ある年の晩秋、私は宮城県気仙沼市に向かっていた。一ノ関から乗った大船渡線のディーゼルカーは外が暗闇に包まれていくにつれて閑散とした車内になっていった。
気仙沼駅に着くと外は雨。歩いているうちにかなり激しい雨になっていった。予約していた旅館は駅から遠い。駅と町が離れていた。
すっかりずぶ濡れになってしまった私を見た旅館の主人は優しい言葉で迎えてくれた。その晩は雨音をBGMに過ごした。
一夜明けて、太陽がまだ上りきらないうちに旅館を出た私は、行きと同じように旅館と駅を結ぶ道を歩いた。雲の切れ間から少しずつ太陽が見え始め、グレーの空がクリーム色に変わり始めた。その空の下には港が広がっている。気仙沼港は大きな港だ。世の中のフカヒレの多くはここ気仙沼産だそうだ。
気仙沼で活動するアイドルがいる。その気仙沼を含めて南三陸の海岸沿いは二年前に津波を受けて変わり果てた姿になった。
私は二年前にニュース映像を見ながら気仙沼の惨状と自分がたどった旅の記憶を重ねて胸が張り裂けそうな想いに駈られた。自分にはどうする事も出来ないけれど、ささやかながら自分と縁がある町が今苦しみを受けている。
その気仙沼の町が人々の力と助け合いで少しずつ復興への道を歩んでいると、その後テレビで放送されたドキュメンタリーで知った。その頃、気仙沼で活動するアイドルがいる事を知った。名前は「SCK GIRLS」という。
「もう被災地もだいぶ復興してきたのだから、つらい思い出を蘇らせるような追悼テレビ番組は流さず、静かに震災の日を迎えてはどうか?」
そんな声もあちこちから聞こえてくる。しかし、誰かが伝える事、語っていく事は無駄ではない。忘れないという気持ちがあるからこそ、色々な事を考える事が出来る事は確か。地震や津波はいつやってくるかわからないのだ。未来のためにも記憶を紡ぐ事は尊い筈。
SCK GIRLSは地道な活動を続けている。それでいいんだとも思う。彼女達だって、笑顔を届けるためにアイドルになった筈だ。必要以上に持ち上げる必要もないし、勿論安易な同情を寄せるのも何か違う。それでも、何かを伝えていく事は出来る。「忘れない」ために。
彼女達はこうして地元で撮られたMVをYouTubeを通じて全世界に発信する事で、二年前に手を差しのべてくれた人達に感謝を伝えているという事なのだろう。MVに付いている字幕、記事に貼ったバージョンは英語だけれど、いくつかの外国語が用意されている。撮影はカメラ雑誌に「トーホクスクールガール」というポートレートフォトを掲載した事もある、写真家の小林幹幸氏。そこに写し出されているメンバーと風景は、ありのままの姿であり、ありのままの気仙沼なのだと伝えている。
【PV】 SCK GIRLS - ReGenerasion 【English version】