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【論説】普天間基地にオスプレイはいらない(下)―軍拡もたらすオスプレイ、沖縄の声を踏みにじる押し付け

2012年06月13日 | 沖縄・高江
▼岩国への搬入、そして試験飛行の実施へ

 6月9日、日米両政府が配備前に米軍岩国基地(山口県岩国市)へ搬入し、試験飛行を行う方向で調整していることが明らかになりました。機体が分解された状態で米国から海上輸送され、7月中にも岩国に到着し、組み立てと試験飛行を行った上で普天間飛行場に移されると見られています。

 しかし、岩国市の福田良彦市長は11日、先行搬入への協力要請にきた神風英男防衛政務官との会談後、記者団の質問に答えて、岩国基地への先行搬入について「不安要素が払拭できていないので了解できない」と述べ、回答を留保しました。神風政務官は同日午前、山口県庁で二井関成知事とも会談しましたが、知事は「冷や水を浴びせられた。今の時点では反対せざるを得ない」としています(沖縄タイムス、6月11日)。

 日米政府は、以前に一度、本州への一時駐機を検討しましたが、岩国市など地元の理解を得られないとして断念しました。本土のメディアは、一度本土を経由して普天間に配備することで沖縄の反発を和らげる狙いがあるという見方を示していますが、仮にそうだとしても、このような対応が配備に反対する沖縄の人々に対して真摯に向き合うものではまったくないことは言うまでもありません。

 このことは、岩国の地元紙である中国新聞が6月10日の社説で的確に指摘しています。

「配備に反対する沖縄の理解を求めるというのが日本政府の思惑のようだが、果たしてどうだろう。本当に沖縄県民の心情に寄り添うのであれば、普天間への配備そのものを見直すよう米側に迫るべきではないか」
(中国新聞、6月10日社説「オスプレイ岩国搬入 普天間配備こそ再考を」)。


▼岩国搬入の本当の意図は?

 さらに言えば、日米政府の本当の意図は、「沖縄の理解」を得ることではなく、むしろ沖縄の強い反対を押してでも配備の実行を確実なものにすることにあるかもしれません。13日付の『しんぶん赤旗』は、次のように報じています。

「防衛省の神風(じんぷう)英男政務官は11日、岩国市の福田良彦市長と会談し、岩国基地へのオスプレイ陸揚げ・試験飛行を受け入れるよう求めました。市側の説明によると、日米両政府は、沖縄の現状を踏まえ、オスプレイの配備方法を検討。その結果、船舶で輸送・陸揚げし、機体の整備・試験飛行をする場合、技術的に実施可能な「防衛施設」として米軍の那覇港湾施設(沖縄県那覇市)と岩国基地が挙げられました。このうち岩国基地は「那覇港湾施設に比べて、より安全・円滑に沖縄への配備が実施可能との結論が得られた」としました」(しんぶん赤旗、6月13日

 これによれば、オスプレイの機体を岩国に先行的に陸揚げし試験飛行を行うのは、「沖縄の現状を踏まえ」れば、岩国のほうが那覇軍港に比べて「より安全・円滑に沖縄への配備が実施可能」だからだということです。これは、那覇軍港に船で機体を陸揚げしようとすれば、配備に反対する沖縄の人々によって阻止されかねない、そのため、岩国で機体を組み立て整備し飛行できることを確認してから、満を持して普天間へ配備しようとしていると読むことも可能でしょう。




▼オスプレイが飛ぶのは、沖縄だけではない?

 10日の中国新聞の社説は、オスプレイ配備の影響は本土の基地にも現れるだろうという、極めて重要な点を指摘しています。

「岩国にとっても、一時的な負担では済まない可能性が考えられる。米側がオスプレイの普天間配備を急ぐのは、海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)に4月に配備した強襲揚陸艦と一体運用するため。そう指摘する専門家は少なくない。佐世保に近い岩国に今後も飛来する懸念はくすぶり続ける」。

