁止等々決められています。私のプログは極力このガイドラインに沿って書いているつもりですが、抵触していると思われたら、それは私の文章力の無さから来るものだと思います。
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