伊予鉄は松山と郊外を結ぶ鉄道線と松山市内の路面電車を持つ地方私鉄で、鉄道事業のほか、中予地方をエリアとして路線バス・貸切バス事業を展開している。また、百貨店、旅行代理店、観光関連、人材派遣など、愛媛の経済の中核を担っている企業体です。この伊予鉄の軌道線は市内電車と呼ばれ、松山市駅を拠点に、松山城を囲む形で運行されている環状線と、道後温泉と松山市駅前、JR松山駅前、本町六丁目を結ぶ系統で運行されています。車両は営業用の電車38両と事業用の電動貨車1両、「坊っちゃん列車」用のディーゼル機関車2両、客車3両の計44両。
現在、営業用電車の主力は1951年から1965年にかけてナニワ工機(現アルナ車両)と帝國車輛(現東急車輛)で製造された50形です。50形はヴァリエーションが豊富で、製造年によって2つのタイプに分けることができる。前期形はすべてナニワ工機の製造で、深い屋根の重厚な外観を持ち、古い工法で製造されています。写真の58号は1954年製。いわゆる「バス窓」が特徴的な車です。
後期形は軽量構造を採用していて、屋根の浅い軽快なスタイルが特徴的。製造当初からすべて間接非自動制御方式で、Zパンタ、50kW電動機を装備しています。写真の66号は1962年に製造された車両です。当時のバス車体の工法を取り入れた軽量車体で、側面に補強用のリブとリベットが特徴的。
この75号は1965年製の車両で、リブとリベットがなくなっています。
2000形は1964年製の元は京都市電。1979年からこの松山で働いています。京都の軌間が1435mmの標準軌であるのに対して、伊予鉄は1067mmの狭軌であるため、台車枠はそのままで、車輪軸だけ狭軌に合わせる改造を施したとのこと。松山市内線の主力である50形の初期型がもともと京都市電をモデルにして製造されたので、この京都市電からの転入組が松山市内を走っても、まったく違和感はありません。
写真は最新鋭の2100形です。この電車はノンステップになっていてお年寄りにも乗りやすい。音も静かで乗り心地も上々。ただ、定員が少ないので混雑しやすいのが難点。また、「ペーー!」っと鳴るフォーンの音には幻滅です。電車なんだからもう少し重厚感があってもいいんでは?
そして、伊予鉄市内線で忘れてならないのがこの「坊ちゃん列車」で、松山観光の目玉として2001年から運行しています。このオールドタイマーの復活にあたってはいろいろ苦労があったようで、その最大の問題が蒸気機関車に付きもののばい煙。それを克服するためになんとディーゼルエンジンを車体に仕込むという荒業を採用しています。
蒸気機関車ならではのドラフト音は車外スピーカーによって鳴らし、煙突からは発煙装置から水蒸気を使用したダミーの煙を出すなど、小憎いまでの工夫がなされています。また、運転台には前方監視用のモニターテレビがあったりして、古いスタイルと最新設備のアンバランスさが可笑しいですね。この伊予鉄、こういった地方私鉄にしては珍しく黒字経営を維持している優良企業とのこと。黒字の所以は頻繁に走っている便利なダイヤにあるのかもしれませんね。