 ここに指摘されるとおり、オスプレイが沖縄に配備されるということは、他の在日米軍基地にも飛来する可能性を意味しています。

 日本政府は一貫して、米軍の部隊運用に関わることには口を出さない姿勢をとっています。
 在日米軍の日本における地位を定めた「日米地位協定」第3条は、「施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる」と定め、きわめて広汎な権限を米軍に与えています。これにより、日本側は米軍の行動を何ら制限できないことになります。

 米軍機による騒音被害に対して沖縄・嘉手納基地や東京・横田基地の周辺住民が起こした爆音訴訟では、日本の司法は、騒音被害をもたらす米軍機の飛行は違法だとしながら、住民が求めた夜間飛行の差し止めなどについては、米軍の基地管理権を理由に却下しています。

   ※日米地位協定の問題点の詳細については、こちらをご覧ください。


▼オスプレイがもたらす質的軍拡

 オスプレイがもたらす危険は、墜落の危険にとどまりません。それは、在日米軍がより攻撃的な能力を強化することにつながるものです。最後にこの点を見ておきましょう。

 オスプレイは輸送を任務とする軍用機であって攻撃機ではありません。オスプレイと交代することが目指されている中型ヘリCH-46と比較すると、飛行速度が2倍、積載量は3倍とされます。これだけなら、大きな輸送機という印象かもしれません。
 しかし、憲法学者の水島朝穂さんは次のように指摘します。

「この飛行機の特徴は、数百キロ遠方に、ある程度の量と質の部隊を、昼夜を問わず、迅速に集中投入できる点にある。オスプレイ1機で24人の兵員を運べる。155ミリ榴弾砲を吊り下げたまま飛行できる。従来のヘリによる空中機動作戦では迫撃砲程度だったものが、重火器を組み合わせた作戦が可能となった。(中略)海兵1個大隊(975人)を75海里(約140キロ)離れたところに一定の重火器を含めて展開するには、オスプレイ1個飛行隊(12機)の4回飛行、3時間で可能という。地上基地からだけでなく、空母部隊との連携で運用すれば、どこの地域にも緊急展開できる。その意味で、単なる輸送機が配備されるのではない。海兵遠征軍の殴り込み能力が格段に強化されるという意味での「危なさ」である」
(水島氏のサイト「平和憲法からのメッセージ」、直言「魚を食う鷹――オスプレイ沖縄配備の思想 2012年5月21日」)。

 オスプレイの配備は当然、米軍の能力向上の一環として進められています。それがもたらす具体的な能力とは、米海兵隊の緊急展開能力の向上であり、攻撃的な軍事介入の戦端を開く能力を向上させることになるでしょう。

 オスプレイの配備は、普天間のほかにイギリスにも12機の配備が計画されています。こうした動向は、柔軟性と機動性の拡大を追求することで、軍事費削減圧力に対応しつつ、世界的な軍事的プレゼンスを維持しようとする現在の米軍の戦略に沿うものだと言えます(米国の軍事戦略については後日、稿を改めて扱いたいと思います)。

 *   *   *

 以上に見たように、オスプレイはそれ自体、様々な問題を抱えています。
 それを沖縄の反対の声を踏みにじる形で配備することは到底許されることではありません。

「琉球新報」は、沖縄本土「復帰」の日の翌日にあたる5月16日の社説で、「国策」のためにと原発や基地を押し付けられた「福島と沖縄の近似性」が言われるようになったことについて、次のように書いています。

「(沖縄と福島が)違うのは、沖縄では銃剣を突き付けられて土地を収奪された点だ。「誘致」などしていない。
 もっと大きく異なる点もある。原発事故後の福島に、政府が新たな原発を造るだろうか。県議会も知事も反対しているのに、原発を強要することなどできるだろうか。今、政府がしようとしているのはそういうことだ」(琉球新報、12年5月16日社説「復帰記念式典/差別と犠牲断ち切るとき 沖縄に民主主義の適用を」

 日本政府、そして、沖縄の基地を「仕方のないもの」「必要悪」とする本土社会は、この問いに正面から向き合うことなしに、基地や「安保」を語る資格はないと肝に銘じるべきだと思います。(了)



  文責:吉田遼 (NPO法人セイピースプロジェクト、NPO法人ピースデポ奨励研究員)


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